不思議な魅力
ひとまず、ここから逃げ出すことを先に考えよう、と私はララを落ち着かせる。どのみち私一人の意見じゃ仲間に出来ないからね。一応、紹介はするよとだけ伝えると、それだけで十分だとララは嬉しそうにお礼を言った。
「逃げ出すなら、動いている間がいいよね。ちょっと危ないけど、止まったら犯人がこっちに回ってくるかもしれないもん」
「ま、待ってララ! まずは外の様子をこっそり見ないと。人攫いなんて、一人じゃ出来ないもん。仲間が周囲にいるかも」
楽しみが出来たからか、気が大きくなったらしいララは勢いそのままに幌を開けて出て行こうとする。それを慌てて引き留めて正解だった。チラッと外を覗いたら、馬車を囲むように馬で並走している人たちが何人もいたから。ふーっ、危ないっ!
「えへへ、ごめん。でも、結構人数が多いんだね……。この幌も大きいから、本当はまだ人を攫うつもりなのかも」
素直に謝りながら、ララは冷静に考えを口にする。それは、確かに……! これだけ広いのに、私たちだけなんて変だもん。きっと、人攫いの常習犯なんだ。それも大きめの組織。
そういえば、エクトルたちが今大きな件を追っているって言っていたよね。大きな犯罪組織だってことくらいしか聞いてなかったけど、もしかしてもしかするかも。
そうなったら、この人たちをそのままにもしておけないな。でもララがいるから逃げることを一番に考えなきゃいけないし。とはいえ、このままにしておいたら被害者が増えちゃう。うー、どうしよう。けどやっぱり、まずは逃げてからみんなに伝える、っていうのが一番良さそう。
「勢いよく飛び出せば、空に逃げ切れるかも。ララ、タイミングよく風で上に押し上げてもらえる?」
「ふむふむ、突然飛び出されたら、さすがに対応は出来ないよね。それでいこう! もちろん、まかせて!」
私はララの後ろに回り、両脇の下から腕を入れてしっかりと抱き締める。力がないからこうしないと抱えられないのだ。もっとトレーニングしなきゃ。
「じゃ、行くよ……!」
私は合図をしながら光の翼をいつものように羽ばたかせる。その瞬間、ララが外へ出るために荷台を蹴り、同時に風の魔法で私たちの身体を押し上げる。よしっ、タイミングばっちり!
あっという間に私たちが乗っていた馬車は小さくなっていった。突然のことに大騒ぎしている犯罪組織の人たちを見下ろしながら、私は大きく息を吐いた。
「すごいすごーい! 本当に空を飛んでる!」
「わ、お願い暴れないで! 力がないからそんなに長い間は支えられないよー!」
「あわわ、ごめん! あっ、あそこに街の光が見えるよミクゥ! あれって、ミクゥの街かな?」
私の声にすぐ暴れるのを止めたララは、少し離れた位置にある光を指差してそう言った。遠くて良く見えないけど、街の入り口でもある、見慣れた大きな門ははっきりとわかる。
ここからなら、みんな気付いてくれるかも。なにせ、マクロは私が攫われたことに気付いているし、何よりこんなに暗くなったのに帰らないことに、クレアが探してないはずがないもの!
「ララ、目を閉じて! 思いっきり光るから!」
「え? あ、う、うん!」
どうか、誰か気付いてくれますように。私は背中の羽に魔力を集めて、思いっきり光り輝く。この暗さなら光は遠くまで届くはずだ。そして、点滅。これは、私が村にいる時から、様々な合図としてクレアと使っていた信号。クレアなら気付いてくれるはず!
「う、うぅ、もう限界ぃ。少し離れた木の上に下りるね」
「わ、わかった!」
魔力を思いっきり使って光ったものだから、余計に疲れちゃった。ここでララを落とすわけにもいかないので、手ごろな大きめの木の太い枝の上に着地する。さっきの光で犯人たちも目が眩んでいるはずだし、静かにしていればしばらく時間は稼げると思う。
「それにしてもすごいんだね、ミクゥ。見たところ狐の亜人なのに飛べるなんて」
「えっ、あーうん。私、村でもちょっと特殊な亜人だったから。翼狐っていうんだけど、あんまり聞いたことないんじゃないかな」
木に寄りかかって座る私に、枝にまたがるように座ったララは、初めて聞いたよー、とニコニコしながら言った。まぁそうだよね。
「でも、そのおかげで今助かったんだよね。ありがとう」
屈託のない笑顔でお礼を言われると、なんだか照れちゃうな。ララが小首を傾げると、肩下まである黒髪がサラリと揺れてとても綺麗。ハーフアップにまとめているのもあって、微笑むとすごく大人びて見えた。
さっきまで、とっても無邪気な幼さの残る子って印象だったのに、今は大人っぽく見える。なんだか、不思議な子……。
そんなララに見惚れていると、口の端をキュッと上げて笑みを深めたから思わずドキッとしてしまう。な、なんだろう? すごく色っぽいというかなんというか。同じ女の子なのにドキドキしちゃう。
「珍しい亜人だってこと、やっぱりちょっと内緒だったりする?」
そんなララから、小声でそう言われて思わず言葉に詰まった。あまり自分の種族については話ちゃダメってクレアに言われているのもあるけど……。ララの纏う雰囲気が、さっきと全然違うから、つい。
「えっと、その……」
言い淀んでいると、ララはさらにクスッと笑って私にズイッと近付いた。ち、近い……! それに、近くで見るとすっごく可愛い。睫毛が長くて、色白で……。
「そんなに不安がらないで? 大丈夫、わかってるから。珍しい種族は困ることも多いって」
ララの手が、スルリと私の頬を撫でる。ヒャッと思わず小さく悲鳴を漏らすと、ララはすぐに悪戯っぽくウインクをした。
あ、戻った。大人びた印象とは正反対な、最初の印象通りのあどけなさが残るララだ。
「わたしもね、ちょっと珍しい種族だからさっ」
不公平になるからわたしも教えるね、とララは笑った。
な、なんだかこの子、不思議だよぉ!?






