ミクゥの個人情報
「も、申し訳ございませんっ!!」
お怒りの二人に対してペコペコと頭を下げる受付の男性を前に、どうしようもなく途方に暮れていると、ソッと両肩を引いて後ろに下がらせてくれた手があった。アンジェラだ。
「う、ありがとう、アンジェラ。助かったよぉ」
カウンター前ではいまだにエクトルとクレアが笑顔で受付の男性に説教を続けている。ご、ご愁傷様……。ようやくホッと息を付けたよ。アンジェラに感謝だ。
「エクトルは温和に見えて怒ると手が付けられないからな。……クレアも同じタイプだったのは驚いたが」
「なんか、二人って似てるよね……。それにしても、どうして二人はあんなに怒ってるのかな。そこまで怒ることでもないと思うんだけど」
困ったように二人を見つめながらそう言うと、アンジェラも近くでそれを聞いていたリニやマクロもきょとんとしたように目を丸くしていた。あれ、事情がわかっていないのは私だけ?
「……あの男は、受付という守秘義務を果たさなきゃいけない立場でありながら、ミクゥの個人情報を少し漏らした。だから二人は怒ってる」
「え、私の個人情報を? どういうこと? 特に言ってなかったと思うんだけど」
少しの間をおいて、マクロが説明してくれたけど、やっぱりよくわからない。だってあの人は、私が水晶に魔力を流した時に珍しい反応だったからつい、って言っただけなのに。
……っていうか、珍しい反応って何? 私だけみんなと違ったの? 私がそう首を傾げていたら、マクロがさらに驚いたように目を丸くしている。そういう顔をしてると、なんだかいつも無表情で怖い印象だけど、可愛らしく見えるなぁ。言わないけど。
「もしかして、知らされて、ない?」
「? よくわかんないよ」
ますますわからない。混乱していると、それはマクロたちも同じようで、腕を組んで悩み始めてしまった。え、そんなに?
「すまないな、ミクゥ。君が知らないことを、少なくとも姉であるクレアの了承なしに君に話すことは出来ない。気になるのなら、後でクレアに聞いてくれないか?」
「……そんなに、大事なことなの?」
アンジェラが三人を代表して、申し訳なさそうにそう言ってくれた。もちろん、今無理にこの三人に聞く気はないけど、思いの外深刻そうにしているから、驚いちゃうよ。
「そうだな。ミクゥの人生に関わることだ。あたしも、たぶんリニやマクロも、てっきりミクゥはすでに知っているものだと思っていたよ」
「たぶん、お前の両親もクレアも、言い出しにくかったんだろうなー。気持ちはわかるが」
な、なんか不安になってきたんだけど。そんなに? 私の人生に関わること? どんどん不安が膨れ上がって、サァッと血の気が引いていくのがわかった。あ、あれ。手が震えちゃう。
そんな時だった、ふわっと温かな手が背中に回されるのを感じた。
「二人とも、不安を煽るようなこと言ってどうするの。……ミクゥ、大丈夫。心配ない。あの二人がミクゥに何かあるようなこと、そのままにするわけない」
マクロの手だったんだ。ゆっくりと背中をさすってくれるその手の温かさで、ようやく私はホゥッと息を吐いた。あ、私、息を止めてたんだ。
「大丈夫」
「マクロ……」
マクロに目を向けても、彼はこちらに目を向けてはくれなかったけど、労わるようにさすってくれた手だけでその優しさが伝わってきた。
「う、悪いミクゥ」
「すまない。配慮が足りてなかった」
「ううん! 気にしないで! リニもアンジェラも、ありがとう」
慌てて謝ってくる二人にも、両手をブンブン振って答えた。二人だって、心配してくれてるのはわかるもん!
「マクロもありがとう。もう大丈夫だよ」
「……そ」
改めてマクロにもお礼を言ったんだけど、やっぱり目を合わせてくれなかった。でも、ちょっとだけ頬が赤いから、照れてるだけだと思う。見た目や態度に反して、やっぱり優しいんだな。
スッと私から離れていったことで、背中に置かれた手が離れてしまったのがちょっとだけ寂しい。けど、心はあったかいままだ。マクロのおかげで落ち着けたんだから、本当に感謝だよ。
よし、そうしたら次は、あの二人を止めないとね! 私はいまだに受付カウンターで騒ぐ二人に近付いてそっと二人の肩に手を置いた。
「クレア、エクトル、もういいから」
「っ、ミクゥ! でも……!」
そう声をかけると、まだ怒りが収まらない、とばかりにクレアが困惑気味に振り返った。エクトルも途中で言葉を切って困ったようにこちらに目を向けている。
「だって、このままじゃ目立っちゃうよ。この人だって、こんなに謝ってるでしょ? ね、次からは気を付けてくれますよね?」
「そっ、それはもちろん!!」
「ね? だから、今ははやく手続きを終わらせようよ。私、今日をとっても楽しみにしてたんだよ?」
せっかくの記念日なのに、怒ってたらもったいないもん。謝ってくれてるし、私はもう気にしてない。
「はぁ。んもう。ミクゥにそう言われちゃったらなにも言えないわ。優しすぎるんだから! まったくもう」
「だな。はー、お前。ミクゥが天使でよかったな! でもマジ、次はないからな?」
良かった、二人とも怒りを収めてくれたみたい。クレアの逆立っていた毛もしおしおと戻っていく。ふー、よかったよかった。
「……あの、ミクゥさん。本当に、申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございます。貴女の優しさ、絶対に忘れません! 僕、二度と同じミスはしません!!」
「はい。気を付けてくださいね」
ほら、受付の男の人も真剣な表情でそう宣言してくれたし、本当にもう大丈夫だと思うな。私がニコニコして答えると、男の人も恥ずかしそうにちょっぴり笑ってくれた。うん、やっぱりみんな、笑顔がいいよね。






