逆戻り
「あれ? キャンディスたちは?」
ふと、見回してみるとこの場にはエクトルとリニ、マクロの他にはクレアしかいない。聞くと、マリノは仕事があると言って早々に帰り、アンジェラは妙に疲れたからと酒場に向かったのだそう。
キャンディスはずっと残りたがったみたいだけど、そろそろ帰らないとキーファが飢え死ぬぞ、というリニの言葉に渋々帰って行ったんだって。
「キャンディスに頼まれちゃった。エクトルとララを二人きりにしないでよねーって」
「ふふっ、言ってそうだね」
コソッと耳打ちでクレアが教えてくれる。その姿が簡単に想像出来て思わず笑っちゃった。でもそう言いたくなる気持ちは今ならなんとなくわかるよ。恋敵が私にいるわけじゃないから想像でしかないけど、同じ人を好きって言う人がいて同じ状況だったら、私もずるいって思うような気がするから。
私のものってわけじゃないのにそういう感情を抱くなんて、私も心が狭いなぁ。しかも想像でしかないのに。
「座れば」
「ま、マクロ。うん……」
いつまでも立ったままだった私に、マクロが声をかけてくれた。それだけですごく嬉しいって思っちゃってる。単純だなぁ、私。
で、でも、その、どこに座ろう? マクロの隣が空いているけど、そこに座ってもいいってこと、だよね? 座ればって言ってくれたし。
そもそも、どこに座ろうがどうでもいいって思っているかもしれないけど。
き、緊張する! さすがに恋を自覚した直後だもん、すぐ隣に座るなんて心臓が持つか心配だよ!
「じゃ、お言葉に甘えてーっ!」
「あ……」
私がウダウダ考えている間に、ララがサッとその席に座ってしまった。残念なような、ホッとしたような複雑な気持ち……!
ううん。ちょっとだけ、ホッとしたかも。だってやっぱり隣は恥ずかしいもん。動揺を悟られないように、私はすぐ目の前の空いている席に座った。
「ねー、マクロ。お話しようよ!」
そんな時、ララの明るい声が耳に入る。目の前に座っているからつい目がいっちゃう。そう、目の前に座ってるから仕方なく、だもん! 盗み聞きじゃないよ!
「なんで」
「なんでって! もっと知りたいからだよ! ラナキラのメンバーとは仲良くなりたいんだもん。まだマクロとはお話してないじゃない?」
「別に知られたくない」
「えー? つれないなぁ」
ララは身を乗り出して、マクロの顔を下から覗き見るように質問をし続けている。ち、近い! 私が近付いているわけじゃないのに照れちゃう。重症だなぁ、これは。恋は病気だぁ。
「ミクゥがね、マクロは誤解されやすいだけで本当は優しいって言っていたから。本当かな? って確かめたかったんだけど」
「らっ、ララ!!」
ララの爆弾発言に思わず毛が逆立ってしまう。や、やめてよぉ! 恥ずかしいからーっ!! そんなララの言葉を受けて、マクロが少し驚いたようにこちらを見た。目が合ったことに心臓がドキリと跳ねる。
「……買い被りすぎ」
「そっ、そんなことない、と思う!」
いつも通りの感情が読めない表情と声だったけど、なんとなく少しだけ照れているような気がした。それにつられてどうしても顔に熱が集まってきたけど、なんとか言葉を返すことは出来た。ふぅ。
マクロは、本当に優しいもの。買い被りなんかじゃない。絶対に! だから、私は……。
「ふぅん。なるほどねー。じゃ、もうしばらく観察しちゃおっと」
「近い。離れて」
ほんのりと痣の辺りが温かくなるのを感じた次の瞬間、ララがマクロとの距離をさらに詰めたことで一転、急激に熱くなり始めた。
な、なんで……? 反射的に胸元を押さえて呻く。熱い、痛い……!
「! どうしたの」
「マク、ロ」
目の前でこんな風に苦しみ出したら驚くよね。マクロはすぐ席から立ち上がってこちらに駆け付けてくれた。
うぅ、申し訳なさすぎる。でも、この痛みをコントロールすることは出来ない。どうにかうまく付き合っていくしかないんだもん。我慢する、そう決めたばかりなのに。もうちょっと耐えられないものかな、私?
「ミクゥ!!」
「クレア……」
「突然、苦しみだした。ねぇ、何かの病気じゃないの」
「マクロ……。そう、ね。ちょっと事情があるのよ」
続いて駆けつけてくれたのはクレアだ。良かった、事情を知っているクレアが来たなら大丈夫。うまく誤魔化してくれるはず。
「ミクゥ、まさか」
「エクトル、悪いんだけどあとは食事を並べるだけだからやっておいて。私はミクゥを部屋に連れて行くわ」
「あ、ああ。それは構わないけど……」
せっかく下に降りてこられたのに、ベッドに逆戻りかぁ。せっかく向き合おうって決意したのに。一緒に食事、したかったな。
クレアに支えられながら二階に戻る時、チラッとこちらを見つめ続けているマクロの姿が見えた。それだけで、痛みが少し和らいだ気がした。
「じゃあ、あとで食事を持って行くから。もし、誤魔化すのが難しくなったら……私の判断で話してもいいかしら。もちろん、人によっては詳しいことも言わない」
「うん。クレアのこと信じてるから、任せるよ。あ、でも誰に教えたのかは知らせてくれると嬉しいな」
「もちろんよ。それじゃあ、あとでね?」
部屋に戻った時には痛みは引いていて、本当はもう大丈夫なんだけど心配したクレアが今日のところは休んでいて、というので部屋に残ることにした。
私としても、ここで戻ってまた心配をかけてしまうのも申し訳ないから、戻る気にはなれないしね。
あぁ、でもこのままじゃ本当にずっと部屋から出られなくなっちゃう。マクロと会うだけでいつ苦しくなるかわからないから、会わない方がいいのかもしれない。
……痛っ。そっか、それはダメだって痣が言ってくるみたいだ。もう、それじゃあどうしたらいいっていうの。光の呪いの、馬鹿。
窓枠に寄りかかって夜空を見上げ、心を落ち着ける。私は、村から出るべきじゃなかったのかな。そう思ったら痣とは違う、心の奥の方が痛んだ。






