胃袋を掴もう作戦
「じゃ、今度こそ次に行くよ。キーファ、ありがとな。仲間が確定したらこれで連絡する。どーやって使うんだ?」
エクトルが腕輪を着けながら首を傾げた。早速道具を使えるのが羨ましくもある。キーファには色々と話を聞きたかったけど、それは今度遊びに来たときでいいね。
「うん、待ってるよ。魔力を流したら魔石が光るから。点滅したら相手も魔力を流した合図。会話出来るようになるよ。たぶん」
「たぶんかよ」
「だって、まだ離れた場所での試験はしたことないし」
使い方は意外と簡単みたいだ。魔力を流すだけでいいんだね。火を出す魔道具と同じ感覚なのかも。お互いに魔力を流し合えば繋がるっていう仕組みだなんて、そんな複雑なの物を実現出来るキーファはすごいな。
「じゃ、試しに今日の夜にでも一度使ってみるよ。……ちゃんと気付けよ?」
「ははは、自信ないなぁ!」
あー、研究に没頭したり寝てたりするかもってことかな? ありそうだなぁ。短時間しか話してないけど、なんとなくわかるよ。
結局、最後まで冗談なのか本気なのかよくわからないキーファだったけど、少しずつ仲良くなれたらいいな。もちろんキャンディスとも! 今度来る時はスイーツをお土産に持っていこうっと。
「次は、アンジェラのとこに行こうと思うんだ」
キーファたちの元を出た私たちが向かうのは、なんと居酒屋。お昼の間は食堂を経営してるんだって。そこにはフリーの冒険者が集まって、色んなギルドのメンバーが仕事を募集してたりするのだとか。エクトルたちもアンジェラとはそこで出会ったんだって。何度か依頼も受けてもらってるみたい。
「アンジェラは実力をメキメキつけてきてるから、もしかしたら特定のギルドに所属するなんて、って断られるかもしれないけど」
やっぱり、仕事を確実にこなす人っていうのは決まっていくものだよね。そして、そういう人たちは色んなギルドから依頼を頼まれるから引っ張りだこになるんだ。そうなると、フリーでいた方が気楽だし稼げるしで、どこかに所属するっていうことに素直に了承は出来ないかもしれないよね。
「一つだけ可能性があるぜ! クレア!」
「へ? 私? 何?」
みんなで難しい顔をしていると、何かを思いついたというようにリニが声を上げた。しかもクレアを呼んで。クレアは自分を指差して耳をピンッと立てている。突然名前を叫ばれたら驚くよね。
「アンジェラが金を稼ぐ理由って何か知ってるか?」
「あ、なるほどな」
ニヤッと笑いながら言ったリニの言葉に、エクトルは納得したようにポンと手を叩いた。私たちにもわかるように説明をお願いー! すると、側にいたマクロが簡潔に教えてくれる。
「アンジェラは食通だから。食べ物にお金をかけることを厭わない」
つまり、胃袋掴もう大作戦ってことかな? クレアの料理は本当に美味しいし、それはこの三人もよく知ってる。というか通用すると思ったからこそ提案したんだろうし。だから、アンジェラにはクレアの手料理を食べさせてあげて、仲間になったら毎日食べられるよ、って話をつける、ってことかな。そんなにうまくいくかな? クレアの料理はたしかにとっても美味しいけど。
「それ、私、責任重大じゃない?」
「もちろん、俺も別の角度からアプローチはするよ。まずはアンジェラを夕飯に誘って、クレアの手料理を振舞う、というところから話を持って行きたいんだけど……ダメかな?」
みんなで食事をしながら仲間にならないかっていう勧誘をしよう、って作戦かな? それなら自然にクレアの料理を食べてもらえるし、落ち着いて話も出来そうだね。ただ、あとはクレア次第なんだけど……。
「それは別に構わないけど……料理一つで勧誘出来るとは思わないわ。ちゃんと他の手も考えてよ?」
「それはもちろん! よし、方向性が決まったな! 助かるよクレア」
「べ、別に夕飯作るくらい、いつもやってることだし……」
良かった、クレアが作ってくれるならきっと大丈夫だよね! 本人はあんまり自信がないみたいだけど……あと、エクトルにお礼を言われてちょっと照れてる? こういうとこ、クレアって可愛いんだよね。そっぽ向いてるけど尻尾がご機嫌にユラユラしてるもん。
「んじゃ! まずは居酒屋でアンジェラ探すかー! いるかな?」
「仕事じゃなきゃいるでしょ。あそこにアンジェラが入り浸ってるのはお前も知ってるだろ、馬鹿リニ」
「てんめぇ、いちいち突っ掛からねぇと会話も出来ねぇのかよ、黒頭!?」
「お前が馬鹿みたいなこと言うからだろ、馬鹿」
せっかくこれからって時にこの二人はもうっ! エクトルは肩を竦めてため息を吐いてるし、クレアももう放っておく姿勢だし。えーっと、私はどうしよう?
うーん、このままにはしておけないかな。二人のこのやり取りがいつも通りなのは知ってるけど、それでも少しはお互いに歩み寄るべきだと思うっ! 私は勇気を出して二人の間に入り、腕を組んだ。
「ほら、もう行こう? リニ、マクロ」
言い争う二人の間に割って入るのはちょっぴり怖かったけど、この二人が関係のない私にまで攻撃的になることはないって思ったから。なんだかんだで、いい人たちだもん。二人の顔を交互に見上げてにっこり笑って見せると、二人とも困ったように口を噤み、急に大人しくなった。ふふ、良かった!
「え、えぇぇ、お前ら、ずるくねぇ!?」
「ほらほら行くわよエクトル。さっさとその居酒屋まで案内しなさいよ」
「くっそクレア、お前ぇっ!」
今度はエクトルが二人に対して怒り出したけど、それはクレアが宥めてくれた。頼りになるなぁ、クレアは。そうだよね、これからも私たちがクッションになることで収まることがあるかもしれない。仲間なんだもん、ちょっとずつ関係を築いていかないとね。






