コンプレックス
「わたしはね、音蝶っていう亜人なの。聞いたことある?」
「う、ううん。初めて聞いた」
私が素直にそう答えると、じゃあおあいこだね! とララが笑う。それはうん、確かに。
簡単に言うと、音に関する魔法が使える蝶々の亜人なんだって。世の中にはいろんな亜人がいるんだなぁって改めて思ったよ。……あれ、でも蝶々ってことは?
「あ、気付いた? なんで空を飛ばなかったのかって」
そうだ。蝶なら空を飛べるはず。でもララは飛べないみたいだった。というか、さっき飛んだ時、初めて空を飛んだかのような反応だったし。
「蝶なのにね、わたし飛べないんだ。わたしに問題があるんじゃなくって、音蝶っていう種族が飛べないみたいなんだよねー。蝶なのに飛べない種族は他にもいるみたいだけど、なんだか変だよね」
そうなんだ……。明るい調子でそう語るララだったけど、どことなく悲しそうな、寂しそうな雰囲気を感じたよ。やっぱり、気にしているのかな。
「狐なのに飛べるミクゥと、蝶なのに飛べないわたし。正反対で面白いね?」
ララはあはは、と笑っているけど私はうまく笑えなかった。それを察したのか、ララはすぐに真顔に戻って眉尻を下げてしまう。
「ご、ごめん。反応に困るよね。あの、本当にそんなに気にしてないからね? その分私は、音の魔法が使えるんだからっ」
いつもこうして微妙な空気を作っちゃうんだよー、とララは申し訳なさそうに頭を抱えてしまった。
えっとえっと、きっとララは全く気にしていないわけじゃないんだよね。けど、聞いた人が心配しないようにわざと明るくふるまって、それで空回りしちゃうんだ。たぶん、だけど。
「それって特殊属性を持ってるってことだよね? すごいよ! 他の人には出来ないことが出来るんだもん!」
「ミクゥ……」
誰にだってコンプレックスはあるもん。気になるものは気になるし、考えることは止められない。私だって光の呪いのことがあるし、ずっと一つの属性しか使えなくて悩むことも多かった。だからララの抱える気持ち、少しはわかるつもり。
「種族によって、ううん。人によって出来ること、出来ないこと、向き不向きがあるのは当たり前だもん。出来ないことがあっても、ララは素敵な女の子だよ」
マクロも言ってた。役割分担すればいいだけなんだよね。だって私たちは、たった一人で生きているわけじゃないんだもの。せっかく仲間がいるんだから、助け合わないと。
ララにも、仲間になってもらいたいな。そう思った。
「ミクゥの方こそ、素敵な女の子だよ。なんだか元気が出てきた! ありがとうね、ミクゥ!」
よかった、笑顔に戻ってくれた。うん、ララには無邪気な笑顔が似合うよ。さっきの大人っぽいララも、それはそれで魅力的だったけどね!
二人で笑い合っていると、下の方が騒がしくなってきたことに気付く。犯人がこの木の近くにいるのかもしれない、と身体を固くして息を潜める。
……あれ? なんだか聞き慣れた声かも?
「ミクゥーっ! ちょっとあんたたち! ミクゥをどこにやったのよぉ!!」
「クレア!」
ちょっと焦ったような声色だけど、間違いなくクレアの声だ。さっきの光の信号で駆け付けてくれたんだね! よかったぁ!
……でも、下りるのはちょっとだけ待とうかな。だって今下りたら、クレアの狐火で火傷しちゃう。
「……見つけた」
「ひゃう!?」
苦笑しながら下を眺めていたら、耳元で声が聞こえたものだから飛び上がって驚いた。危うく木から落ちるとこだったよ!
「マクロ! 無事だったん……わ、あ」
振り向くと、そこには今日ずっと一緒にいたマクロの姿。あの時、犯人集団に囲まれていて心配だったから、無事な姿を確認出来てホッとしたよ。
したん、だけど……。まさかあのマクロに抱き締められるとは思わなくって今すごーく戸惑っています!! あのマクロが! ど、どうしたのー!?
「ごめん。ごめん、ミクゥ。僕がついていながら、守り切れなかったから」
ああ、そっか。
マクロは、私の護衛としてついてきてくれていたんだもんね。それなのに、目の前で私が攫われたりなんかしちゃったから、すごく責任を感じているんだ。
そんなの、マクロのせいじゃないのに。責任感が強いから、すごく悔やんでいたのかもしれない。申し訳なさすぎるっ!
「ううん。私こそ、もっとしっかりしなきゃダメだったよね。ごめんね、マクロ」
「いや。今回は、僕が全部悪い」
「そ、そんなことないってば! 私が……!」
お互いに自分が悪い、と言い合うこと数回。あのー、という声で二人して我に返る。
「お取込み中悪いんだけど……とりあえず、木から降りない? そのぉ、片付いたみたいだし?」
気まずそうなララの声。そうだった、ララの存在をすっかり忘れてた! そして今私はマクロと抱き合っていて……。
う、うわあ! 違う! そんなんじゃなくって! マクロも気まずくなったのだろう、私たちは慌ててお互いから身体を離した。
気を取り直して、私はララを抱えて光の羽を出し、ふわりと木から降りた。ララをそっと地面に下ろし、私はそのまま両腕を伸ばして待つクレアの腕に飛び込んだ。
心配したんだからー! と半泣き状態のクレアの背中を撫でる。ごめんね、心配かけて。でも助けに来てくれてありがとう、って何度も伝えて。
「うぅ。……でも、私が最初にミクゥとハグするつもりだったのにぃ。マクロめぇ……」
「あ、み、見てたんだ……?」
その話は、ちょっと蒸し返さないでほしかったかもー! やけに恥ずかしくなるから!!






