荷台の中で
ガタガタという振動で目が覚めた。ここは、どこだろう? 身体を起こそうと動いた瞬間、すぐに違和感に気付く。わ、私、両腕と両足を縛られてる! 手が後ろに回っているせいで、うまく身体も起こせないみたいだ。
えーっと、えーっと、なんでこうなったんだっけ? 少し考えてすぐに思い出す。そうだ、仕事の帰りに誘拐されたんだった。マクロは大丈夫かな? 近くにいないみたいだし……。
いやいや、それより自分のことを考えないと。マクロは経験豊富だし、きっと自力でなんとかしてるはず。人のことを心配出来るほど、私に実力なんてないもの。人の心配だなんて、烏滸がましいくらいだし。
よ、よし。絶対に隙を見つけて逃げ出すんだから! そう決意を固めてどうにか身体を起こした時。
「誰か、いるの?」
「!」
まさかこの場に他にも人がいるとは思っていなかった私は、突然聞こえてきたその声にビクッと身体を震わせる。でも、今の声は女の子、だよね? それに、どことなく怯えたような、そんな声だった。
声のした方に目を向けると、薄暗くてよくはわからなかったけど同じ空間の片隅に人影が一人分あるのがわかった。どうやら声の主はこの人影みたい。だって他にそれらしき影は見えないもん。
「あ、あの。あなたは? 私、ミクゥっていうの」
怖がらせないように、出来るだけ優しく声をかける。誘拐されてるっていうのは余計に怖がらせちゃうかもしれないから、伏せておく。すると、その声の主は嬉しそうに返事をしてくれた。
「よかった、敵じゃないのね! わたし、歩いていたら突然意識を失って……。今さっき気付いたら、ここにいたの。こう言うと申し訳ない気はするんだけど、一人じゃなくてホッとしちゃった」
女の子は最初の声とは違って明るい声を上げている。よほど心細かったんだなって思ったよ。伝わる振動からいって馬車の荷台にいるっぽいし、どこに連れて行かれるんだろうって不安だよね。もちろん、私も今まさに不安だけど!
「大丈夫。ごめんね、私も一人じゃないって思ったら、ちょっと安心しちゃった」
「あはっ、じゃあ同罪だね? ……でも、どうしようか。このままじゃきっとまずいよね。貴女、何か考えはある?」
女の子が無理矢理明るくふるまっているってことは、声の感じからしてわかった。きっと本当は泣きたいくらい怖いに決まってる。でも、犯人に気付かれたり私もいることからどうにか我慢してるんだろうな。わかるよ、私だって同じだもん。
でも! 私は上級ギルドのメンバーなんだから、しっかりしなきゃ。私が安心させてあげないと。揺れる荷台に手間取ったけど、少しずつ女の子の方へと近寄った。それからグッとお腹に力を入れて、私も出来るだけ明るい声で女の子に話しかける。
「私、空を飛べるの。一人なら少しの距離くらい抱えて飛べるよ」
「本当? すごい……。あ、それってわたしの魔法と相性いいかも」
聞けばこの子は風の魔法が得意なのだという。それはすごくいい! 私が飛んで、それを風で後押ししてくれたら逃げ切れるかもしれない。
「あとは、タイミングだね。それと、この拘束がどうにかなればいいんだけど」
なんとかなるかもしれない、という希望が私たちを勇気づける。冷静になったところで私は思い出した。確か、色々と便利だからと小型ナイフを持たされていたんだってことに。で、でもこの体勢じゃ取れないー!
「ね、私の上着の下、腰のあたりにナイフがあるの。奪われてなければあると思うんだけど……取れる?」
「本当? じゃ、ちょっと失礼するね」
私がそう言うと、女の子は身体をよじらせながら後ろを向き、縛られた手で私の上着の下を探った。
ちょっとくすぐったぁい!! でも我慢! しばらくしてあった! という声とともに手が抜き取られる。ホッ。
「ミクゥって言ったっけ? 後ろ向いて。縄を切るから。き、気を付けるけど手を切っちゃったらごめん」
「大丈夫。癒しの力が使えるから少しくらい平気」
「癒しの力? ミクゥったらすごい」
縄を切るのにはものすごく苦戦した。お互い手元が狂って痛い思いをするんじゃないかってビクビクしてたり、馬車は揺れるから時間もかかる。でもヒソヒソと話をしながら気を紛らわせて、なんとか怪我もすることなく、私の手の拘束が解かれた。助かったぁ。
「ありがとう。今度は簡単だよ。私があなたの縄を切るね」
ナイフを受け取り、自由になった手で女の子の縄を切る。ようやく手足が解放された私たちは、互いに顔を見合わせてクスッと笑った。
「ナイフを隠し持ってるなんて、ミクゥ、さては只者じゃないなぁ?」
「あなたこそ。普通だったらパニックになるところなのにすごく冷静だったよ?」
気が抜けたところで改めて、私は簡単に自己紹介をした。自分が上級ギルドのメンバーだってこと、それでも戦闘職じゃないから頼りにならなくてごめんねってことも。
すると、女の子はううん、と首を振りつつ目をキラキラさせて私の手を両手で握った。
「上級ギルドなんてすごいね。わたし、もっと大きな街で仕事をするために田舎から出てきたところなの。それなのにこんな目に遭ってついてないなぁって思ってたけど……。ある意味ラッキーだったかもっ」
ラッキー? どういうことだろう、と首を傾げていると、女の子は今までで一番いい笑顔を向けてくる。
「まだ名乗ってなかったよね。わたし、ララ! ねぇ、ここから無事に逃げ出したら、ミクゥのギルドを紹介してくれない? 上級ギルドなら他よりたくさん稼げそうっ」
明るい未来をこれっぽっちも疑っていない真っ直ぐな瞳で、ララは私の両手を握ったまま上下にブンブン振った。す、すごく前向きな子だぁ!






