天然記念物
「そ、そんなことより、早く話をしちゃおうよ! ね? ね?」
近くにあった、倒れている椅子を起こしながら私は慌てて話を戻す。うん、ちょっとガタガタしているけど、ちゃんと座れそう。しっかり確認してから座らせてもらう。そんな私を見て、ウェールズがクックッと喉の奥で笑いながらわかったよ、と言ってくれた。ホッ。
「ま、大体話の予想はついてる。リニが見知らぬ嬢ちゃんと来るなんてまずねぇし、この子はさっき『ラナキラ』の者だって言ったしな」
えっ、そうなの? 私がラナキラの、って言っただけで? やっぱりこの人、只者じゃない感じがするなぁ。人の言動をよく見てる。
「おっ、察しがいいな! じゃあ早速本題に入らせてもらうぜ」
リニは特に気にした様子はなさそう。こういう人だって知っているんだろうな。ニッと笑って頭の後ろで手を組む様子は、とても軽い調子だ。どうかウェールズが仲間になってくれますように!
「俺ら、そろそろ上級になろうと思ってんだわ」
「なるほど。人数が足りねぇってか」
「その通り。あっ、誰彼構わず声かけてるわけじゃねぇぞ?」
ふむ、と言いながらウェールズは新しいタバコを加え、指先からポッと火を出してタバコにつける。それからゆっくりと吸い、フーッと長く煙を吐く。その間、どこか遠くを見つめて何かを考えているみたいだった。
「他に誰がいんだ?」
それからしばらくして、ウェールズはようやく口を開いた。質問にはリニが答えてくれる。名前を上げると、私とクレア以外のことはやっぱり知っているみたいだった。
「納得のメンバーではあるな。するってーと、あとは俺とマリノが仲間になりゃ、人数は揃うってわけか」
「おう。工房はウチの敷地内に作ってもいいし、このままここでもいい。商売に関しては好きにしてくれていいぜ。俺たちはいざという時の人員と名前が欲しい。その代わりお前には……」
「知名度とある程度の安定した収入ってか。ま、条件としちゃ悪くねーな」
結構いい反応かも? でも、ウェールズはしばらくタバコを吸いながら何かを考えているみたいだった。何か気になることでもあるのかな。
「……少し、持ち帰らせてくれ。ちと確認したいことがあるんでな」
「それはいいけど、いつ返事もらえんの?」
確認したいこと、か。やっぱり、何か気がかりがあるんだな。あまり立ち入って聞くのもよくないよね……。一方のリニはそこまで気にした様子はなく、口をへの字に曲げている。それよりも答えはいつになるのかを気にしているみたい。ウェールズはそんなリニの様子を見て、そうまた時間は取らせねーよ、と笑った。
「明日の夕刻、お前らんとこ行くわ。そん時、返事してやる」
「なんだ、そんなすぐでいいのか? じゃーそれでいいや。いい返事を期待してるぜ」
明日の夕刻、かぁ。それなら、またみんなでご飯を食べることになるかもしれないよね。念のため、クレアに伝えておかなきゃ。出来ればいい返事が聞きたいな。一見すると悪い反応じゃないから期待しちゃう。
おう、と軽く返事をして背を向けたウェールズに、じゃあそういうことで、と話を切り上げたリニ。そっか、もうお店も開く時間なんだもんね。これ以上ここにいたら邪魔になっちゃう。
「ウェールズ、また明日ね!」
「おー、知り合えて嬉しかったぜ、初心な嬢ちゃん」
慌てて椅子から立ち上がり、店の外に出たところで声をかけると、ウェールズは軽く振り返ってニヤッと笑った。う、初心って! もう、去り際までからかってくるんだから。それと、次に会ったときは名前で呼んでもらいたいな、と思いながら、お店から出た。
「んじゃ、帰ろうぜ。あいつら、まだ寝てるかなー」
「どうかなぁ? エクトルは起きてそうだけど、マクロやキーファはまだ寝てそう。勝手なイメージだけど」
「ははっ、合ってると思うぜ! 休みの日のマクロはほんっとに起きねーから。キーファなんか研究してる時以外で明るい時間に起きてる方が珍しいし」
私たちもお店を後にして元来た道を歩き始める。ラナキラを出たのが早い時間だったから、まだ朝だもんね。けど、来た時より街の人通りも増えてる。
「ウェールズ、仲間になってくれるかな」
大通りに出たところで、ポツリと呟く。好感触だったとは思うんだよね。でも、もしかしたら仲間にはなれないのかな、って思うとちょっと不安で、つい溢してしまった。すると、それを拾ったリニがうーん、と軽く唸る。
「たぶん、引き受けてくれると思う。けど、確認したいことの結果次第なとこ、あるんだよなー」
「さっきウェールズが確認したいって言ってたこと? リニは、なんのことか知っているの?」
ウェールズが即答出来なかった理由、気になるよ。ジッとリニを見上げて聞くと、たぶんだけどな、とリニは頭の後ろで手を組んだ。
「もう一人勧誘しようと思ってる、マリノに聞きに行くんじゃなーかなって思ってる」
マリノ、まだ私が会っていない最後の仲間候補の名前だ。顔見知りなのは知っていたけど、仲間になるのにその人がどう関係するのかなぁ。首を傾げてると、リニが察したように続けて説明をしてくれた。
「二人は恋人同士なんだよ。だからたぶん、どっちかが入ればもう片方も入るって感じじゃねーかな?」
「こっ、恋人っ!?」
リニはあっけらかんとした様子で教えてくれたけど、私にとっては衝撃的な事実だった。まさかそんな理由だなんて思ってもみなかったから……。そ、それに、恋人同士なんて、身近にいなかったからびっくりして。でも、ウェールズは大人だし、恋人くらいいてもおかしくないよね。女の子の扱いにも慣れてそうだったし。
「プッ、お前、ほんっとうに初心だな。マジ、天然記念物だわ」
「かっ、からかわないでっ!」
でも、どうしても顔が赤くなってしまうのは止められない。ただちょっとビックリしただけだってば! あ、あんまりこっち見ないでー!






