腹を割って
カチャカチャと食器を洗う音をバックに、エクトルは話し続けた。目線は手元に落としてる。私もそれに倣って手を動かしつつ、耳だけエクトルの言葉に集中した。
「でもさ、クレアはなんか、やけに俺に突っかかってくるだろ? だからつい俺も言い返したりして。それもなんだか悪いなーって気はしてるんだけど、俺馬鹿だから、いつも乗せられちゃってさ。ミクゥちゃんにはカッコ悪いとこばっかり見せちゃってるよな」
そっか。エクトルはクレアにも同じように接しようとはしてたんだ。でもクレアはゲームの記憶があって、エクトルもそうだって警戒してるから……。
過敏になっちゃってるんだよね。クレアの勢いに乗っちゃうのは、エクトルもその記憶があるから余計にそうなのかもしれないな。……本当に、エクトルにも記憶があるのかは、私にはわからないけど。
「そんなことない。クレアの前で見せるエクトルの顔、私はいいなって思うよ?」
「えっ」
洗い終わった食器を、今度は綺麗な布で拭き上げていく。なんだか気恥ずかしいから、目線は相変わらず手元だ。エクトルの視線はこっちに向いてる気がするけど。
「クレアの前だけじゃないよ。リニやマクロ、他のみんなの前で見せる顔も。エクトルが自然体でいるんだなって、わかるから……。私はそっちの方がいいなって思う」
私だけ態度が違って寂しい、っていう気持ちは伝わってないよね? 出来るだけ自然に、さりげなく伝えたつもりだけど。だって、こんなこと考えてるだなんて、子どもみたいで知られるのは恥ずかしいもん。
「そう、かな? 自然体の俺って、口は悪いし喧嘩っ早いし、見た目とは全然違うなってよくみんなに言われるんだけど……。嫌な気持ちにならないか?」
みんなに? エクトルは、そんな風に言われることがよくあるんだ……。たしかに、エクトルは王子様みたいな外見をしてる。私だって初めて見たときは見惚れちゃったし、優しくて穏やかに微笑む姿がとてもよく似合うのは間違いない。
けど、仲間と楽しそうに大笑いしてたり、文句を言ったり、真面目な話をしたり。そう言った姿もとても素敵だと思う。外見だけで判断されたくないよね。そんな周りの言葉なんて、気にしなくていいんだよ。
「ならないよ、なるわけない。だって、それがエクトルなんだもん。ありのままでいてよ、エクトル」
「ミクゥちゃん……」
ちょっと気恥ずかしいけど、手元から目を離してきちんとエクトルの目を見て伝えた。エクトルはまた頬を赤く染めている。嬉しいって思ってもらえたかな? それなら私も嬉しい。
「あと、それも。ミクゥでいいよ? ううん、ミクゥって呼んでくれると嬉しいな」
それからちょっぴり、自分のワガママも付け加えちゃう。だって、本当に私だけ呼び方も余所余所しいんだもん! みんなと同じように呼んでほしいもの! グッと両拳を握りしめてエクトルに向き合ってそう言うと、エクトルは驚いたように目を見開いて、それから少し恥ずかしそうに笑った。
「ミクゥちゃん……。いや、ミクゥがいいなら、そうさせてもらうよ」
その笑顔が本当に綺麗で、ついつい見惚れちゃった。本当に整った顔立ちだもんね。キャンディスが即答で好きなのは顔って言った気持ちがちょっぴりわかったかも。ふふっ、クレアには怒られそうだから言わないけど。もちろん、恋なんてしてません!
「改めて、エクトル。これからもよろしくね」
「お、おう! よろしくな、ミクゥ!」
まだちょっと恥ずかしいのか、エクトルの顔は赤かったけど、距離が縮められて私は満足だ。こうして少しずつ、みんなと仲良くなっていけたらいいいな。拭き終わった食器を戸棚にしまいながら、私は胸が温かくなるのを感じた。
翌日、目覚めた私はまだ眠っているクレアとキャンディスを起こさないようにそっと身支度を終えて部屋を出た。同じベッドでスゥスゥ寝息を立てている二人はとても可愛い。
昨日はキャンディスが一緒に話そう! って私たちの部屋に遊びにきたんだよね。キャンディスはクレアのベッドに腰掛けて話してたから、多分そのまま寝ちゃったんだ。私も自分のベッドで一緒にお話ししてたんだけど、気付いたら寝ちゃってたみたい。だからいつまで二人が話してたのかはわからないんだけど、パッと見た限りだとまだ熟睡しているみたいだし、かなりお遅くまで喋ってたんじゃないかなって思う。
私もクレアも、友達とこうして寝るまでお喋りなんて初めてだから楽しかったな。キャンディスも楽しそうだったし、たまにはこんな日があってもいいと思う。せっかくだから、今日くらいはゆっくり寝かせてあげたい。
というわけで! 朝食の準備は私がやろうと思います! だ、大丈夫! 料理はそこまで得意じゃないってだけで、全く出来ないわけじゃないから……! 簡単なものなら準備出来ると思うしっ。
トーストとか卵料理でいいかな? 頭の中で何を準備しようか考えながら、私は一階へと降りていった。
「お、クレアじゃん。早いな!」
「きゃっ、り、りりりりリニっ!?」
メニューも決めてさぁ準備しよう! と意気込んでいた私の目に飛び込んできたのは、思いもよらない光景だった。声をかけられたから振り返って挨拶しようと思ってたんだけど、小さく悲鳴を漏らしてしまう。
だ、だって! リニったら、腰にタオルを巻いただけで、服を着てないんだもんっ! ちょ、ちょっとっ!? 目のやり場に困るよぉっ!






