面倒な男ウェールズ
街の中心部までやってきた。噴水の広場を通り過ぎて、開店準備で賑わい始めた商店街を横目に小道に入っていく。また小道に逸れるんだね……。キーファのところみたいに、わかりにくい場所にあったりするのかな。
「こういう目立つ立地は、土地代も高いからなー。場所を借りるだけでかなり大変だぜ? よほどの繁盛店じゃないと、大通りに店は出せねーもん」
それもそうか。個人経営って言っていたし、目立つ場所なんてとても借りられなかったんだ。でも、私からしてみれば、お店を出せるってだけで十分すごいんだけどね。
「心配すんな! 店は心配になるくらいボロくて小さいけど、キーファんとこほど変なとこにはねーから」
基準がキーファの工房っていうのがね。うん。まぁいいか。心配になるくらいボロいっていうのも気になるけど、全ては行けばわかるんだから。大事なのはウェールズという人柄だからね!
まだ朝早いからか、人通りは少ない。でも、月が一巡りするごとに噴水広場では朝市が開かれるそうで、その時は朝早くからでもものすごい人になるんだって。人混みは不安だけど、そこまで賑わう朝市なら一度は行ってみたいな。心のメモにしっかり記録しておく。
「お、見えてきたぜ。しかもちょうど店の外に出てるぞ」
「えっ、本当?」
小道に入って少し進むとリニがそう言うので、示された先に視線を向ける。た、確かにお店はその、ボロいという言葉が似合ってしまうような様子だった。だ、だって窓はないし、ドアは蝶番が一つ外れてるし、所々継ぎ接ぎなのがパッと見ただけでわかるんだもんっ!
というか、武器と防具の職人さんなら、ドアや窓の修理くらいお手の物ではないのだろうか。それとこれとはまた違うのかな。ちょっぴり不思議。
「おーす! ウェールズ! 調子はどうだ?」
建物については置いておいて、今はウェールズだよね。リニが声をかけた男性は、ドアの入り口に立て看板を置いているところだった。鱗のついた焦げ茶色の立派な尻尾が印象的……。リザード系の亜人かな?
リニの声に振り向いたその人物は、尻尾と同じ焦げ茶色の髪をオールバックにして、タバコを咥えている。首からゴーグルのようなものを下げていて、やや鋭い目つきでこちらを見ていた。
「あん? リニじゃねぇか。どうした朝っぱらから可愛い嬢ちゃん連れて。デートか?」
ウェールズは声をかけた人物がリニだと知ると、すぐにニッと笑って口からタバコの煙を吐いた。筋肉質でワイルドな印象だなぁ。でも、笑顔がなんだか可愛らしい。目つきが鋭いからギャップがあるなぁ。……ってあれ? 今、デートって言った?
「ちっ、ちちち違いますっ! 私は最近、ラナキラの仲間になったミクゥって言います!」
ここはちゃんと否定しておかないとね! 後でクレアに怒られちゃうもん。もう、二人で歩いてただけでデートだなんて……。でも、一般的に考えて男女の二人組が街を歩いてたらデートに見えちゃうのかなぁ。うん、気を付けなきゃ。
「……ぶわっはっはっ! 反応が新鮮だなぁ、おい。尻尾もブワッと膨ませちゃって、かぁわいいねぇ」
「ウェールズ、あんまりからかうなよ? こいつ、俺の上半身裸を見ただけで慌てるんだからさ」
「り、リニ!」
ウェールズはなんというか、大人の余裕を感じる雰囲気を纏っていた。初対面でからかわれはしたけど、不思議なことにあんまり嫌な気はしない。どちらかというと朝の件を掘り返したリニの方がタチが悪いよぉ! おかげで思い出してまた顔に熱が集まってきちゃう。ううっ!
「まじか! いいねぇ、初心だねぇ。今時珍しいくらいだ。しっかり守ってやれよぉ、リニ」
「危なっかしいのは確かだな。こいつの姉にも口煩く頼まれてるし、ちゃんと守るって」
そんな私を見てカラカラと陽気に笑うウェールズは、再びタバコを口に咥える。お店は今にも壊れそうで不安を覚えるけど、店主である彼からはものすごい生命力を感じるな。腕の良さを私はまだ知らないけれど、パッと見ただけで私ももったいないなって思っちゃった。
「ま、そんな話は置いといてさ。店が開く前にさっさと用件を伝えんぞ」
「なんだよ、ただ雑談しに来たんじゃなかったのか。寂しいねぇ」
「ははっ、思ってもないこと言うなよ。ってか、オレらが用があるって気付いてたくせに」
二人からは酒飲み仲間みたいな気安さを感じるな。気心知れた仲っていうやつかも。でも、喋る言葉全てがどこか冗談めいているから、何が本心かは見えにくい人だと思う。一見、ノリが良くて親しみやすい人ほど、相手を見ているものだよね。人の警戒心を和らげるのがうまいっていうか。確か、そういう人は詐欺師に向いてるって、クレアが言ってた気がする。
『ウェールズは攻略キャラじゃないんだけど、私は結構気に入ってるの。軽く詐欺師なんだけどね!』
クレアの前世の話の中で、ウェールズについてそう語っていたから。
だけど、心配はしていない。すぐに人を騙すとはいえ、仲間内では相手を本当に傷つけるようなことは言わない人だって力説されたもの。クレアの知るウェールズと目の前のウェールズが同じかどうかはわからないけど、必要以上に警戒することもないかなって思えるのはやっぱりその情報があるからね!
そう思っていたんだけど……。突然、額に手を当てて顔を横に振り、いかにもショックです、と言わんばかりにウェールズは眉尻を下げた。
「何でそう決め付けるんだ? 俺は本当に友達が遊びに来てくれなくて寂しいんだぜ? はー、寂しい。悲しい。傷ついた。こりゃ今日は誰かと話す気分にはなれねぇなぁ……」
な、何だろう。なんていうかその様子はまるで……。
「言外に、お前たちの話を聞くかどうかはそっちの出方次第だって言ってんだぜ、あいつ。あーいう面倒なとこあるんだよなぁ……」
はぁ、とため息を吐きながらリニが小声で教えてくれた。ああ、そうだ。まるで、子どもみたいだなって、ちょっと思ってしまった。ど、どーしようかなー……?






