価値観の違い
「ど、どうしてそんな風に思ったの? わ、私が恋をしているように見えた?」
動揺を抑えることは出来ない。だって、恋をするということは、私にとっては命の危険が伴うんだもの。敏感にもなってしまう。
そんな私を見て、ララは何かを思ったのかクスクスと笑っている。た、たぶん、思っているような可愛らしい理由で動揺しているわけじゃないよ?
「ミクゥって本当に可愛いね。隠しごととか、出来なさそう」
「う、それは確かにそうだけど。でも、恋はしてないよ? これは本当」
私はすぐに否定したけど、ララは「えー、そうかなぁ?」と肩口に垂れる黒い髪を指に巻き付けて遊んでいる。あ、これは信じてないなぁ?
「恋しているように見えたけどなぁ。けどただ単に、ミクゥが初心なだけかも」
初心、かなぁ? 自覚はないけど、からかわれてすぐに赤面したりするから、違うと否定もしきれないな。
「けど、男の子も一緒に同じ屋敷で生活しているんだもん。少しくらい、いいなぁって思う人がいてもおかしくないじゃない? わたしはたまに、ドキッとすることあるよ? ミクゥはないの?」
続けて、ララは頬杖をついて楽しそうにそう言った。雰囲気が、無邪気なララではなくて大人っぽい方のララになってる。うー、この状態のララには逆らえる気がしないよー。
「ドキッとすることは、それはあるけど……でも、だからって恋にはならないよ?」
「甘いっ!」
「わっ!?」
私が答えると、突然ララが大きな声を出しながら指差してきたので驚いて椅子がガタッと音を立てた。あ、甘いって、何が?
「恋っていうのは、そういうドキッから始まるものなんだよ。ミクゥはさ、本当は恋をしているのにそうじゃないって自分で否定し続けているだけかもしれないじゃない」
自分で、否定し続けている? 私が? そう、なのかな。でも、恋がどんなものかわからないから判断が出来ない。それに、私は命の危険があって……。
私が黙っていると、ララはじゃあさ、と身を乗り出してきた。
「恋とはいかないまでも、素敵だなって思ったりしない? ウェールズとか、大人の男性って感じでわたしはカッコいいって思ったよ。キーファはだらしないけど、やる時はやる男って感じで素敵だし」
あ、それは私も思うよ。みんなそれぞれ違う魅力があって、とっても素敵な人たちだもん。
「エクトルはなんといっても顔がいいよねっ。でもキャンディスが狙っているんだっけ。ま、恋にライバルはつきものだからそこはいいとして、なんだかんだで面倒見がよさそうなところがいいなって思うなー」
今のところ、自分はエクトルが気になる、とララが妖艶に笑った。キャンディスとはライバルになっちゃうけど、その方が燃えるとかなんとか。
なんだか楽しそうだなぁ。仲間がライバルだなんて、仲違いしたりしない? 大丈夫? って私は思うんだけど。
「リニもいいよね。ちょっと馬鹿なところがあるけど、懐に入れたものは絶対に守るって感じが男らしくて。んー、リニに恋をする可能性もあるなぁ」
「えっ、恋って色んな人にするものなの?」
「そーだよ! 素敵な人にときめいたら全部恋っ! その中で、本気になれる人がいたらきっとそれが本物の恋だと思うんだー」
ララはうっとりとしながら語っている。そこで私はようやく気付いた。そっか、ララの中で恋っていうのはもっと気軽なものなんだね。
私が仲間のことを素敵だって思ったり、好きだなって思ったりするのと同じことをララも思っているんだ。それが、ララにとっては恋という認識なんだと思う。価値観の違い、ってことかな?
なぁんだ、よかった。私、恋という単語に過敏になっていただけかもしれない。こんな風に軽く捉える考え方はすごく新鮮で、ちょっと肩の力が抜けたよ。
だけど、続けられた言葉に私の胸がギュッと苦しくなった。
「あ、でもマクロはパスかな。背がそんなに高くないし、無口で不愛想だし。きっと一緒にいてもつまらないもの」
「え……」
マクロと仲良くはなりたいけど、友達以上には見られないだろうな、とララは苦笑しながらそう言った。
なんだろう。変な感じ……。こう、モヤモヤするっていうか。こんな気持ちは生まれて初めてだった。
「そ、そんなことないよ! マクロは、不器用でわかりにくいだけで、本当はすごく優しいの。人に厳しいけど自分にも厳しいし、責任感が強くて、すごくカッコいいよ!」
気付いたら立ち上がっていた。
そう、マクロはカッコいいよ。彼には良いところがたくさんあるのに、人には伝わりにくいから本当にもったいないなって思う。もっと、みんなにも知ってもらいたいよ。マクロが、どれだけみんなのことを考えて行動しているかってこと。
彼のいいところは、もっとみんなに知ってもらいたい。少なくとも、誤解されたままなのは悲しい!
「そ、そっか。ごめん、よく知りもしないで適当なことを言っちゃったね……」
見れば、驚いたように目を見開いてララがこちらを見ている。あ、私ったら!
「ご、ごめん! こんなに強く言うつもりはなかったの。ただ、誤解したままなのは良くないって思って、それで!」
「ううん、今のはわたしが悪かったと思う。ミクゥがマクロを思ってそう言うのは当然だよ」
いつもは大人しいミクゥの大声が聞けて得したしね、とララは笑ってくれる。う、反省だぁ。
でも、なんであんなに強く言っちゃったんだろう。普通に言えばわかることなのに。私、ちょっと怒ってしまったのかな? ララがマクロを誤解してしまうのも無理はないことなのに、短気だったかも。
「それに! おかげでよぉくわかったよ。ふふっ、そっか。ミクゥはそうなんだね」
「え? わかったって、何が?」
「ううん、何でもないっ! わたし、ちょっと庭で身体動かしてくる!」
私が大反省しているのとは反対に、ララはどこか満足そうに何度も頷いている。な、なんだろう? 何に納得しているんだろう?
気になるけど、ララはあっという間に席を立って庭の方に小走りで向かってしまったから、聞くことが出来なかった。






