簡単な釣り
「あ、あの、ごめんなさい。つい……!」
言ってしまったものは仕方ない。私は素直に頭を下げた。初対面で不躾だったよね。大反省!
「なぜ謝る? 褒めてくれたろう。むしろお礼を言いたいくらいだが?」
「あうっ……!」
だというのにアンジェラは優しい言葉をかけてくれた。い、いい人っ! すると、おいおいと笑いながらエクトルが会話に混ざってくれた。
「相変わらずだなアンジェラ。そんなだから女にモテるんだよな」
「そんなってどんなだ。別にモテようと思って何かをしてるわけじゃないぞ」
「わかってるよ。お前が天然タラシだってことは」
そ、そっか。女の子にモテるんだ。こんなに素敵で優しかったらそれも頷けるよ。
一人でうんうん、と頷きながら納得していると、早速エクトルがアンジェラに提案をし始めた。そうだ、夕飯に誘うんだったよね。
「ちょっとアンジェラに折り入って相談したいことがあってさ。良かったら今晩、うちの本拠地で夕飯でもどうだ?」
「相談? それならここでもいいだろう」
「んー、あんまり人の多いところじゃちょっとな。それに、ゆっくり話したいし」
アンジェラは少しだけ怪訝な表情を浮かべている。そんな話を持ちかけられたのは初めてだ、と警戒しているみたいだ。
「そう言ってあたしを家に連れ込み、手籠にしようとした奴らもいたからな……」
えっ!? アンジェラの言葉を聞いて私は思わず声を上げた。たぶん、耳も尻尾も今は立っていると思う。そのくらい衝撃的だったのだ。そっか、アンジェラは女の子なんだもんね……そういう危険とも隣合わせってことなんだ。酷い目に遭ったりしてないかな? 不安になって立っていた耳と尻尾が今度は一気にしゅんと垂れ下がる。
「うっわ、ご愁傷様だなー、そいつら」
だけど、リニの返した言葉に拍子抜けしてしまった。随分あっさりとしたものいいじゃない? って思ったけど……今、そいつらって言ったよね? アンジェラじゃなくて?
「まったくだ。腕っぷしはもちろん、頭もいい上に酒も強いし毒耐性も持ってる。アンジェラを襲える奴なんか魔王くらいじゃないか? だからミクゥちゃん、アンジェラの心配はしなくても大丈夫だよ」
「ん? あたしの心配をしてくれたのか。エクトルの言う通り、全て返り討ちにしているから問題ない」
ほえぇ、すっごい。そんなに強いんだ、アンジェラって。ますます憧れちゃうな。
「大丈夫だからって揉め事が好きなわけじゃない。むしろいい迷惑なんだ。お前たちのことはそれなりに信用しているが、そういうことばかり起こるからね、警戒してしまうのは許せ」
アンジェラの言うことはもっともだよね。誰だって、自分を陥れようとしている中に飛び込みたいとは思わないだろうし。うーん、どうにか安心してもらえないかなぁ? よ、よし。
「あ、あのね、アンジェラ。私はミクゥっていうの。双子のクレアと一緒に、最近、エクトルたちの仲間になったんだよ」
私は思い切って声をかけた。まずは名乗らないとね。背が高いので見上げながらそう言うと、アンジェラはフッと目元を和らげてよろしく、と手を差し出してくれた。握った手は、女性らしいものだったけど、剣を握っているからかしっかりとしている大きな手だった。
「それでね、クレアはとっても料理上手なの。ご飯だけじゃなくて、ケーキやパイなんかも上手なんだよ! 私たちはずっと村で過ごしてきて、この美味しさを知ってるのは村のみんなとエクトルたちだけで、それで、その……」
あれ? だんだん何を言ってるのかわからなくなってきた。結局何が言いたいのかな、私? けど、ちゃんと最後まで言わないとっ。
「その、警戒しちゃうのは、仕方ないと思う。すぐに信じてとは言えないけど……アンジェラにも食べて欲しいなって思うの。クレアのご飯、すっごく美味しいから!」
うっ、結局はご飯で釣ろうとしてるように見えるなぁ。余計な口は挟まない方が良かったかな。勢いで言ってしまったことを少し後悔していると、ガシッとアンジェラに両手を掴まれた。顔を上げると、キラキラとした眼差しの彼女と目が合う。え? え?
「そ、そんなに美味しいのか……? に、肉料理とかは……?」
「食い付いた」
「食い付いたな。さすがはミクゥちゃん。純真無垢の勝利だ」
背後から聞こえるマクロとエクトルの冷静な言葉に乾いた笑いが漏れた。そ、そんなに食べることが好きなんだねぇ……予想外っ! 戸惑っていると、スッとクレアが横に来てくれた。その顔には苦笑を浮かべている。
「私がクレアよ。よろしく、アンジェラ。あなたは肉料理が好きなのね? じゃあメインはそうするわ」
「本当か!? 必ず行く!!」
クレアの提案に一も二もなく頷いたアンジェラに呆気にとられてしまう。エクトルたちは満足そうに第一関門は突破だな、と頷き合っていた。なんなら、仲間になったも同然だなとまで言ってる。そ、それはさすがに気が早いと思うけどなぁ。
で、でも、こんなにも美味しいもの好きなら、クレアの料理は絶対気にいるだろうし……けどいくらなんでもあんなに警戒していたのに、ご飯を食べたからってすぐに決まったりは、しない、よねぇ?
アンジェラさんは用事があるのか、じゃあまた夜に、とだけ言い残してご機嫌で去って行った。
……とりあえず約束を取り付けたんだから良かったと思おう。いい方向に進んでるのは確かだし、あとは夜アンジェラをもてなすことを考えよう!
居酒屋を後にした私たちは、二手に分かれて買い物を済ませ、それぞれ本拠地へと戻り、アンジェラを迎える準備に勤しんだ。






