決意
ものすごく痛くて苦しかったけど、だんだん呼吸も楽になってきた。痣は相変わらずそこにあるけど、たぶん大丈夫。何度か大きく深呼吸をして息を整えると、私は改めてクレアに問いかけた。
「もう、大丈夫。それで、この痣について知っていること、教えてくれる?」
「……わかったわ」
クレアは暗い表情で頷くと、自分に寄りかかって座るようにと言う。もう大丈夫とはいえ、なんだか少し疲れてしまったのは確かだから甘えることにする。
ポスッとクレアの肩に頭を乗せると、クレアも私に寄りかかりながらそっと頭を撫でてくれた。なんだか、こうして寄り添うのも久しぶりだな。
「この痣は、恋が成就したら変化するって言われてる。でも、ゲームの中でミクゥの恋が実ることはなかったから、どう変化するのかはわからないわ」
変化するんだ……。そっと痣が出来た部分を指で触れる。今はなんともないけど、さっきはすごく熱くなって辛かったな。恋が実った時は苦しくないといいなぁ。
「逆に、恋が実らなかった時のことはわかる。ミクゥが恋をしたことで苦しむたびに熱を感じるし、少しずつ広がっていくわ。でも、恋によって幸せを感じれば広がりも収まっていくの」
う、予想はしていたけどそれはとても苦しそう。私、耐えられるかな?
でも、毎回さっきみたいに苦しんでいたらラナキラのみんなに迷惑がかかる。やっとひと段落して外に出られるようになったんだもん。私を待っていてくれている人たちのためにも、お掃除の仕事だって再開したいし。
そのためには、恋によって幸せを感じなきゃいけないね。ものすごく難しいよう。それって、どうすればいいのかわからないもん! 苦しむことの方が多そうで前途多難だ。痛みに耐える努力をした方がいいのかも。
あれ、ちょっと待って。そうなると……。
「つまり、恋が実らなかったら……どうなるの?」
「……痣が全身に広がって、ミクゥは苦しむことに、なる」
あの痛みが、全身に……。想像しただけでゾッとする。さっきの時点で息がうまく出来なかったんだもの。あれより苦しくなるんだったら、結果的に死んでしまうっていうのもわかる気がするよ。
そっか。聞いていた呪いは、本当のことだったんだ。疑っていたわけじゃないよ? ただ、実感がなかっただけ。
でも今、恋を自覚して、痛みも覚えて、ようやく理解した。恋によって苦しめば苦しむほど、私は死に近づくんだってことが。
怖い。すごく怖い。どうしてこんな呪いなんてものがあるんだろうって思わずにはいられない。ララやキャンディスはあんなにも恋を楽しんでいるのに、どうして私だけって。
でも、他の人が悪いんじゃない。ううん、誰も悪くなんかない。ただ、そういう病気になってしまったって思おう。すぐに死ぬわけじゃないし、うまくこの呪いと付き合っていけるように努力しなくちゃ。
「……ったいに、絶対に! ミクゥを死なせたりなんかしない!」
震える声でクレアが言った。クレアも怖がってる……! そうだよ、誰よりもずっと私のことを心配し続けていたのはクレアだ。私以上に身を案じて手を尽くしてくれていたのに、私ったら!
「シナリオとは全然違うもの! ミクゥの恋の相手がマクロだなんて思いもよらなかったし……きっとあの運命からは逃れられるわ! あのゲームはかなりやりこんだもの。マクロの攻略を死ぬ気で思い出せば恋もきっと実るわよね。だから、だから……っ!」
ううう、と唸りながらクレアは頭を抱えた。諦めないでいてくれてる。勝手に恋をして苦しんでいるのは私なのに。まだクレアは私のことを助けようとしてくれているんだ。
「死なせない。ミクゥは私が幸せにしてみせるんだから!!」
こちらに向き直って、クレアはギュッと私を抱き締めた。ピンク色の髪と耳がフワフワと私の頬を撫でる。身体が震えている証拠だ。
……クレアには悪いけど、そのおかげで私は肩の力が抜けたよ。側で怖がっている人がいると、逆に冷静になる感覚っていうのかな。当事者は私なのに、呑気すぎるよね。
でも、嬉しいんだ。クレアがこうして一生懸命になってくれているのが。私のこの思いを、初めての恋を否定しないでくれた。協力するっていってくれた。
それはとっても心強いことだし、私もそんなクレアのためにも絶対に生きなきゃって思った。
いつまでもされるがままじゃダメだ。私は変わらなきゃいけない。自己主張が得意じゃなくて、いつもクレアについて回るしかない私だったけど、これからはもっと自分から行動しないと!
「クレア、ありがとう。私、負けないから!」
「み、ミクゥ……!」
ギュッと抱き締め返して、私はクレアに決意を告げた。よしよし、と頭を撫でるとクレアが泣き出してしまったけれど。
「それにね? 私、この気持ちを大事にしたい。マクロのことが、好きっていう気持ち」
たぶん、クレアがこうして泣かなかったら私は痛みや苦しみに怯えているだけだったと思う。自分の気持ちに蓋をして、我慢していたと思う。そうして人知れず死を迎えたかもしれない。
でも、私のために必死になってくれるクレアがいるんだもん。私が頑張らないわけにはいかないよ。
それにきっと、恋は楽しいはずだ。だってララがあんなに笑っていたもの。マクロを思う気持ちが苦しいで染まってしまうのは嫌だ。それだけは、絶対に。






