ドタバタ大騒ぎ
「ちょ、ミクゥ! 本当なの!? 本当に恋をしちゃったの!? 誰っ、相手は誰なのぉ!?」
「これは、結構な一大事じゃないか……?」
ララの発言を受けて最も取り乱したのはクレアだ。アンジェラまでもが真剣に悩み始めてしまったし、これ、私が恋している前提で話が進みそう! 止めなきゃ!
「お、落ち着いて? 私、恋なんてしていないよ? ララの勘違いじゃないかなぁ」
そう、きっと何か思い違いをしているんだと思う。二人で恋について話したこともあったし、それが原因かな。うーん、なんでそんな誤解をしてしまったんだろう?
「違うよ。ミクゥが気付いてないだけ! ぜーったい、ミクゥは恋してるんだから。あの反応は絶対にそう! 私のお遊び感覚とは違うと思う!」
けど、ララは自信満々に断言しちゃった。違うのにーっ! 私のことなのに私より自信たっぷりなのってどういうことっ?
「っていうか、アンタお遊びだったわけ? エクトルのこと。そんな軽い気持ちで好きだなんだって言わないでよね!」
「お遊びの何が悪いの? 想いはちゃんと真剣だよ? 誰が素敵とか、かっこいいとか、好きだなって思うのは自由じゃない。わたしはこれが恋だって思っているもん。何も間違ってないよ」
「な、なんなのよぉ! ちょっといい子かも? って思ったキャンが馬鹿だった! ララ、アンタ性格悪いっ! 友達なくすんだからね!」
「ひどぉい! そう言う方が性格悪いんだから!」
ララとキャンディスが喧嘩になっちゃったよぉ! 一度はなんとかなりそうだったのに、ど、どうしよう。と、そこへ最悪のタイミングでエクトルたちのただいまー、という声が聞こえてくる。な、なんで今ぁ!? もう少し遅くなると思っていたのにっ!
声が聞こえて真っ先に動き出したのはキャンディス。言い合いを途中で止めてすぐに玄関へと走り出した。それを見てララも慌てて追いかける。ドタドタという二人の足音が響き渡り、数秒後にわぁわぁ騒ぐ声が奥の方から聞こえて来た。え、エクトルたち、巻き込まれちゃったんだなぁ……。大丈夫かな?
「仕方ないわねぇ。さ、見学に行きましょ、アンジェラ!」
「ちょ、あたしを巻き込まないでくれないか!? お前は面白がっているだけだろう? 部屋に戻らせろー!」
叫び声を聞いてウキウキと席を立つマリノは、アンジェラの腕を掴んだまま。暴れるアンジェラなんてなんのそのでグイグイと玄関の方に引っ張っていく。
アンジェラは結構強いのに、マリノってばすごい。……なんて感心している場合じゃないよね。私たちも行かないと、疲れて帰って来ただろうに、エクトルたちがかわいそうだもん。
「ミクゥ」
「クレア?」
だけど、一歩踏み出したところでクレアが私の手を掴んで引き留めた。その顔は真剣そのものだ。あ、さっきの話のことかな?
「クレア、大丈夫だよ。本当に恋なんてしていないから」
「ううん、そうじゃないの。あー、それも絡んでくるんだけどそうじゃなくて!」
クレアは一度深く呼吸をした。それから声を潜めて私に顔を近付ける。
「……これは、イベントなの。それも、ヒロインララがラナキラに加入した後に起こるイベント」
「イベント……? でも、まだララはラナキラに正式加入していないよ?」
確かにそうなんだけどイベントであることは間違いない、とクレアは言う。
なんでも、ラナキラのメンバーと仲良くなってうまくやっていけそうという矢先に、ヒロインのララが今みたいに気になる男の子の名前を出して、恋をしたいって言いだすのだそう。
そこで、今一番気になっている人を言った時、その攻略キャラのライバルと大喧嘩になる、っていうイベントがゲーム内であったんだって。
「本来なら、ここでララと大喧嘩するのはミクゥなのよ。でも、今喧嘩したのはキャンディス。本来キャンディスはマクロのライバルキャラだし……色々とシナリオが違うのに、ところどころイベントは起きていて妙な気分だわ。だからこそ、心配なの」
クレアはガシッと私の両肩を掴んだ。真剣な紅い瞳が私の目を真っ直ぐに見つめてくる。
「本当に、恋はしていないの? しちゃダメってわけじゃないのよ。うー、出来ればダメだけど、もしそうなら隠さないで? ミクゥの助けになりたいだけなの!」
今にも泣きだしそうな顔だ。クレアの必死さが伝わってくる。クレアはいつも、真剣に私のことを考えてくれて、色々と悩んで、たくさん助けてくれて。それなのに、私はのほほんと流されているだけ。
そうしていてほしい、ってクレアに言われているからって、それに甘えていていいのかな? きっと、よくない。私だって、守られてばかりじゃ嫌だもん。
だから、質問にはきちんと答えたい。でも私にもよくわかんないんだよ。恋がどんなものかなんて、見当もつかないんだもの。
「してないよ、たぶん。だって、わかんないんだもん。別に、私はマクロのこと、大切な友達だって思って……」
「マクロなの!?」
「え? ……あ」
口をパクパクとさせてそれ以上は何も言えないでいるクレアを見て、ようやく私は自分が今何気なくマクロの名前を出していたんだってことに気付いた。
まだ、クレアにもララにも誰とは聞かれていなかったのに、なんでマクロって言っちゃったんだろう。
「も、もしかして、私……マクロを?」
「僕が、何?」
「えっ、ひゃぁぁぁっ!? ま、マクロ!?」
ポツリと呟いた瞬間、背後から突然声をかけられて思い切り叫んでしまう。しかも、ちょうど今考えていた人物がいたんだもん。心臓が口から飛び出るかと思ったよ!
「……驚かせるつもりはなかった。ごめん」
バクバクとうるさく騒ぐ心臓を抑えながら振り向くと、ビックリしたように目を丸くしたマクロが謝ってくる。そんなことない、こっちこそごめんって言いたかった。言いたかったんだけど……!
「…………っ!!」
彼の顔を、なぜだかちゃんと見られなくて。すごく、すごく恥ずかしくて。もうその場にいられなくて。
私は、黙って二階に駆けあがってしまった。






