【クレア】自分たちのためだけに
「諦める気はないのね?」
「当然だろ」
はぁ、このままじゃ埒が明かないわ。私はため息を吐いて冷めた目でエクトルを見た。
「そんな先の保証のない案を出されて、私が納得すると思ってるの? 具体的にどうするかって聞いてるのよ。ちなみに、ミクゥを口説くのは具体的な対策案を出してからじゃないと、徹底的に邪魔してやるから」
私の言葉に、一瞬エクトルがグッと言葉を飲み込んだのがわかった。思いが強いのは美徳だけれど、それだけじゃなんの役にも立たないのよ!
「ララとは、あまり関わらない。話す時も、誰かと一緒になるようにする」
「ふーん、なんにも考えてないってわけじゃないのね」
ま、及第点ってとこね。現状、そうする以外に対策は打てないもの。けど、一つ大事なことを見落としてる。私は声を潜めた。
「ねぇ、ララは……私たちと同じじゃない、わよね?」
「!」
これだ。すでに私とエクトルが前世の記憶を持っているのだ。他に同じ境遇の人がいてもおかしくはないと私は思ってる。
それがヒロインだったら? ララがそうじゃないとは言い切れないもの。もちろん、そんなこと全く関係ないことだって考えられるけど。
「あり得ない、とは言えないよな。そうか、あんな妖艶小悪魔キャラが転生者の可能性、か」
「……妖艶?」
なんだか聞き捨てならない単語を聞いた気がする。妖艶って、あのララが? 確かに小悪魔系だけど、私の知るキャラは無邪気で、天然系なんだけど。そう考えていると、エクトルがああ、と納得したように説明をしてくれた。
「ギャルゲーの方は、乙女ゲームの方とは少しキャラが変わってるんだよ。無邪気で天然だったララはミクゥの性格と被るからって、制作者がララに妖艶さを加えたって話。あの小悪魔ぶりは計算だったって設定でさ」
「なにその男が喜びそうな設定」
「……偏見だろ。違うとも言い切れないけど」
あの男心をくすぐるキャラが、計算? それ、すごく性質が悪くない? となると……。
「……うちに来たあのララは、一体どっちなのかしら」
「そこも、要調査、だよなぁ……」
出来れば無邪気な方であってほしい。いや、天然ほど厄介な存在はないか。悪意があったらどっちも厄介なことに変わりはないし。
それに、ララも前世持ちだった場合、そもそも性格が全然違うってことも考えられるんだから。エクトルだって、素は爽やか王子様とは程遠いわけだしね。
はぁ……。私には前世の記憶があるから、この世界では何もかもが上手くいくって信じてたあの頃が懐かしいわ。嫌な未来を知っているなら変えることが出来るって、自信満々だった。前世の知識を使って異世界チートだー! って思いかけたこともあったわよ、正直。
だけど、やっぱりここは現実なんだなって思う。色々と上手くいかないことばかりだもの。でも、だからこその人生なのよね。
それに、諦める気もない。ララがどっちの性質を持っていても、前世を持っている、いないにしても、ミクゥに害のないように注意して見るだけ。
「とにかく! 今後の方針は、エクトルはララと二人にならないっていうのを徹底してよね。ララの対応は他の……そうね。私も対応するから」
私がそう提案をすると、エクトルがポカンとした表情でこちらを見てきた。助けになってくれるのか? ですって? 本当だったら助けになんかなりたくないわよ。馬鹿ね。全部、全部、ミクゥのためなんだから勘違いしないでもらいたいわ。
私がフンッと鼻息荒くそう答えたら、それもそうかとエクトルは頬を人差し指で掻いた。
「さ、今はこの事件をさっさと片付けましょ。じゃないとララのこともゆっくり考えられないもの」
「そうだな。つってもあとは事後処理だけだけど。いや、でも大きな組織だからこれまでの犯罪歴との照らし合わせがクソ面倒なんだよな……明日丸一日潰れそうだ」
「冗談じゃないわ! マリノかキャンディスが来てくれたらすぐ詰所に行きましょ。そこに人たちを叩き起こしてでも夜通しやるわよ! 明日の午前中までには全部終わらしてやるんだから」
少しでもミクゥが起きている時間は側にいてあげたいもの。私がそう告げると、エクトルはまた目を丸くして驚いていた。まさか手伝ってくれるとは思っていなかった、と。
……まぁ考えてみれば、事後処理なんか全部エクトルに押し付けちゃえば、私はずっとミクゥの側にいられるわね。でも、この事件をさっさと解決しちゃわないと、安心してこの町でミクを仕事に行かせられないもの。事件はマクロという心強い護衛がいたにも拘わらず起きてしまったんだから。不安の種は自分で最後まで確認しておきたいし、事は迅速に済ませたい主義なのよね。
「クレア。ありがとな」
「何? 急に。お礼を言われるようなことなんか何にもないわ」
本当に、ただ自分たちのため。それだけのために私は動いているんだから。ここでお礼なんて言われたら、エクトルのために動いているみたいじゃない。そう思われるのはとても癪だわ。
「いや。心強いなって思って。俺の恋路には邪魔だけど、同じ境遇でミクゥを守ろうと動く存在ってのは、やっぱりありがたいよ」
「な、何よ。私は別に……。自分とミクゥのためだけに動いてるだけよ! お礼なんか言わないで!」
でもちょっぴり、エクトルの気持ちもわかってしまう自分が、なんだか悔しいと思った。






