呪いの痣
苦しい。恥ずかしい。どうしよう。苦しい。
部屋に戻ってバタンと勢いよくドアを閉めて、私は壁にもたれかかったままズルズルと床に座り込む。もう立っていられなかった。
どうしたんだろう、私。病気なのかな? こんなに変な気持ちになったの、初めて。胸が苦しくて、何をしたらいいのか、何を考えたらいいのか、何もかもがわからなくて思い切りわーっ!! って叫びたくなる、そんな変な気持ち。
「う、うぅぅぅ」
でも、ここで叫んでしまったらみんなを驚かせちゃう。私は急いで立ち上がり、ベッドに飛び乗って布団を頭からかぶった。そして、唸る。
「ミクゥ、入るわよ」
そこへ、クレアの静かな声がドアの向こうから聞こえて来た。そうだ、あの場に置き去りにしちゃってた。心の中でごめんね、と言いつつも、どうしても声は出てこない。だって、今口を開いても唸り声しか上げられない自信があるもの。
だけど、返事をしない私に何も言うことなくクレアは部屋に入って私のベッドに腰かけた。そしてそっと布団の上から私の頭を撫でてくれた。
「マクロに、恋をしたのね」
「!」
そして、優しい声でそう言った。
恋? これが、恋なの? じゃあ、じゃあ私は! ガバッと布団から起き上がって私はクレアに抱きついた。
「わ、私……! ごめ、クレア……! 私、どうしたら」
「落ち着いてミクゥ。大丈夫よ」
私は恋をしたら死んでしまうかもしれないというのに。だからあれほどクレアが必死になって止めてくれていたんだもの。まさか自分が誰かに恋をすることがあるだなんて、夢にも思わなかった。どこか、他人事だったんだ……。
「約束したでしょ? もしミクゥが恋をしたら全力でバックアップするって。だからミクゥも、一番に相談するって。忘れちゃったの?」
「わ、忘れて、ない」
そ、そうだ。約束した。クレアは私を絶対に死なせたりなんかしないって言ってくれた。それなら私も、ちゃんと自分の口から一番に相談しなきゃいけないよね。だって約束だったんだもの。
私はきちんと座り直してクレアに向き直る。これまでずっとクレアに頼りっきりで、きっとまた頼りにしてしまうと思う。だけど、諦めない。私が弱気になってちゃダメだよね。
「クレア、聞いてくれる?」
「うん」
「私ね……マクロと一緒にいると、心があったかくなるの。もっと話を聞きたいなって思うの。色んな顔が見てみたいなって思うの」
「……うん」
ちょっと不器用で、人から誤解されがちだけど本当はすごく責任感が強くて、優しくて。表情もあんまり変わらないし、言葉数も少ないけど、思ったことは正直に飾らない言葉で伝えてくれる。
「マクロは私をラナキラの仲間としか思っていないと思う。それどころか、戦力にならない私をまだ仲間とは認めてくれていないんじゃないかって」
「そんなこと!」
反論しかけたクレアに微笑みかける。そうじゃないかもしれない。ちゃんと仲間だって思ってくれているかもしれないけど、それはどっちでもいいんだ。自己中心的な考えかもしれないけど。
「それでもいいの。だけど、この気持ちを諦めたくはないって思うよ。知ってもらいたいし、出来れば受け止めてもらいたい」
でも、なぜだか今はとても顔を合わせられない。ドキドキしちゃって、何を話したらいいのかわからなくなる気がするんだもの。ついさっきみたいに。これまでどうやって話していたのか思い出せないよーっ!
そ、そういえば私、この前マクロに抱き締められたっけ。……ああああああっ! なんで今思い出しちゃったの!? 私っ!?
「もう、ミクゥ。顔が真っ赤よ? 何を思い出したのかしら。まぁいいわ。それで?」
「そっ、それで……!」
苦笑しながらもクレアが続きを促してくる。うぅ……言うよ、言うぅ。
「私、マクロがすごく、すごく好き、なんだ、ね……」
言葉にすると、余計に恥ずかしいよう。でも、そっか。そうなんだ。これが好きってことなんだ。これが誰かに恋をするってことなんだ。
その人のことを思うと胸がギューッてなって、でもなんだか幸せな気持ちになって。それから、その人を悪く思う人がいたら悲しくなって、腹が立ったりもして。
マクロのことになると、自分のこと以上に感情が揺れちゃう。自分では抑えきれないくらいに。これは確かに病気かも。
今でさえ、苦しいんだもの。思いが通じ合わなかったらもっと苦しくなるのは簡単に想像出来てしまう。
私の気持ちは知ってもらいたい。でも、知られてもし拒否されたら? たっ、立ち直れない気がする……! 想像しただけで胸が痛いもの。あ、れ? なんだか、本当に呼吸が苦しく……?
「ミクゥ!?」
「くれ、あ……」
心臓がズキズキと痛む。針で刺されているみたい。それに、すごく熱い……! 何、これ?
次の瞬間、私の身体がカッと光った。え、光った!? 何が起こっているの!? でも光ったのは一瞬で、すぐに収まったみたいだけど。
「っ、ミクゥ! 胸元を見せて!」
「え……?」
私が光ったのを見ると、クレアはすぐにハッとなって私の服の胸元をグイッと引っ張る。それから息を呑んだ。なんだかよくないことが起きている気がして、私も胸元に視線を落とす。
「これ、痣……? こんなの、なかっ……うっ」
「ミクゥ!!」
見ると、私の胸元には星形のような太陽のような、何かが光っているような形の痣が浮かんでいた。もちろん、これまでこんなのはなかったよ。なんだろう……この痣の部分が特に痛むみたい。
「クレ、ア。これがなにか、知って、いるの……?」
とても悔しそうな顔をしたクレアが私を抱きかかえてくれている。だから、確実に何かを知っているんだと思う。私は黙ってクレアの言葉を待った。
「……うん。これは、呪いの痣。ミクゥが恋を自覚したから、出てきたんだわ」
そして、暗い表情でそう教えてくれた。






