三つの条件
とりあえず、話しかけることには成功したので続けて質問してみることにしよう。せっかくだからこのご馳走について!
「マクロは今日の料理、どれが気に入った?」
「……全部、美味いと思う」
その通りだけど話が終わっちゃうよー! 確かにサラダもお肉も満遍なく食べているし、好き嫌いもなさそう。えっと、えっとー。
「じゃあ、マクロの好きな食べ物は?」
せめて好みだけでも聞いてみたい! こうなったら、何かしらマクロの情報が知りたいもん。なんか意地になっちゃってるけど。
「なんでそんなこと聞くの?」
うっ、そうだよね。私もそう思う。ちょっとしつこかったかなぁ。思わず尻尾を抱きしめてしまった。はぁ、失敗。
「……甘いもの」
「え?」
しょんぼりしていたら、ポツリと呟く声が聞こえてきたので顔を上げる。マクロは相変わらずこちらに顔を向けることなく食べ続けているけど、その頰がほんのりと赤くなっているような気がした。もしかして……。
「好きなもの。聞いたのはそっちでしょ。だから、答えた」
恥ずかしかっただけ、なのかな? しかも甘いものが好きなんて、マクロの意外な可愛い面を見たかも。表情は変わらないし、素っ気ないところがあるから怖いなって思っていたけど、ちょっと見る目が変わった。
「そ、そっか! ふふ、教えてくれてありがとう。私も甘いものは大好きだよ」
それ以上、マクロが話すことはなかったけど、思い切って話しかけてよかった。今度話しかける時はスイーツの話題にしてみようかな、なんて思った。
「お待ちかねのデザートだ! すっげぇな本当。店に並んでるのと同じ形してる。クレア、どこで作り方覚えてくんだよ」
今日準備した食事が全てきれいに食べ尽くされたところで、またしてもリニがキッチンからフワフワのシフォンケーキを運んできてくれた。いちごのジャムを混ぜ込んであったよね、たしか。リニが感嘆の声を漏らすのもよくわかるよ。本当にフワフワなんだもん!
「大袈裟よ、リニ。手順通りに作ればこのくらい作れる人なんてたくさんいるわ」
「そんなもんかぁ? いや、でもすげぇだろ。あー、でも悪い。オレは甘いの苦手だから食えねぇけど」
「別に無理して食べる必要ないわよ。その分、食べたい人に渡るんだもの。問題ないわ」
そっか、リニは甘いのは好きじゃないんだね。そういえば野菜をあんまり食べずにお肉ばっかり食べてたっけ。結構、好き嫌いが多いのかもしれないな。
次にそっとマクロに視線を移すと、どことなく目が輝いている気がした。無表情だけど、嬉しそうなのが伝わる。それがわかるのも、事前情報の賜物だなー。リニの分まで食べてもらいたいね。
「スイーツまで作れるのか。これも美味しそうだ。本当にすごいんだな、クレア」
「ふふ、喜んでもらえるなら嬉しいわ」
マクロの次にたくさん食べていた本日のメインゲスト、アンジェラも嬉しそうにしてる。今日だけで、アンジェラとクレアは結構、仲良くなれたんじゃないかなって思う。二人の雰囲気はとても穏やかで優しく見えるから。
「アンジェラ。そろそろ話題を戻すけどさ」
みんなでスイーツを楽しみつつお茶を飲んでいる時、エクトルがそう切り出した。そうだ、目的を忘れるところだった。だって、あんまりにも楽しかったから。
みんなが揃ってアンジェラに注目する。彼女は両手をテーブルの上で組んで、それ以上エクトルが何かをいう前に口を開く。
「条件が三つある」
条件? つまり、それ次第で仲間に入るかどうかを決めるってことかな。うー、ドキドキする。エクトルが言ってみてくれと先を促した。
「一つ目は、ここに住まわせてもらいたいってこと。食事も住む場所も、あたしはいつもその場しのぎだから。ここを拠点にして長いし、ここで落ち着いてもいいかなとは思ってたんだ」
もちろん、必要な分の支払いはするとアンジェラは言う。むしろ、それはこちらも望むところなので問題なさそう!
「二つ目は、他所からの依頼を引き受けることを許してほしい。フリーとして動いて長いから、あんたたち以外にも古い付き合いってのがあるんだ。すぐにはギルドに所属したと伝えて回るのは厳しい」
なるほど。アンジェラはとても腕のいい剣士だから、護衛依頼とか討伐の時に引っ張りだこっぽいもんね。ギルドに所属したから依頼はラナキラに、なんて突然言い始めたら、困ってしまうお客さんもいるかもしれないんだ。
「そして三つ目。……仲間になるなら、絶対に裏切らないと約束してほしい。もし、たった一人でも裏切る者がいたら、その時は……あたしが斬る。この三つを守れそうなら、あたしを仲間に入れてほしい」
ピリッとした空気を纏わせながら言うアンジェラさんの言葉は、とても誠実なものだと感じた。厳しいように聞こえるかもしれないけど、全くの他人が集まるんだもん。組織のルールとしては大事なことだと思うよ。仲良しグループってわけじゃないんだから。もちろん、仲良くはしたいけど!
言葉を切ったアンジェラは、真っ直ぐな瞳でエクトルを見つめている。当のエクトルはニッと笑って一つ一つの条件について答えていく。
「ここに住んでもらうってのはむしろこっちから誘おうと思ってたからな。部屋は余ってるし食事も問題ない。あー、毎回こんなご馳走ってわけでもねーし、作る人が毎回クレアってわけでもないけど」
「でも、出来るだけ担当するわよ? 料理をするのは好きだから」
支払いのシステムは大事なことなのでまた別の機会にしっかり話し合おうとエクトルは提案した。うん、それは私たちもだよね。今のところ頼りっきりになってるからきちんと決めたいし、借りた分は返したいし!
「二つ目の件も問題ないな。ただ、依頼を受ける度にラナキラ所属になったってことを伝えては欲しい。少しずつ周知されてくれりゃそれでいいからさ。その後の個人的な依頼も別に受けていいぞ。報告はしてもらいたいけど」
そして最後に、とエクトルは立ち上がった。それからアンジェラの前まで行くと彼女の前で立ち止まって右手を差し出す。
「裏切りは許さない。望むところだ! 仲間の絆を大切にするギルドにしたいって思ってるからな! よろしく頼むよ、アンジェラ」
エクトルの意見に、誰も文句はない。みんな、口元に笑みを浮かべて二人の様子を見守っている。アンジェラはその言葉を受けてフッと笑うと、エクトルの手を取ってガッチリと握手をした。
「ああ。こちらこそ」
やったー! アンジェラの仲間入りが無事に決まったね! 私はクレアと軽くハイタッチした。






