ご馳走トラップ
いい匂いが充満してきた。すでに食卓には食器やサラダ、パンが並んでいていつでもお客様を迎えられるように整えてある。
「はい、これ運んで」
「うん! んー、このシチュー私大好き!」
お皿に盛られたブラウンシチューは大きめな野菜とお肉が入っていて匂いだけでもう美味しい。濃厚で、お肉も柔らかくて、パンにとってもよく合うのだ。
ダメダメ、後少しの我慢。よだれを垂らさないように気を付けながら運んでいると、ホールの方から音が聞こえてきた。アンジェラが来たのだろう。数十秒後、予想通りエクトルに案内されてアンジェラがリビングへとやってきた。
「お邪魔する。うっ、こ、これは……凄まじくいい匂いだな!?」
入って早々、アンジェラはよだれを垂らした。気持ちはとってもわかるよ! そわそわしながら案内された席に座るアンジェラは、クールビューティーな印象がどこかへいってしまったのかと思うほど可愛らしく見える。
「リニー! ちょっと手伝って!」
「お? なんだ?」
すると、キッチンの方からクレアがリニを呼ぶ声が聞こえてくる。どうやらメイン料理が完成したようだ。
「おうお前ら、メイン料理だぞー! くっそ美味そう。今すぐ齧りつきてぇ」
「お、おおおおおお!!」
そうしてリニが軽々と運んで来たのは、ローストチキンだった。チキンは結構大きいから、クレアじゃ一人で運べなかったね。力持ちのリニは片手で持ってるけど。
「中にはモチモチ食感のピラフを詰めてみたわ。たくさん食べるって聞いたから、お腹に溜まる方がいいかと思って。香草も使ってるから臭みもないと思うけど……なんか、気合い入れすぎてパーティーみたいになっちゃったわね」
食卓には所狭しと他にもいろんな料理が並んでいる。サラダが三種類、パンがたくさん、チーズやハムの乗ったクラッカーにブラウンシチュー。揚げたポテトや串焼きもあるし、冷蔵庫にはデザートまで用意してある。本当にパーティーみたい。ついこの間の村のお祭りを思い出すよ。
「だが、いくらなんでも多すぎないか?」
「ああ、今日は他に後二人呼んでるんだよ。ん、噂をすればなんとやら。来たみたいだね」
そう、今日の夕食に招待したのはアンジェラだけではないのです!
「お邪魔しまーす! うわぁ、いい匂いーっ!」
「うぅ、研究の途中だったんだけどぉ……」
元気いっぱいなキャンディスに引きずられるように、キーファもやってきた。そう、早速エクトルの通信魔道具で二人のことも誘ったのだ。もちろん最初は断られたんだけど、側で聞いていたキャンディスが大賛成したため今に至る、というわけ。
「たまにはいいだろ? ほら、通信魔道具も問題なく使えたって報告もかねてさ」
「その報告は通信ですでに終えてるからいいのに……でも、すごいご馳走だね。ちょっと来て良かったかも。久しぶりに胃が空腹を訴えてるよ」
おぉ、食より研究なキーファをもその気にさせるクレアの料理! すごい! これならアンジェラも好感触かもしれないよね。チラッと彼女を目だけで見てみると、もう、なんというか、食卓に釘付けだった。これ以上のおあずけはかわいそうな気がする。
早く食べさせてあげなきゃ、と思ったので、みんなを席に誘導した。最後に準備していたクレアが座ったところでエクトルが口を開く。
「じゃ、早速いただきたいところなんだけどその前に!」
「だぁぁぁ、焦らすなぁ!? エクトル!?」
もはやよだれを垂らさんばかりのアンジェラに、エクトルはふふふと口角を上げる。あ、悪い顔してる……!
「実はな、アンジェラをここに呼んだのは、俺たちのギルドのメンバーになってもらえないかって誘うためだったんだ。ここにいるメンバーはみんな、すでに仲間になることが決まってるんだよ」
「は? ギルドって……このラナキラのか。確かお前たちは三人で組んでただろう。いつの間に四人も増えたんだ?」
チラチラと食事とエクトルを交互に見ながらアンジェラが尋ねるので、エクトルは仲間を増やすことにした経緯を簡単に説明した。私たちやキーファとキャンディスがいつどのように仲間入りしたかは割愛しているみたい。
まぁ、ここまで料理に心を奪われてたら話してたとしても覚えてなさそうだよね。うぅ、お腹を空かせてるだろうに、ちょっとかわいそう。
「つまり、あたしを誘ったのは人数合わせのためか」
「ぶっちゃけるとそうなんだけどさ、俺らだって誰でもいいわけじゃない。せっかくなら信用出来て、実力もある奴を仲間にしたいからさ。上級の名に恥じるわけにはいかないし」
上級の名に恥じないように……その言葉は私にも深く刺さった。そうだよね。ただの共同生活じゃないんだ。クレアはゲームの運命を阻止しなきゃって言ってるからその件については私も協力はするけど、上級ギルドのメンバーになるんだから、その辺りの自覚もしっかり持ってないとダメだよね。
「これまでフリーで活躍してたお前にとっては、そこまで大きなメリットはないかもしれないけど、収入が減るってことはないと思うし、住む場所だってここの一室を使ってもらって構わない。それに……」
エクトルはそこで一度言葉を切り、スッと両手を広げて食卓に並ぶ料理を示した。
「いつもこうとはいかないが、仲間になればこーんな美味しい料理が頻繁に食べられるぞ! 悪い話じゃないと思うんだが、どうかな?」
もはや完全に料理で釣ってる! 隠す気もないみたいでむしろ清々しいよ! でも、たぶん一番効果的だよね。アンジェラにとってはこれ以上ないほどのメリットかもしれないし。みんなでジッと彼女の反応を待つ。
「……やっぱり罠だったんだな?」
「お前だって、罠ってわかってても来てくれたんだろ?」
アンジェラが横目でエクトルを睨んだから、怒らせちゃったかなって心配になった。だけど……すぐにフッと笑って口を開く。
「それがメリットになるかどうかは、食事を終えてからだ。味がわからなかいと返事も出来ない」
「……くくっ、それもそうだな! ま! 絶対に気に入るけどな!」
良かった、怒ってはいなさそう。こうして、アンジェラの仲間入りは食事を終えてから返事をする、ということになり、私たちはようやくクレアのご馳走をみんなでお腹いっぱいになるまで堪能した。んーっ、やっぱりどれもこれも美味しいっ! 食べ過ぎちゃいそう!






