乾杯!
気を取り直して、私たちはそれぞれ思い思いの席につく。私とクレアは料理を運ぶためにキッチンへと向かった。
すでにサラダやパンは並んでいるんだけど、温かいスープやお肉なんかは熱々を食べてもらいたかったから、みんなが揃ってからにしたかったんだよね。
トレーに数人分のスープが入ったお皿を乗せ、運ぼうと手を伸ばすと、横から他の手が伸びてきてサッとトレーを持ち上げた。驚いて顔を上げると、麗しい笑みのマリノと目が合う。
「さっきはごめんねぇ。驚かせちゃって」
「う、ううん! ちょっとビックリしたけど、大丈夫」
お詫びにお手伝いをさせてねぇ、とふんわりと微笑んだマリノは、そのままスープの乗ったトレーをテーブルまで運んでくれた。い、いい人だ。
「本当に大丈夫よ、ミクゥ。マリノはキレると怖いけど、一度仲間と決めた相手にはどこまでも優しいから」
「それはゲームの知識? そっかぁ。で、でもキレると怖いんだね……」
お肉を切り分けながら、クレアがコソッと教えてくれる。怒ると怖い人かー。でも、なんだか妙に納得しちゃったかも。普段、穏やかな人の方が怒ると怖いっていうもんね。
そう考えると、キーファもそんなタイプっぽいよね。……か、考えるのはよそうかな!
お肉を取り分けたお皿をトレーに乗せ、今度は私がテーブルまで運ぶ。キャンディスの前にお皿を置くと、その手をガシッと摑まれた。えっ、何?
「ミクゥ、ずるい。エクトルに抱き締められちゃってさ……」
プクッと頬を膨らませて上目遣いで睨まれてしまった。でもごめん、すごく可愛い。キュンッとなった胸に手を当て、それからそのままキャンディスの頭をそっと撫でる。
「助けてもらっただけだよ。エクトルはとても頼りになるね。そんなエクトルが、キャンディスは好きなんだよね」
「うぅ、そうだけどぉ! もぉ、ミクゥが相手だと怒るに怒れないよぉ!」
いい子いい子、と撫でるとふにゃん、と猫耳が撫でられやすいようによけられていたり、尻尾が足に巻き付いてきたりしたので、撫でられるのが好きなんだろうなってことがわかった。
ふふふ、キャンディスって素直だよね。嬉しいとか、嫌だとか、そういう気持ちを真っ直ぐに外に出せるの、すごくいいところだと思う。せっかくなので、私はそのままキャンディスの隣の席に座った。
「人たらし……?」
「ああ、マクロ。気付いた? そうなのよ。この子、いっつもこうで、無自覚なの」
マクロが呟くと同時に、クレアも席についた。ちょ、ちょっとそこの二人! 人聞きの悪いこと言わないでっ。まるで私が誰かれ構わず人を騙しているみたいに聞こえるでしょっ。普通に接しているだけなのにー!
「あはは、そこがミクゥちゃんの良いところでー、危ういところってことだねー」
キーファまで……。そんなに危なっかしいかな、私。そんなことないと思うんだけどなぁ。
「おい、まだか? そろそろ目の前のご馳走を前に耐えられる気がしないんだが」
そこへ、話を割るように告げたのはアンジェラ。メインの肉料理に目が釘付けで、涎を垂らさんばかりの勢いだ。そ、そんなにお腹が空いてたのかな?
「あはは! だな! せっかくの料理が冷めたらもったいない。じゃ、みんなグラス持って」
エクトルが合図を出すと、みんなが目の前に置かれているグラスを手に取った。私とクレア、キャンディスはアルコールのないフルーツジュースを、他のみんなは冷たいエール。なんか、みんなお酒に強そうだよね、なんてちょっぴり思っちゃったり。
「初めてメンバーが揃ったな! おかげでラナキラもついに上級ギルドになった。これから仕事も忙しくなると思うけど、みんなよろしくな!」
「おー、若いモンが立派に挨拶してっと、おじさんは感激で涙が出そうだぜ」
「心にもないこと言わなくて良いからな、ウェールズ?」
エクトルの挨拶に茶々を入れたのはウェールズ。からかうような口ぶりではあるけど、感激したのは本当だと思うな。私も感動しちゃったもん!
そう思って見ていたら突然ウェールズが「うっ!」呻いた。え、何!?
「おじさんはお黙りなさいな。早く乾杯させてあげないと、アンジェラとリニの前にヨダレの海が出来ちゃうわよぉ」
「ぐっ、おま、いつものことだがもう少し加減しろよ……ヒールは凶器なんだって、この暴力おん」
「もう一発いかが?」
「何でもないです、お姫サマ」
ど、どうやら、隣のマリノがヒールの靴で思いっきりウェールズの足を踏みつけたみたい。い、痛そう……! この二人、恋人なんだよ、ねぇ?
「エークートールー……」
「肉……肉をよこせぇ……」
「あははっ、獣二人が限界って感じだよぉ!」
そしてついにアンジェラと、さらにはリニまでが今にも料理に齧り付きそうなとこまで来てしまったみたい。キャンディスはコロコロ笑っているけど、そろそろかわいそうかも!
「はいはい、わかったよ! じゃ、みんな! 今後も頼むぜ! 乾杯!」
かんぱーい! とみんなの声が重なる。お預け状態だったアンジェラとリニは一気にエールを飲み干すと早速お肉に手を伸ばした。い、勢いがすごい。
なんか、いいな。こういうの。村でやったパーティーとは違った賑やかさに心が満たされていくのを感じながら、私もフルーツジュースを飲み干した。ふふ、美味しい!






