ミクゥのお仕事
ラナキラが上級ギルドになって、月が三度ほど巡った。
初めてみんなでお祝いパーティーをしたあの日から結構日が経ってるんだなぁ、と思うと何だか不思議な気分だよ。だって、あの日は本当に楽しかったから、昨日のことのように思い出せちゃうもん。
「ミクゥ。そろそろ、時間」
「あ、ごめんね、マクロ! あとタオルだけ干しちゃうから少し待って!」
でも、この生活にも慣れてきたから、ちゃんと月日が経っているんだなって実感することもある。感じ方がコロコロ変わるなんて、時間って不思議だよね。
洗濯物を干し終えたら、今日はマクロと依頼に向かう。すぐにギルドを出て、二人で朝の街を歩いた。
ふふっ、最近の私は自分の魔法を活かして、街のお掃除依頼を受けてるんだ!
実はこのお掃除魔法を使える人って、あんまりいないんだって。浄化は使えても、魂を沈めたり、毒や呪いを祓ったりする使い方がほとんどで、汚れを落とそうと思っても出来ないみたいなんだよね。小さい頃から当たり前のように使っていたから、あんまり実感がないんだけど。
だから、掃除の仕事を受ける人はいても、水の魔法で手作業だったりするから、汚れも完全には落ち切らないのが一般的なのだそう。
そこへきて私の浄化がかなりすごいらしいっていう噂が口コミで広がったみたいで……。実は、最近は依頼が殺到していたりするんだ。ちょっと照れちゃうけど、なんだか嬉しくもあるよ。私でも役に立てるんだって!
魔法を使ったお掃除だから一人で出来る仕事なんだけど、毎回誰かが私に付き添ってくれることになってる。なぜかというと。
「あ! ミクゥちゃーん! ちょっと鍋を焦がしちゃったんだけど……」
「お鍋ですか? 焦げってなかなか落ちないですよね……。今、私が」
私が落としましょうか、と言いかけたところでマクロが私の前に立ち塞がった。あ、いけない。
「これから仕事だから、無理」
「え、えーっと。その前に、こう、ちゃちゃっと……。ほら、簡単でしょ?」
「簡単に綺麗にしてしまえるのはこれまでの努力があるから。その時間分の対価を支払うべき。たとえ短時間でも、仕事は仕事。依頼を出して。それなら喜んで引き受ける」
「わ、わかったよ……!」
軽々しく、人の頼みを引き受けるなって言われているのに、私ったら。村にいた頃の名残で、ついつい「いいですよ!」って言いそうになっちゃうんだ。これが私の悪い癖で、みんなの手を煩わせてしまっている原因。
上級ギルドのメンバーとしてこれはまずい、と気付いたエクトルが、しばらくの間は私が街を歩く時は必ず誰かと一緒に、って指令が出ちゃったの。本当に申し訳ないよー!
「ご、ごめんね、マクロ。私、まだまだだね……」
「ん。まだまだだね」
グサーッ! マクロは思ってることをそのまま相手に伝えるから容赦ないっ! でも、本当にその通りだし、悪いのは私だから仕方ない。ちゃんと自分で断れるようにならなきゃなぁ。
「最初から出来たら誰も苦労しない。当たり前でしょ。不得手なことは人によって違う。気にするだけ時間の無駄」
「うん、そう、そうだよね」
マクロの言うことはいつも正論だ。言い方もハッキリしているから、よく色んな人から誤解をされがちだってエクトルが言っていたっけ。でも、言っていることは正しいから誰も文句を言えず、人知れず恨みを買いやすいって。クレアも損な性格よねって言ってた。私も、それはわかるよ。
でも、確かに言い方はキツイ部分があるかもしれないけど、それって相手のことを思ってないと言わないと思うんだ。
今の言葉だって、私には励ましの言葉に聞こえたよ? 私が落ち込んでいたから、頑張れって背中を押してくれたような、そんな感覚がしたもん。
「マクロは、優しいね」
「……は……?」
だから、ありがとうって気持ちを伝えるんだ。私はダメなことをダメってハッキリ言えない。断ったらかわいそうかな、とかそんなことばっかり考えちゃって。でも、感謝は伝えられる。今日はマクロに助けられたもの。
「今の会話で、なんで優しいが出てくるの」
だけど、マクロは驚いたように目を見開いている。あれ? 変だったかな?
「だって、今すぐじゃなくてもいつか出来るようになればいいんだよ、って励まされた気がしたから。違った?」
私がそう答えると、マクロは少しだけウッと言葉を詰まらせた。あ、やっぱり違ったかな。都合のいい解釈だったかも。ちょっと恥ずかしいけど、いいの! 私はそう受け取ったんだから!
「……変なヤツ」
「えっ、変だった? ごめん」
けど、マクロには呆れられちゃったみたい。そう思ったけど、きょとんとした顔でマクロがこちらを見てくる。あれ、それも違うの?
「なんで謝るの」
「えっ、えっ、だって」
「なんか、ミクゥと話してると、調子狂う」
マクロが困惑した顔になってる。ええっ!? 調子が狂っちゃうの!? ど、どうしよう! うー、マクロが何を言いたいのかわからないよー!
「うぅ、ごめんなさい……」
「だからなんで謝るの。謝らないでってば」
結局、つい謝っちゃうんだけど、それはダメだとマクロは言う。な、難易度が高くない? もう何を言ってもダメな気がして何も言えないでいると、マクロは私からスッと目を逸らした。あれ、ちょっと耳が赤いかも?
「別に、間違いでもなかった。そんな風に言う人、初めてだからちょっと驚いただけ」
「そ、そうなの? あっ、ま、待って!」
それ以上は何も言わず、ちょっと早歩きで先を進んでしまうマクロ。ちょっと照れてた、のかな? でも照れるようなこと、私言ったかなぁ? んー、マクロはやっぱりまだ掴めない人だな。でも、嫌われたわけじゃなくてよかった!






