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思わぬ展開


 尻尾に魔力が溜まっていくのがわかる。その魔力を使って私は光の膜を張り、魔物たちを一箇所に集めた。

 私に今出来る魔法はこれだけ。光の魔法を得意とする私は、治療や防御壁などの支援の魔法しか使えない。空を飛ぶのは翼狐の特性だから魔法っていえるのかな? まぁそれはおいておいて。


『防御壁? それって自分たちじゃなくて魔物に向けてやれば、一箇所に集められるんじゃない?』


 魔法の修行中、クレアにそう言われてハッとしたのだ。自分たちを守るための壁だけど、魔物を通さないのなら捕縛にも使えるんじゃないかって。目から鱗だった。そういう逆転の発想っていうのかな、そういう思いつきが浮かぶのがクレアのすごいところなんだよね。それ以外にも色々とクレアはすごいんだけど!

 だから、攻撃手段を持たない私は、魔物を一箇所に集めたり目眩しをするのが仕事。そうして集めた魔物たちを────


「炎舞! 狐火ぃっ!!」


 クレアが炎の魔法で一網打尽するのだ。舞うようにくるくると動き回るクレアはとっても綺麗。身に纏った炎も踊っているように見えて幻想的。それでいて威力はえげつないから魔物たちもひとたまりもないんだ。苦しみながら焼かれていく魔物を見るのはやっぱり心苦しいんだけど……こちらも生き残るためなんだから割り切らなきゃ。魔物は無差別に生き物を襲うってことを思い出して、私! プルプルと顔を横に振り、パンッと軽く自分の頰を叩いて、私は気合を入れ直した。


「狐火! 狐火―っ!」


 とまぁ、かなり強い技を繰り出すクレアではあるんだけど、使えるのはこれだけ。私たちの手札はとっても少ないのだ。自己流だし、魔力の成長もまだ中途半端な私たちに出来るのはこのくらいが限界。むしろ、ここまで使える人の方が少ないと思う。村の大人たちだって、生活に必要な魔法しか使えなかったり、魔物を撃退するにも一、二発攻撃魔法が撃てればいい方らしいから。


「はぁっ、はぁっ、もうっ、どれだけいるのぉ、魔物多すぎ! 狐火―っ!」

「クレア、無理しないでっ」


 クレアの息が上がってきた。ずっと動き回っているクレアはもう限界だ。私なんてただ飛び回って魔物を一箇所に集めてるだけ。ヘトヘトになってきたクレアを放っておけるはずもなかった。


「ダメっ! だって、魔物はまだまだあんなに……あ……」

「クレア? あ……」


 まだ諦める気のないクレアの視線を私も追うと、そこには絶望的な光景が広がっていた。魔物の群れが、まだまだ先まで広がっていたのだ。


「あ、あんなに……たくさん。そんなの、聞いてないぃ」

「クレア……もう戻ろう? それで、急いで村の人たちを避難させようよ!」


 いつも強気で元気いっぱいなクレアの心が折れかけているのがわかった。いくらなんでもこの魔物の群れを私たちだけでどうにかするなんて無理だ。出来るだけのことはしたつもりだったけど、こんなの山火事を水鉄砲で消そうとしてるようなものだもん。あとはもう、このことを伝えて逃げるほかない。村はめちゃくちゃになるかもしれないけど……みんなが死んでしまうよりずっといい!


「でも、それじゃ間に合わない。ミクゥ、村のみんなに伝えてきて! 私はここで、少しでも食い止めるから……!」

「そ、そんなの……!」

「大丈夫! ちゃんと逃げるから。ただの時間稼ぎ! ほら、行って!」


 私はジッとクレアの紅い瞳を見つめた。色んな感情の色が見える。決意と、恐怖の色。私は唇を噛み締め、拳を握りしめながらすぐに背に光の羽を出して宙に浮く。


「……絶対に、迎えに来るからっ」

「……そうこなくっちゃ」


 拳同士を軽くぶつけ合い、私は振り返らずに飛び立った。絶対に間に合う。私の全速飛行はものすごく速いんだからっ! だって、たくさん修行したもん!

 心配だよ。すごく心配。でも、だからこそ急がなくちゃ。引っ込み思案で、トロくて、何も出来ない私だけど村の人たちは信じてくれるかな……ううん、信じてもらわなきゃ。だって、クレアの命がかかってるんだから。

 私はいつも以上に魔力を羽に込めて、全速力で村に向かおうとした。……んだけど。


「え……」


 飛行を始めてすぐ、人がいるのを発見した。村まではまだ距離があって、森までのこんな何もない場所に人なんているわけないのに。でも、いたんだ。三人も。

 そしてその中の一人、サラリとした金髪に整った顔立ちの、完全なる人型を取ったこの人には見覚えがあり過ぎた。


「……お互いに、説明は後みたいだね」

「ど、どうして……」


 戸惑う私に、彼は宙に浮かんだままの私に向かって手を差し出してきた。


「たぶん、時間がないんだよね。今、君は助けを必要としている。そう思っていい?」


 ミクゥちゃん、と私の名前を呼びながら微笑むエクトルに、私は呆然と頷くことしか出来ない。差し出されたその手に、私は思わずそっと自分の手を乗せた。


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