魔道具職人キーファ
一方のエクトルは慌てたようにキャンディスを引き剥がそうともがいている。あんまり力を入れられないのだろう、四苦八苦してるみたいだ。えー、なんで嫌そうにするのかな。私だったらあんな可愛い子に抱きしめられたら嬉しくて仕方ないのに!
「む、そこの二人だぁれ? 見たことない」
ジーッと見すぎていたからか、キャンディスも私たちに気付いたみたい。プクッと頰を膨らませてこっちを睨んでいる。そんな姿も可愛いけど、敵視しないでー! 私は貴女と仲良くなりたいよー!
「あ、ああ、紹介するから。でもその前にキーファを呼んでくれよ。話はそれからだ!」
「ええーっ!? エクトルに近付く女狐が二人もいるのに離れたくなぁい! エクトルも一緒に呼びに行くならいいよ?」
「あーもう! それでいいから! だからいい加減離せって。歩きにくいだろっ」
女狐って……確かにそうだけど! うう、敵視されてるなぁ。まだ何もしてないのに。というか警戒されてるのかな? あんなに警戒心のある子なのに、エクトルにはすごく懐いてるんだなぁ。何か、仲良くなるきっかけがあったのかな。
キャンディスはエクトルの言葉を聞いて不服そうに抱きつくのはやめたけど、今度は腕にギュッとしがみついている。
「オレが付いてってやろーかー?」
「野蛮人は引っ込んでてっ」
ニヤニヤしながら茶々を入れるリニに対しては冷たい。声のトーンも低い。すっごくわかりやすい態度だなぁ。リニもわかってて言ってるから、からかわれたのが気に障ったんだと思う。もう、リニったらキャンディスが可愛いからってあんまり言うと嫌われちゃうよ?
「はー、しっかしエクトルのどこがそんなに好きかねー?」
だというのに、リニはまだからかってる。懲りないなぁ、もう。でもリニの質問に対するキャンディスの言葉には絶句してしまった。
「顔」
「「「…………」」」
誰も何も言えないまま、キャンディスはエクトルの腕をグイグイ引っ張りながら大きい方の建物に消えていった。か、顔って……! 確かにすっごく整ってるけど、なんか、こう、力が抜けちゃうような理由だった!
「……そういえば初対面でしがみつかれてたもんね。エクトルは」
「そ、そうなんだ」
マクロの冷静な一言に、もはや苦笑しか浮かべられないでいると、今度はクレアがポツリと呟いた。
「あの子とは仲良くなれそうね……」
なんで!? どの辺にそう思う要素があったの!? うーん、私にはわからないなぁ。不安しかないよ。仲良くなれますようにっ!
「あー、もう……何? 朝早くから……」
「すぐ終わるから! もうほんっと寝起き悪いな、キーファは。そんなに早い時間でもねぇし!」
しばらくして、大きな建物から眠そうに目をこすりながら歩く背の高い男の人が出てきた。黄緑色の髪があちこち跳ねていて、前髪なんかはおかしなくらい変な方向を向いている。まさに今起きたばかり、って感じがした。え、無理に起こしちゃって申し訳ないな。
そんな彼の背をグイグイ押しながら戻ってきたエクトルはやれやれ、といった呆れた顔をしてる。気心知れた仲っていう雰囲気だね。
「そもそも寝るならベッドで寝ろよな」
「ダメダメ、エクトル。キー兄に言ってもぜーんぜん言うこと聞かないんだから。こっちの家はもはや私専用の部屋になってるもん。研究所から出てくること自体、今が五日ぶりなんだよ?」
え、あれ? こっちの大きな建物が家じゃなかったの? こんなに大きな建物が研究所? ってことは隣の小さな建物が居住空間ってことかぁ。ものすごく研究に力を入れてるんだなぁ。すごい。
「げっ、マジで不健康だな。キーファはキャンディスがいなかったらとっくに研究所でくたばってそうだよな」
「そんなことにはならないよっ! キー兄の栄養管理はこのキャンが完璧に管理してるんだからっ」
えへん、と胸を張ったキャンディスは誇らしげでとても可愛い。ふわんと揺れる柔らかな髪がまた可愛いし、尻尾がくるんってなってるのも可愛い。女の子らしいってこういう子のことなんだろうな。身に付けている物もお洒落だし。
「それはそれ。食事だけじゃどうにもならない。キーファはどう考えても運動不足」
「そ、そこはさすがにキャンだけじゃどうにもならないよぉ。だからみんなにもお願いしてるのに」
「そんなに暇じゃない」
「むっ、何よ、意地悪ちび助っ」
マクロの冷静な指摘と冷たい対応にキャンディスがプクッとむくれた。い、言い方、どうにかならないかな? お互いに、だけど。それにしてもおかしいなぁ。クレアの話だと、キャンディスはマクロのライバルキャラっていう話だったのに。クレアも難しい顔をして言い合う二人を見てる。
「んー、用がないなら自分はもう一眠りさせてもらうよー? 昨日は寝てないんだ。……いや、一昨日も寝てないな。その前も、か?」
え、何日寝てないの? そんなに没頭しちゃうんだ。驚いて彼を見つめていたら、そのことに気付いたのかキーファがこちらに顔を向けた。
「お、おぉ? 誰だい、この可愛い子たち。自分のお嫁さん候補に連れてきてくれたのかな?」
「ざっけんな、この糸目野郎、焦がすぞ」
「ははは、怖いなぁエクトルは」
なんか、軽い人だなぁ。胸ぐらを掴んで凄むエクトルはどこか本気で怖いけど。冗談で言ったんだろうからそんなに怒らなくても大丈夫だよ? 慌ててそう声をかけたことでようやくエクトルもキーファから手を離した。ホッ。
「まじ、天使かよ、ミクゥちゃん……」
「……いやぁ、ほんと。天使のごとき優しさだね。本気で狙おうかな?」
キーファが真顔でそんなことを言うものだから、またエクトルがやっぱり焦がす! って胸ぐらを掴み始めた。あー、もうっ! というかキーファも冗談なのか本気なのかわからない言い方はよくないよーっ! あんなにガンガン揺すられてるのに、はははと朗らかに笑ってられるのもすごいけど。
「さすがは糸目腹黒おっとり兄さんね……何考えてんのか読めない人だわ」
そしてクレアがボソッと呟いた内容にはちょっと理解が追いつかなかった。え、腹黒……? って何?






