緊張の朝
今日は痛み止めの薬をもらうために朝から出かける予定だ。マクロと、二人で。
うううううう、そうなの! マクロと二人でお出かけなの! 痛みを抑えることが出来るってことに気が向いていて失念していたよ。
私、今日心臓が持つかな? って。
ちょっと前まで平気で二人きりで歩いていたのに、どうやって普通にしていたか今では思い出せない。恋って本当に怖い病気だよ!
でも、胸元の痣に痛みはない。それどころか、薄くなっている気がするんだよね。これ、痛み止めの必要はあるのかな? っていうくらい。
でも、消えたわけじゃないから油断は出来ないよね。自分のことだもの。薬のこと、しっかり聞いてこなきゃ。
……でも! それとこれとは別だよぉ! マクロと二人だなんてどうしようっ!
「ミ、クゥ!」
「ひゃあっ!?」
突然、背後から声をかけられつつ両肩に手を置かれたものだから、思いっきり変な声が出た。全身の毛が逆立った気がするぅ!
振り向くと、肩を揺らして笑っているクレアの姿が。も、もうっ!
「ご、ごめん! そんなに驚くとは思わなかったのよ」
「クレアぁ……?」
涙目で睨むと、ごめんって、と言いながらクレアがベッドに腰かけた。それから隣をポンポンと叩き、まぁ座りなさい、と微笑む。
私は一つ小さくため息を吐くと、言われるがままにクレアの隣に座った。
「ミクゥったら、すっかり恋する乙女の顔だなぁ」
「……おかしい?」
ニコニコと嬉しそうに笑うクレアに、恐る恐る聞いてみるとそんなわけないでしょ、と軽く背を叩かれる。
「すっごく可愛い! 現実世界でこんなミクゥが見られる日が来るなんて、思わなかったもの」
真っ直ぐ褒め言葉を言われるのは、それはそれで恥ずかしいな……。もごもごと口ごもって俯いていると、隣のクレアも同じように俯く気配を感じた。どうしたんだろう?
「そうさせていたのは、私だよね。……なんだか、今のミクゥを見ているとさ、私、間違っていたのかなぁって思うことがあるのよ」
……驚いた。クレアはいつも自信満々で、自分についてきてって、私を引っ張って行ってくれる存在だったから。だから、こうして自分のやり方に弱音を吐く姿を見ることはほとんどない。そうさせているのは、私なのかな。
弱音を吐けないような状況も、今こうして弱音を吐いてしまった状況も、全部私がいたから……?
「今も不安よ? いつ、ミクゥが死んでしまうかわからない。そんな恐怖に毎日怯えてる。でも、でもね?」
思わぬクレアの姿に動揺している間に、クレアはパッと笑って私の手を両手で包み込んだ。温かくて、力強い。
「恋を楽しんでいるミクゥが見られるのは、自分のことのように嬉しい気持ちもあるの! だからね? 私、これまでずっとミクゥに口うるさく言い続けていたけど、これからは自分の気持ちに正直に生きてほしいなって。そう伝えたくて」
今更何をって感じよねー、とクレアは明るく笑っている。でも、それが空元気なのは見ていてすぐにわかった。だって、私はクレアの妹なんだから。
ギュッとクレアに抱きつく。わっ、と驚く声が小さく聞こえたけれど、聞こえないフリをしてギュウギュウ力を込めて。
「私はね、クレアがいたからこれまで頑張ってこられたんだよ! 毎日楽しいし、いつも気遣ってくれて、ずっとずっと感謝しっぱなしなの! 私が、クレアを裏切って恋をしてしまったんだよ。ずっと私を守ろうとしてくれていたのに! 私が……!」
「……違うよ、ミクゥ。違う」
矢継ぎ早に言い続ける私の言葉を、クレアが静かに遮った。ぽんぽんと私をあやす様に背を叩いてくれる。それから、私たちはお互いのことがすごく大切すぎるだけなんだよ、と言った。
お互いが、大切すぎる、か。その言葉は、驚くほどすんなりと私の心の奥にまでじんわりと浸透していく。
じゃあ、どっちが悪いとかじゃないんだね。私たちはただの、とても仲良しな姉妹なんだ。そう思ったら、フッと肩の力が抜けた。
「それじゃあ、この件でこれ以上何かを言い合うのは、なしにする?」
「ええ、そうしましょ。不毛すぎるわ」
目を合わせた私たちは、フフッと小さく笑い合った。
「私、ミクゥの恋を全力で応援するわ。そのために、昨日はマクロを部屋に送り込んだんだもの!」
「送り込むって……!」
やっぱり昨日のあれはクレアからの激励だったんだ! 今にして思えばありがたいって思うけど、ちょっと事前に知らせるくらいはしてくれても良かったと思う。本当に驚いたんだから!
……あ、いや、でも、前もって知っていたらそれはそれで緊張しすぎてパニックになっていたかも。結果的には一番よかったの、かな? クレアにはやっぱり感謝だね。
「でも、ありがと。私、頑張る!」
「ん! せっかくだから楽しんできてね! デートっ」
「や、やめてよぉ! せっかく落ち着いてきたのにぃ!」
クレアと話したことで緊張が和らいだのにまたドキドキしてきちゃった。蒸し返さないでぇ!
「私も、あっちのフォローをしにいきますかぁ。別に放っておいてもいいんだけどさ……」
「え?」
「ううん、なんでもない。今日のミクゥも可愛いわよ! じゃね!」
クレアも今日はやることがあるのかな? 依頼とか?
よし、私も痛み止めの薬が出来たら、また仕事頑張らないと! そうだよ、今日は薬を貰いに行くのが目的なんだから! で、デートじゃないんだからね!






