呪い師の家
「前にもあった。その時、ミクゥは僕の好きな食べ物を聞いた」
「あ……そういえば」
アンジェラを仲間にしようって食事会を開いた時、確かに私はマクロに聞いた。あの時は、少しでも仲間のことが知りたくて、必死で。
甘い物が好きって、教えてくれたっけ。あの時、マクロがすごく食べる人だって知ったんだよね。
「意味のない会話なんかして、変な子だって思った。あの時は」
「うっ」
変な子だと思われていたんだ……。そのことに恥ずかしさとショックが押し寄せて肩を落としかけると、でも、とマクロが言葉を続ける。
「今は、それも悪くないって思う。ミクゥは余計なこと、言わないし。結構その、楽しい」
「そ、そう……? そっか。そっかぁ!」
楽しいって思ってくれていたんだ……! 表情も態度もあんまり変わらないし、迷惑なのかなって心配していたから、そう思ってくれていたのがわかってすごく安心した。
マクロは静かなのが好きかと思ってた、と言うと、それは合ってる、と返ってきてクスッと笑う。でも、人との会話が嫌ってわけじゃないってことだよね? 相手によるってことなんだよね?
マクロが「話していても楽しい」と思う人の中に、私がいたことがすごく嬉しい。
「じゃあ、これからも話しかけていい?」
「……ダメなんて、言ったことないけど」
「……いいとも、言われてないよ?」
ちょっと調子に乗っちゃったかな? そう思ったけど、下から覗き込むようにマクロの様子を窺うと、口をへの字にしてマクロは言った。
「……いいよ」
「……良かった。ありがとう、マクロ」
安心して、嬉しくて、幸せで、心がポカポカした。胸の痣も今なら小さく、薄くなっているかな?
こんな風に素敵な思いが出来るなら、恋もいいなって思ったよ。苦しいこともあるけど、それを忘れちゃうくらいいい気分。今の私はきっと、締まらない顔をしているだろうなぁ。
「今日は調子も良さそう?」
「うん、マクロのおかげかな?」
「僕は何もしてない」
それがそうでもないんだなぁ。もちろん、まだそれを伝えることは出来ないけれど。
この穏やかな時間が、ずっと続いてほしい。そう思った。
辿り着いたのは街の外れにある小高い丘の上だった。林の入り口付近に小さな家が建っていて、そこの呪い師のおばあさんが住んでいるんだって。
丘の上なのに後ろの木々が鬱蒼としているからどことなく暗い。用事がなかったら人は来なさそう場所にあるのはなんでだろう? 静かな場所が好きなのかな。
それにしても結構な時間を歩いたと思うのに、なんだかあっという間だったな。好きな人と一緒にいる時間って不思議。楽しい時間があっという間なのと同じなんだろうな。それだけでウキウキしちゃうな。
「あのおばあさんは、人と嫌な気持ちにさせることがある。気を付けて」
そうだ、今は依頼をしに行くんだから浮かれていたらダメだよね。気を引き締めないと。でも、嫌な気持ちにさせるってどういうことだろう? 掴みどころのない人、ってことといい、まったく想像がつかないや。
先を行くマクロから半歩ほど後ろをついて歩く。家の前でドアをノックするマクロの後ろ姿をドキドキしながら見守った。
でも、ノックをしたのに反応がない。留守なのかな? そう思って首を傾げていたら、マクロが躊躇うことなくドアを開けたから驚く。えっ、いいの!?
「留守だったら、看板が裏返しになってる。ノックは客が来たっていうただの合図」
「そ、そうなの?」
「むしろ、ここで引き返したら永遠に会えないから」
そうなんだ……。返事もしたくないのかな? なんだか不安になってきた。でも、マクロがいてくれてよかったよ。私だけだったら本当に永遠に会えないところだったもん。
「……ああ、あんただったのかい」
ゆっくりと家の奥へ進んでいくと、ゆったりとした暗めのワインレッドのワンピースを着たおばあさんが杖を片手にやってきた。足がお悪いのかな。歩くのが辛そう。あ、だからわざわざ玄関まで迎えに行けないのかも。
「? 僕が来ること、知っていたでしょ」
「そういうことを言うんじゃないよ」
「? 呪い師なんだから知っていても変じゃない」
えっ、知っていたの? あらかじめ、今日行くって伝えてなかったはずなのに。呪い師ってすごいんだな。
だというのに、おばあさんはマクロの言葉に嫌そうに顔を歪めた。
「はぁ……まったく相変わらず空気の読めないガキだね。そちらのお嬢さんは初めてなんだから、雰囲気作りに協力くらいしたらどうだい」
おばあさんは、呪い師っぽく出迎えたかったのに、とブツブツ言いながらゆったりとした椅子に腰掛けた。
ちょっとお茶目な人なのかも。会うまでは怖い人なのかなって思っていたけど、そういうわけではなさそう。
「さ、座んな。相談の内容もわかってる」
「……雰囲気作りはもういいの」
「あんたが言うのかい。はぁ、もう興が削がれたんだよ」
なんだか、マクロとは合わないみたいだね。性格が、というよりなんだろう、タイミングとかそういうのが。どちらの言いたいこともわかる分、苦笑を浮かべることしか出来ない。
あ! というよりも私、まだ挨拶もしてなかった! 進められるがままソファに腰を下ろす前に、慌てて頭を下げる。
「は、初めまして! 私、ミクゥと言います。あの、今日はよろしくお願いします!」
あまりにも唐突だったからか、おばあさんもマクロもポカンと目を丸くしてこちらをみている。ああああ、空気が読めないのは私も同じだったかも!
「くっくっ……! なるほどね。ミクゥっていったね。アンタ、なかなか面白い子じゃないか。おい、クソガキ。アンタの依頼は聞く気はなかったが、この子のためだってんなら手を貸してやるよ」
「……おばあさんこそ、相変わらず口が悪い。でも、助かる」
えーっと、どうやらおばあさんはマクロに対しては口が悪かった、のかな? マクロの印象だと確かに彼の言っていた通りの人だよね。
とにかく! なにがどうなって手を貸してくれる気になったのかはわからないけど、とりあえず第一段階はクリア出来たみたいなのでホッとしたよぉ!






