ララの事情
キャンディスとマリノの二人は手際よく私の朝食を準備してくれた。申し訳ないからと手伝おうとしても、泣いてる子は座ってなさい、の一点張り。な、なんだか恥ずかしいのと嬉しいのとで今度は別の意味で落ち着かないよぅ。
でも、二人の気持ちが嬉しい。温められた野菜スープは二人の真心がこもっている気がした。
こうしてだいぶ落ち着いたところで、私は二人から他のみんなのことを聞くこととなった。エクトルとマクロ、そしてクレアの三人は、昨日の事件のその後を聞くために朝から出ているんだって。リニとアンジェラも、警備隊の元に行ってそのまま一晩戻らなかったから、後処理も一気に終わらせてるんじゃないかって。
わわ、あの二人、もしかして眠れてないんじゃ!? うー、それなのに私ったら! 一人でぐぅぐぅ寝ちゃったよー!
「ちなみに、昨日は獣車で寝ちゃったミクゥのこと、みんなの総意で起こさないことに決めたんだって聞いてるよ。着替えはもちろんクレアがしてくれたって」
「貴女には、みんなゆっくり休んでもらいたかったのね」
罪悪感に襲われていると、そんな私の考えを見透かしたようにキャンディスとマリノが教えてくれた。そっか……わざわざ起こさないように気をつかっていたんだ。
おかしいと思ったんだよね。いくら精神的に疲れていたとはいえ、まったく目覚めないなんてことないと思うもん。一度寝たら起きないのはクレアの方だしっ。
「それから、ミクゥが連れ帰ったっていう女の子のことなんだけど」
「あ! そうだよね! ララは今どうしているの?」
忘れていたわけじゃないよ? ただ、どう切り出していいかわからなかっただけ。そっか、二人もララのことはちゃんと聞かされていたんだね。ホッと胸を撫で下ろす。
マリノから聞くところによると、ララは昨晩空いている一室に通されてからというもの、ずっと眠っているみたいだそう。
「一応、体調を崩していたら心配だから明け方に様子を見させてもらったわ。熱を出しているってこともなく、よく眠っていたわよ」
「そっか。ララもすごく疲れていただろうからなぁ。安心して眠れているならそれがいいよ。ありがとう、マリノ」
出来れば、時間を気にせず眠らせてあげたいな。私より前に誘拐されていたっぽいし、私よりずっと疲れがたまっていると思うから。そう思っていた時だった。
「あら。噂をすれば、ね」
「え? あ……ララ!」
マリノの視線を辿って振り返ると、ちょうどララが階段から下りてきているところだった。私の姿を確認したララは、すぐにホッとしたように笑みを浮かべる。
「あのー、すごくたくさん休ませてもらっちゃった、かも?」
そして、気まずそうにそう言った。その気持ちはとってもよくわかるよ! だって、私もさっき同じことを思ったからね!
階段を下りたところで立ち止まっているララを迎えに行き、私は彼女をテーブルへと案内した。それから椅子に座らせて、マリノとキャンディスにララのことを紹介する。もちろん、ララにも二人のことを紹介したよ。
「色々と話したいこともあるだろうけど、まずは腹ごしらえ! ね、ララ。お腹空いているでしょう?」
「え、えへへ。実は、もうペコペコ!」
恥ずかしそうにしながらも、素直に答えるララはなんだか可愛い。マリノやキャンディスも微笑んでその様子を見ていてくれた。
私の分は二人に準備をしてもらったので、ララの朝食は私が準備すると言い張った。といっても、すでにあるものを温め直すだけなんだけど。
身体に染み渡る温かな野菜スープとパン。それからせっかくなのでオムレツも作って出してあげる。チーズも入れたから、食べ応えもあるはず。
「うわぁ、美味しそう。い、いいの? わたし、今何も返せる物をもってないよ?」
「ララって、ミクゥにちょっと似ているところがあるね? そんなことで遠慮しなくていーの! 気になるっていうなら、後で片付けとか手伝ってよね!」
「それはもちろん! 食べた分、しっかり働かせてもらいまーっす! でも今は……いっただっきまーす!」
キャンディスに言われて元気に返事をしたララは、すでにいつもの調子を取りもどしているように見えた。うんうん、まずはしっかり食べて、体力回復してもらわないとね。
ララが食べている間、マリノとキャンディスが時々ララに質問を投げかけている。どこかに行く予定だったのか、とか、これまではどこにいたのか、とか。そういえば、詳しいことは私も聞いてなかったな。
「ここがどこだかもわかってないから、場所は何とも言えないけど……。わたしは、地図にも載ってないような小さな村で生まれて育ったの。食べることに困ってるほどじゃないんだけど、ちょっと貧乏で、さ。十五になったら働きに外へ旅立つって決めていたの。それで、誕生日を迎えた翌日に村を飛び出したんだ!」
もちろん、無断で飛び出したわけじゃないよ、とララは笑う。村のことも家族のことも大好きだから、大きな街で働いて、そのお金で家族に美味しい物を食べさせたいんだって。
家族思いなんだなぁ。でも、その途中で人攫いの組織に連れ去られて、今に至る、と。ううっ、それはすごく不運だったね……。私たちはそろって同情の眼差しを向けていたと思う。
でも、それを受けてララは気にした様子もなく元気に告げた。
「でも! おかげでミクゥたちに会えたもの。これはきっと運命! いい出会いが出来てよかった! ね、だからさ」
改めて、私をこのギルドの仲間入りさせてくれない? ララはほんの少し大人っぽい流し目で私たちにそう言ったんだ。






