最初の勧誘
「さて! 今日は新しい仲間に説得しに行こうと思う!」
朝、朝食の席でエクトルがみんなに向かってそう呼びかけた。そっか、いよいよ仲間を増やすんだね。
私たちがこのラナキラという中級ギルドにやってきて早十日が過ぎた。屋敷の片付けや整理をしたり、ギルド周辺の街の散策をしたり、私たちがラナキラの仲間となるべくギルドの登録をしたり、としている内にあっという間に日が過ぎていたんだよね。
ちなみに、クレアはギリギリまでギルド登録を渋ってた。まだシナリオが回避出来るぅ、とかなんとか言って。でもクレアには悪いけど、私はこの新しい生活にワクワクしてた。初めて見るものや初めての経験がたくさんで、刺激に溢れていて毎日が楽しかったから! 新しい仲間に会えるのも楽しみにしてたんだよ? そう言う私の説得でようやくクレアもギルド登録してくれたんだよね。
「そ、そりゃあ私だって、毎日楽しいわ。田舎の村にいたんじゃ退屈で仕方なかったと思うもの。これまでは特訓、特訓で忙しくしていたから気にならなかったけど」
でも、こんなことを言っていたから、無理強いではなかったと思う。クレアが今の生活を楽しんでることくらい、双子の妹である私にはお見通しなんだから!
「お、キャンディスのとこか?」
エクトルの言葉を受け、リニがニヤニヤしながら頬杖をついた。あ、その名前は聞いたことがある。たしか、ライバルキャラだったよね、マクロルートの。
「うっ、い、いや。あいつんとこってわけじゃなくて……いるだろうけど」
「ああ、つまりキーファのとこね」
言い淀むエクトルを見て、コーヒーカップを口に運びながらマクロが言う。キーファ? その名前は初めて聞いたかも。それにしても、エクトルはどこか慌てた様子。どうしたんだろ?
「あー、こほん。そうだ、魔道具職人のキーファ。俺たちいつもこの人の道具を買ってるんだ。あと、試作品を押し付けては感想を教えてくれって頼まれることもある」
魔道具職人か。魔道具自体、あんまり触れることがなかったからピンとこないんだけど……便利な道具っていうのは知ってる。色々見せてもらいたいな。どうやって作るのかも興味がある。仲良くなれたら作ってるところを見せてもらえたりしないかなぁ。
「むしろ試作品渡されることの方が多いけどなー。意味わかんねー道具ばっかで面白ぇからいいんだけどー」
「面白い? 物騒な道具の間違いでしょ」
続くリニとマクロの言葉を聞いてちょっと考え直す。えーっと、見てみたいというのは置いておいて、とりあえず話を聞くところからにしよう、そうしよう。
「優秀な腕前だってことは確かだよ。失敗作はないし……用途が不明なのは多いけど。ともかく! 信用は出来るヤツだから!」
「キーファならゆるっとオーケーしてくれそうだよなー。あとキャンディスは絶対入るって言うだろうし」
エクトルがそこまで信用してる相手ならきっと大丈夫なんだろうな。ちょっと変わった人なのかもしれないけど、仲良くなれるように努力しよう。それにしても、リニがさっきからニヤニヤしてる。あと、そのキーファっていう人のことを話してるのにどうしてキャンディスが出てくるんだろう?
「えーっと、そのキャンディスっていうのは? 仲間に入れる候補の一人なのかしら」
クレアも同じ疑問を持ったみたいでエクトルたちに質問をしている。すると、エクトルよりも先にリニがノリノリで教えてくれた。だからどうしてそんなに嬉しそうなのかな?
「そうそう。キーファとキャンディスは従兄妹なんだよ。母親同士が双子でさ」
そんな設定あったんだ、とクレアが小さな声で呟いた。そっか、従兄妹っていうのは知らなかったんだね。そういう繋がりがあったんだ。だからさっきからその名前が出てくるんだ、と納得しかけた時、一段とニヤけたリニが爆弾発言を落とした。
「で、そのキャンディスがさー、エクトルにメロメロなんだよなー」
「おい、リニ! 余計なことは言わなくていいから!」
ん? あれ? 今、なんて言った? えっと、たしかキャンディスっていう子はマクロのライバルキャラって言ってなかったっけ? つまりマクロに恋をする女の子ってこと、だよね? でも今エクトルって……。クレアの方を見てみると、私と同じように驚いているみたい。また想定外のことが起きてる、のかな? シナリオとは違うっていう。
「あー! この話はおしまい! あとは会えばわかるから! 食べ終わって準備が出来たらみんなで行こう! な?」
エクトルはあんまりこの話はしたくないみたい。んー、気まずいのかな。もしかしたら、恥ずかしいのかもしれない。女の子に好かれる、なんてちょっと照れちゃうんだろうな。もしくは、エクトルがキャンディスを好き、か。気になるけど、あんまり立ち入るのも良くないよね。外野はそっと様子を見ておこうっと。
「えー……もしかして無自覚に誑し込んだのかしら。エクトルのやつ、しくじったんだわ。ほんと、シナリオキャラとは大違いで残念なヤツね……」
えっと、隣からブツブツと聞こえるクレアの独り言は聞かなかったことにしよーっと。ちょ、ちょっとさすがにエクトルがかわいそうじゃない……? 私は食後のお茶を飲みながら、心の中でエクトルに謝罪しておいた。いつも姉がごめんねっ!






