手続き
「準備はいいか?」
「うん。エクトルこそ、記入漏れしてない?」
「何度も確認したし、クレアやアンジェラも一緒に見てくれたから大丈夫。ってかお前も見ただろ、マクロ」
よく晴れたある日。ついにこの日がやってきた。
そう! 中級ギルドラナキラが、上級ギルドラナキラになる日が!
エクトル、マクロ、リニ、アンジェラと、クレアと私の六人は今、ギルド連盟支部の建物の前で集まり、心の準備をしています。運命の日だもんね。うー、ドキドキするー!
「でも、みんなで集まれなかったのは残念だな」
私がポツリとそう言うと、クスッと笑ってアンジェラが口を開く。
「それは仕方ないさ。それに、あんまり大人数でここに集まっても邪魔になる」
「うっ、それはそうだよね」
水色の髪のポニーテールをサラリと揺らしてアンジェラが笑う。背筋をピンと伸ばして立つアンジェラは、本当にカッコいい女性って感じ。つい見惚れちゃうな。
「それに、夜はラナキラで初めて全員揃うじゃない。お祝いパーティーするんでしょう? 帰ったら忙しいわよ!」
そうだよね! 今集まれないだけで、夜になったらみんなでお祝いが出来るんだもん。そのためにも、ちゃんと申請が通るのを見届けて、準備のために動かないと。
「いつまでここに立ってるの。僕は先に入るからね」
そうこうしているうちに、マクロがそう言い捨てて一人スタスタと建物の中に入って行っちゃった。ため息を吐いて呆れたように肩を竦めてる。た、たしかに、邪魔にもなるからはやく動いた方がよさそう。
そんなマクロを見て、リニは単独行動すんな、って怒りながらその後についていき、エクトルはすぐそうやって喧嘩すんのやめろ、って脱力しながら歩き出した。
私はクレアとアンジェラと顔を見合わせてから苦笑を浮かべて、さらにその後ろからついていった。ほーんと、賑やかだなぁ。
建物の中に入ってからは、マクロもリニも静かになった。っていうか、エクトルが物理で黙らせた、というか……。それはともかく! 今は手続きが大事!
受付にエクトルが代表で話しかけ、私たちはその後ろに五人で並び立つ。受付の男の人とエクトルが簡単な受け答えをしてるみたい。
「……はい。書類の方は問題ないですね。次に、メンバー登録をします。人数の確認のためですね」
「ああ。今この場には全員揃ってないんだけど、前もって魔石に魔力を込めてもらったから、これでいい?」
そう言いながら、エクトルはカバンの中から手のひらサイズの透明な石を差し出した。あれは記録用の魔石。今ここに来ていないキーファ、キャンディス、そしてウェールズとマリノの魔力があらかじめ記録されている。魔力は人によってまったく違うから、これだけで本人証明になるんだ。
「はい、確認できました。この四名の魔力はすでにこちらにも記録がありましたから、ご本人で間違いありません」
仕事でギルドに協力する際は、必ず一度ギルド連盟で魔力の登録をするんだそう。四人ともラナキラの手伝いをしたことがあったから、その時の記録と照合したってことだね。
それにしても、一瞬でわかっちゃうなんてすごいな。私たちの村にそんなのはなかったし。ある必要もなかったってだけなんだけどね。こういうのを見ると、都会だなぁって思っちゃう。
「では次に、皆さんも一人ずつ魔力をこの水晶に流してください」
受付の男の人に促され、順番に水晶に触れていく。魔道具を使う時のような感覚でいいそうなので気負わなくてもいい、って言われたよ。
で、でも、どうしても緊張しちゃう。村の出だからまだ魔道具を使うということにもあんまり慣れてないし……! ラナキラで過ごす間に、あらかじめいろいろと使わせてもらっててよかったぁ。もっと慌てちゃうところだったよ。
「えっ! こ、これは……!?」
「ひゃう!? あ、あの、何か間違えちゃいましたか? 私……」
クレアの次に私がそっと水晶に魔力を流すと、受付の人が少しだけ驚いたように眉を上げたからビクッと肩を揺らす。みんなと同じようにしたつもりなんだけどなぁ。どうしよう。あわあわと戸惑っていると、すぐに男の人はハッとなって謝ってきた。
「あっ、ご、ごめんなさい! いや、ちょっと珍しい色だったものでつい。こうやってすぐに反応を表に出してしまうから、僕はいつも先輩に叱られるんですよね……。はぁ、本当にすみません。問題はありませんので気にしないでください」
い、いや、あの。そんな風に言われたら余計に気になっちゃうんだけど! 問題はないと言われてもぜんっぜん安心出来ないよぉ!
私が涙目になって震えてると、背後から低ぅい声が聞こえてきてまたまた驚く。同時にポンと肩に手を置かれたから余計に!
「……おい? お前。ほんっとうに躾がなってねーんじゃねぇの? うちのミクゥを不安がらせやがって……」
おそるおそる左後ろに顔を向けてみたら、王子様のような笑顔を浮かべているエクトルが。言葉と合ってないよ!? あと迫力が怖いっ!
そりゃあ、この人の反応が気にはなるけど、そこまで怒るほどじゃ……! そう思って顔を引きつらせていたら今度はバァンッとカウンターを叩く音が聞こえてきて慌てて右隣に顔を向けた。
「本当にね? あなた、プライバシーって言葉知ってるのかしら。この程度で顔色変えるだなんて、受付として失格なんじゃない? 上司呼んできなさいよ。私のミクゥを怯えさせた罪は重いわよ……?」
く、クレアでした。怒ったクレアは怖いんだよ……! これは迂闊に口を挟めない。お怒りの二人に挟まれて、硬直する私。むしろ二人に対して怯えてるんだけど、とは絶対に言えないや。
ちょ、ちょ、誰かーっ!!






