呪い師のおばあさん
「さて、前置きはいいね。さっさと本題に入るよ」
おばあさんはそういうと、上半身を少し前に乗り出して私の目を見つめた。
「ミクゥ、あんたは光の呪いにかかっているね。それも最近になって発動した。そうだね?」
「は、はい。そう、です」
私が返事をすると、おばあさんはふむ、と目線を上下に動かして私の全身を観察し始めた。少ししてトン、と私の胸元の痣がある付近を指で軽くつつく。
言い当てられたことと、痣の位置を正確に当てられたこともあって、ドクンと心臓が嫌な音をたてる。
その反応を見たからか、元々わかっていたのか、おばあさんはこの辺りだね、と言いつつ目を閉じて集中し始めた。き、緊張する!
「……やっぱりあたしにその呪いは解けないね。同じような呪いを人にかけることは出来るが。ヒッヒッ」
「おばあさん、無駄に脅かすようなことを言わないで」
おばあさんの言葉に軽く震えていると、マクロがムッとしながらフォローを入れてくれる。うう、ありがとう。
「ただのばばあの戯言さ。うまいこと聞き流しな。さてミクゥ。あんたは一つ勘違いをしているさね」
「勘違い、ですか?」
聞き返すと、わからないかい? と言いながらおばあさんはゆったりとソファの背もたれに寄りかかる。そして衝撃的なことを教えてくれた。
「呪いを解く方法ならわかるって言ってんのさ」
「えっ!? 本当ですか!?」
驚いた。私は一生、この呪いとうまく付き合っていくしかないと思っていたから。隣を見れば、マクロも軽く目を見開いている。
「どんな呪いも解呪方法はあるもんだ。当然のことさね。それがたとえ魔法適正の呪いでもね」
まぁ、属性を司る神々は己の愛だと主張するだろうけど、と続けるおばあさんはさらに詳しく説明してくれた。
魔法の適正には、それぞれの属性を司る神がいると言われていて、一つの属性しか持たない者は、特別その神に愛されているのだそう。クレアからは、「光に愛されているのだ」って聞かされていたけど、属性に神様がいるっていうのは初耳……。
つまり、私は光の神様に愛されているってことなのかな。なんだか、話が壮大になっていてビックリするよ。
もちろん、神様のお話だからどこまで事実かはわからないけど、呪い師のおばあさんが言うと妙に説得力があるよね。
続けておばあさんは、愛はいつだって呪いと紙一重なのだ、と言う。人に害を成す時点で、それは呪いで間違いないと断言した。
「あたしはその神に会ったことはない。けど、ただの神話ってわけでもない。神は存在はしていると思ってるよ。ただ見たことがないからね、あたしは実際に目に見える『人』の方を信じるし、味方をするのさ。呪いなんて、解呪しちまいな」
「え、えっと。解く方法があるのはわかりました。で、でも、解呪なんてどうやって……?」
そう、問題はそこだ。この呪いが解けるというのなら私も解きたい。そりゃあ、特別愛してくださった光を司る神様には申し訳ないけれど……。命を脅かされながら恋をするのはやっぱり怖いもの。
すると、おばあさんは肩を竦めてからニヤッと笑う。
「要は、神様のやきもちなんだよ。特に光は嫉妬深い。つまり、光の神よりも深い愛情を注ぐ相手を見付け、それを証明すればいいのさ」
「……もったいぶらないで、ハッキリ言って。おばあさんの悪い癖」
ニヤニヤしながら言うおばあさんに対し、マクロが不機嫌そうに口を挟む。
おばあさんは、あたしはあんたのそういうところが嫌いだよ、と言いつつも、再び私に目を向けてさらに笑みを深めた。
「あんたを愛してくれる相手とキスすることさ。ヒッヒッ、おとぎ話みたいだろう? だが、本当だよ。古からお姫様の呪いを解く方法ってのは変わらないのさ」
「え、ええええっ!?」
ボッと顔から火が出るんじゃないかっていうくらい、一気に体温が上昇した気がした。だ、だって、き、キスって言った! おばあさんは今間違いなくキスって言ったもん! ひえぇっ!
「当然、相手はミクゥが恋をしたヤツじゃなきゃダメだ。しかも、そいつもミクゥに本気の愛情を向けていないとダメ。この本気の愛情ってのが一番厄介なんだけどねぇ」
「ど、どういうことですか?」
まだドキドキの収まらない胸を押さえつつ聞いてみると、ニヤニヤ顔から一転、おばあさんは難しい顔で教えてくれる。
「生涯、ミクゥだけを愛せる相手じゃないとダメってことだよ。神がその辺をどんな基準で判断しているのかは知らないが、ただ相手が好きでキスをするだけじゃダメなのさ。ミクゥが相手からの愛を向けられずにそのことで苦しむなら、光の神がその苦しみから解放してやるってことらしいね。要は殺すんだから神の考えることってのは理解に苦しむさね」
な、なんだか解呪が絶望的に思えてきた……。そんなの、私だけの力じゃどうにもならないもの。
好きになってもらえるように努力はしたいし、諦めたくはないよ? でも、生涯私だけを愛し続けてくださいって言えるほど、私はまだ自信がないんだもん。そりゃあ、そうなったらどれほど幸せかって思うけど……。
何も言えなくなってチラッと隣にいる想い人に目を向ける。その人物、マクロは少し何かを考え込んだ後、おばあさんに質問を投げかけた。
「……ねぇ、そもそもなんだけど。光の呪いの内容ってやっぱり本当なの? 噂では聞いたことがあるけど」
「はぁ? あんた、そんなことも知らないでここに来たのかい。……あー。あーあー。なるほどねぇ。あたしゃてっきり二人で来たのはそういうことだと思ってたんだが、まだ早かったってことかい」
「? 話が見えない。質問に答えて」
……待って。今気付いたけれど、マクロは私の呪いがどんなものかを知らないでここに来てくれたんだってずっと思い込んでた。
でも、適性の呪いは一般的にも噂や文献で広まっている話だって知った。そう、村育ちの私が知らなかっただけで。
って、ことは……! 恥ずかしさでブワッと全身の毛が逆立つ。
「一般的に広まっている噂のことかい。細かい部分で違うとこはあるだろうが、だいたいその通りさね」
「そうなんだ。……それじゃあミクゥは今、誰かに恋をしているってことなの?」
そうなるよね! そ、それは貴方です、なんて絶対に言えないよぉ! ど、どうしよう!?






