ラナキラへの帰還
それからエクトルを呼んできたクレアと共に、さっきと同じことを笑顔で告げたララ。なぜかエクトルもクレアも挙動不審だったけど、とにかく今日は色々あって大変だろうからって一緒に本拠地まで行くことに決まった。
断らないだろうとは思っていたけど、エクトルの口からそれを聞けて安心したよ。ホッ。
「ミクゥ、ありがとね?」
「え? あ、ううん。このくらい、なんでもないよ」
胸を撫で下ろしていると、ララが耳元で囁いてきたものだから少しびっくりした。その瞬間は、不思議な魅力を放つ大人っぽいララに見えたから。
その時々で見える顔が違うのって本当に不思議な子だな。いい子であることに変わりはないけれど。
「あたしはこの場に残って警備隊に事後処理を頼むよ。ああ、慣れてるから気にしなくていい。みんなは戻っていてくれ」
「あ、ならオレも残るわ。一人で待ってんのも暇だろ?」
「暇つぶしの相手はリニか。仕方ない。話し相手にはなるか」
「どーいう意味だよ、オレじゃ不服ってか」
どうやらこの場にはアンジェラとリニが残ってくれるらしい。二人は小突き合っているけど、ニッと笑い合っているから本気で仲違いしているわけじゃないみたい。
警備隊への説明には慣れているっていうけど、一人で残すのは心苦しいって思ってた。でも、リニが名乗り出てくれたおかげで安心したよ。この調子なら問題もなさそうだしね。
だから私たちはお言葉に甘えて二人に後を頼み、ララも連れて本拠地へと戻ることにした。移動は獣車。もちろん獣はエクトルのライノス、ポポだ。その真っ白な身体とつぶらな瞳にとても癒される。ソッとポポの頬のあたりをひと撫でして「よろしくね」と声をかけると、僅かに目を細めてくれたのがさらに可愛い。
荷台に乗り込み、席に座る。あれぇ、なんだか急激に睡魔が襲ってきた。瞼がとても重いや。
「ミクゥ、眠いなら寝ていい」
「で、でも、もうすぐで本拠地に着くし、ふわぁ……そ、それに、ララもいる、し」
隣に座ったマクロの言うように、今すぐ寝たい気持ちはとーってもある。でもララを紹介したのは私だし、それを放ったらかしにして寝こけるわけにはいかないよー。
うう、でもなんだか色んなことがあって、張り詰めていた気も緩んだからかすごく眠い。ポポの引く獣車の揺れも心地いいし。
「もう。わたしのことは気にしないでよ、ミクゥ。助けてくれただけでも十分すぎるほど感謝しているんだから。そうだなぁ。それでも気になるなら、明日また色んな話を聞かせて? それで、たくさんおもてなししてよ」
反対の隣に座っていたララが、ほんの少しだけ頬を膨らませ、すぐにその表情を屈託のない笑顔に変えておねだりをしてきた。
気遣いの出来る子だなぁ。私が気にせず休めるように、そう言ってくれたんでしょう? ララだって、人攫いに捕まって心身ともに疲れ切っているだろうに。
「ん……。でも、ララも、ゆっくり、休ん……」
「はぁ。あとのことはこっちにまかせて。なんで無理して起きていようとするの。ミクゥはやっぱり、よくわからない」
眠すぎてカクンカクン頭が落ちそうになるのが自分でわかった。それでも言いたいことだけは言わなくちゃ、と思って頑張っていたんだけど、ついにマクロがため息とともに私を自分の方へと寄りかからせる。
頭をグイッと引き寄せられた私は、成す術もなくマクロの肩に寄りかかる形となった。ああ、だめだー。この体勢は寝ちゃう。
対面に座るエクトルとクレアのなにやら騒ぐ声が聞こえてきたけど、それは起きてから聞こうと思う。ごめんね、着いたら起こしてね……。
「……あ、れ?」
私が次に気付いた時には、窓から陽が射し込んでいる時間帯だった。しかも私は部屋着に着替えているし、ここはどう見てもクレアと使っている部屋の私のベッドの上。
や、やってしまったー! 昨日、獣車の中で寝てから私、起きずにずっと寝ちゃってたってことだよね!? それともあの事件は全部夢……? いやいやいやいや、そんなわけない!
「クレアもベッドにいない……もう起きてるんだ。そ、そんなに寝過ごしちゃったの、私!?」
いつもは私よりお寝坊のクレアでさえすでにベッドにいないってことは、それ以上に寝てしまったんだってこと。
うわぁ! こんなに寝坊したの、生まれて初めて! ガバッと勢いよく起き上がった私は急いで着替えて、軽く鏡の前で身支度を整えてから部屋を飛び出た。わーん、ごめんなさーい!!
「あ、ミクゥ! おはよーっ!」
「あれ、キャンディス? それにマリノまで。おはよう。どうしたの? 二人ともここにいるなんて珍しいね?」
慌てて一階に下りていくと、ダイニングテーブルにはのんびりお茶を飲んでいるキャンディスとマリノの姿が。
キャンディスは住んでいる場所が違うし、マリノはそもそもここに来ること自体が稀だから驚いて目を丸くしてしまう。
「水臭いじゃないの。貴女、昨晩大変だったんでしょ? だから様子を見に来たのよ」
「そうだよ、ミクゥ。キャンたち、話を聞いてすっごく心配したんだからぁ!」
私のために、来てくれたの? 二人の優しさに触れてじんわりと目の奥が熱くなる。
「ちょ、ちょっとどうしたの!? ミクゥ、そんなに辛かったの!?」
「あらあら、かわいそうに。ほらぁ、こっちに来なさい? お姉さんが慰めてあげるから」
もちろん、泣いている理由は辛かったからじゃない。ただ、二人の気持ちが嬉しかっただけ。
けど、一度溢れ出した涙は私の言葉を飲み込んでしまった。だから私は、二人にもみくちゃに撫でられながら笑い泣きをする。それからどうにか「ありがとう」の言葉を絞り出したんだ。






