表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/100

【クレア】ゲームの知識


 私が前世の記憶を思い出したのは、二歳の誕生日だった。


 それまではただの赤ちゃんだったはず。だって記憶がないもの。まだ自我も芽生えていないような子どもだったなら、それも仕方のないことかも。わずかに言葉のようなものを覚え始めた、そんな年頃だったと思う。よくいる普通の二歳児だったの。


 それがどうしてこうなったのかというと、ちゃんとキッカケがあったのよ。

 収穫祭ではしゃぎすぎたクレア二歳は盛大にすっころんで地面に頭を打ち付けた。目が回ったのを覚えてる。ぐわんぐわんと世界が回って見えて、仰向けに倒れたままの状態で見たその空の景色を見ていたら、柱と柱の間に飾られたカラフルな布が、なんだか運動会の旗みたいだなーって感想を抱いた。そしてこのカラフルな布の飾りを見たことがあるなって。


 そこで、記憶が一気に頭の中に流れ込んできたの。頭が割れるかと思ったわ。そのせいで私は気を失って、次の日の朝まで目覚めず、両親を心配させてしまったんだけれど。


 目覚めた時の私は、それどころじゃなかった。全てを理解したから。

ここが前世でやり込んでいた乙女ゲームの世界で、()と双子の妹のミクゥがライバルキャラだって気付いてしまったからよ。


 私はいいのよ。私がライバルとして立ちはだかるルートで、ヒロインが相手と結ばれても、失恋の悲しみで酷く落ち込む程度だったから。……そのせいで一生独身だった、ってのは正直ちょっとアレではあるけど、そこは私が意識次第でどうとでも変えられるもの。そもそも攻略キャラに恋をしなければいい。


 でも、ミクゥは違う。ミクゥは、大好きなエクトルと結ばれないことで……死んでしまう。

 ミクゥは光属性しか持たない亜人。光属性を持つ者の特徴は心が美しく、清らかで、一見それはとても神秘的で素晴らしいことのように思えるけれど……光だけしか持たないということは、ある種の呪いでもあった。光だけじゃなく、一つの属性しか持たないものはそれぞれ、厄介な性質を持ってしまうのがこの世界の常識なのよ。


 光の呪いは「一途」。生涯、ただ一人だけを永遠に想い続けるというもの。なんだ、一途に想い続けるなんて素敵じゃない、なんて前世の私は思ったわ。でも想い人と結ばれなかった時、その呪いは厄介な方向へと効力を発揮するの。そのせいで、ミクゥはいずれ死んでしまうのだ。

 エクトルルートの最後、たとえヒロインとのバッドエンドだったとしても、ミクゥは必ず死んでしまう。あれは悲しかった。エクトルのキャラは王道で大好きだったけど、なぜミクゥを殺すのかとクレームを入れるユーザーは多かったわ。


 ともあれ、ニコニコと天使のように笑うこーーーんなに可愛いミクゥがそんな結末を迎えるなんて絶対に嫌! これはなんとしても避けたかった。


 だって! 前世の頃から私はミクゥのファンだったから! 攻略キャラより何より銀髪狐っ娘のミクゥが大好きだったんだもの!


 こうして現実となってみれば、そんな恋の一つや二つで死ぬなんて馬鹿な、なんて思うわよ? 何度も思ったし、今もたまに思う。でも……これまでクレアとして生きてきた中で、魔力や魔法、属性による性質を目のあたりにしてきた経験からいって、笑いごとじゃないってわかった。この世界では、というか亜人などの魔力を持つ種族は、人間のようにコロコロと性格が変わるような人種じゃないっていうのがわかったの。


 そうなったら、なんとしても阻止したいじゃない。幼い頃から他の属性魔法を何度もミクゥに教えて、どうにか光の呪いが発動しないように努力をしてみたりもしたけど、どれもうまくいかなかった。それならいっそ、子どもという素直なうちにぜんぶバラして、ミクゥ自身にも危機感を持ってもらおう、という作戦に切り替えたのよ。


 エクトルが他の誰にも心を奪われないならいいけど、アイツにはヒロインがいるもの。どのルートに進むかわからないからなんとも言えないけれど……不安要素は全部、取り除かないと! とりあえず一目惚れは回避出来たから、シナリオとは違う。まだ未来を変えられるって信じてる。絶対にミクゥを死なせたりしない。「恋」はミクゥにとって命の危険を伴うもの。恋なんて、させないんだから!


「リニや、マクロだって……」

「あ? 呼んだか?」

「ううん、なんでもないわ。気にしないで」 


 うっかり思考が口に出てしまったわ。耳のいいリニに拾われちゃった。ダメね、気を引き締めて考えないと。たった今、エクトルに試されたんだから。


 そう、エクトルは転生者。私と同じね。もうこれは間違いがないと思うわ。それに、私もそうだと彼も気付いてる。あの含み笑い、絶対そうよ! 慌てる私たちを見て笑ってるんだわ! 本当にムカつくわね! ゲームのエクトルは心も爽やかであんな意地悪い笑みなんて見せないもの!


 はぁ、落ち着いて。今一度、ゲームのことについて考えてみましょう。エクトルが転生者で、私たちをわざわざギルドの仲間にしたのならなにか目的があるはず。まずはそれを見極めないと!


 ゲームの攻略キャラは三人。もちろん目の前にいるこの、エクトル、リニ、マクロの三人よ。そもそも、彼がシナリオを回避したいなら、この三人で活動なんかしないだろうし、エクトルはシナリオ通りに進めたがってる、で合ってると思う。


 じゃあ、お相手は? ヒロイン? それともミクゥ? ってなる。様子を見ている限りだと、ミクゥを狙ってるのは明らか。ただそれが純粋な好意なのか、あえてミクゥを破滅させるためなのかがわからない……! 判断が出来ないわ。もしかすると他に目的があるかもしれないもの!


 ……ふぅ、わからないことは仕方ないわ。落ち着いて、お風呂にでも入りながらゲームの内容を思い出しながらこれから起こるイベントを確認しなきゃ!

 ごちそうさま、と言いつつ食器を下げて、私はお風呂にお湯を張ってくると告げてリビングを立ち去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【英語翻訳版2巻!9月29日に発売☆】

egtqgrsfapo2dde6b9ek6meyeagx_7gz_lc_sg_rcpp.png


【1巻はこちら】

egtqgrsfapo2dde6b9ek6meyeagx_7gz_lc_sg_rcpp.png


Cross Infinite Worldよりタイトルは「Surviving in Another World as a Villainess Fox Girl!」です!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ