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お留守番


 その後、残りの五人がどんな人たちなのかを一通り聞き終えたところで、その日は解散となった。三人はそれぞれ今回の魔物討伐の報告とか素材の買い取りなんかで外に出るんだって。帰ったばかりなのに忙しそうだなぁ。


「ミクゥちゃんとクレアはゆっくりしててよ。慣れない旅に慣れない場所で疲れたでしょ? 俺たちの部屋以外なら好きに歩いていいし、好きに使っていいから」


 エクトルがそう言い残してお屋敷には私とクレアが残されたわけなんだけど。


「……そうはいっても」

「じっとしてるわけにはいかないよね?」


 クレアの言葉を引き継いで私がそういうと、クレアはクスッと笑う。やっぱり、クレアも同意見だったみたいだ。


「せっかくだから、屋敷中、綺麗にしちゃいたいね」

「そうね。夕食の準備もしとこうかしら。なんだかんだ言ってもお世話になるわけだし、そのくらいはしないと借りを作りっぱなしみたいで嫌だわ」


 ツンとしたようにクレアはそう言うけど、疲れて戻ってくるであろう彼らに少しでも喜んでもらいたいからだよね。もう、なんでそんなに毛嫌いするかなぁ。


「ねぇクレア。あの三人、みんないい人だよ? リニとマクロはよく言い合いをするけど、根はいい人なのが伝わるし、エクトルなんかは特に私たちを気遣ってくれてる。私は恋なんかしないし、大丈夫だから……もう少し歩み寄れないかな? あんまりツンツンしてると、なんだか申し訳ないよ」


 せっかく仲間になったのだから、仲が悪いより良い方がいいもの。そう思ってチラッとクレアの顔を横目で見ながらそう聞いてみると、クレアはわかってる、と言いながら口を尖らせていた。


「彼らがいい人なのはわかってるし、なんなら為人も知ってるわ。私の知ってる通りであればね。でも、エクトルが転生者だって疑いがある今、そう簡単に気を許せないんだもん。それが事実だとして、どうしてシナリオ通りに進めたがるのか、それが不思議でならないの。私たちを守る気はあるみたいなのに……なぜ破滅の道を選ぼうとするのかわからないのよ」


 そっか。クレアは前世の記憶があるからこそ、色々と勘繰ってしまうんだろうな。私は何もわからないから能天気にしていられるけど……クレアにばっかり悩ませて、なんだか悪いな。

 それなら、私はそんなクレアを支えたい。少しでも心が軽くなるように。負担を減らせるように。


「考えたってわからないよ。思い込むのも、良くない。今はまずこの生活に慣れることから、じゃない? ちゃんと中級ギルドの一員としてやっていけるか、私たちが考えるのはこれだと思うんだ。そうやって毎日を彼らと過ごしていたら……そうしたら、見えてくるものもあるかもしれないでしょ?」


 環境も変わって、生活がガラリと変わるんだ。それに加えてゲームのあれこれを考えてたら、パンクしちゃうよ。私はそっとクレアの手を両手で包み込んだ。


「それでもし、何かよくないことがあったら、二人で協力して乗り越えていこうよ。それじゃ、ダメ?」


 今までも、ずっとそうしてきたことだもん。私たちは一人じゃない。二人でどんなことでも乗り越えていけるって信じて生きてきた。これからだって、それは変わらないんだから。


「うん。……うん、そうだねミクゥ。ありがとう」


 へんにゃりと折れていた耳と垂れていた尻尾に元気を取り戻しながら、クレアが笑ってくれる。そうそう、クレアは元気でいるのが似合う!


「よーし。そうと決まればまずはお掃除頑張ろう!」

「おー!」


 拳を天井に突き上げて気合いを入れるクレアにならい、私も拳を突き上げる。


「心配しないで! ミクゥのことは、私が絶対に守るからね!」

「え? だから、今はそのことは後回しに……」

「屋敷の埃もシナリオも! 全部、やっつけてやるんだからーっ!」


 あれ? わかってなかった? もーっ、クレアはまた一人で背負う気だなぁ? 確かに私はボヤッとしてて頼りないかもしれないけどっ。こうと決めたら一直線なんだから。はぁ、もう仕方ない。クレアが暴走しそうになったら止められるように、私もしっかりクレアを見ておかないとね。

 決意を新たに、ひとまずは家中の埃をやっつけるべく、私は尻尾を膨らませた。ピッカピカにしちゃうぞー!


 クレアは、先に自分たちの部屋を片付けてくる、というので私はさっきのホールを担当することになった。今日寝るところが汚いのは嫌だから最優先! とクレアが走って行ったのだ。その気持ちはよくわかるので、部屋はお任せしよう。

 私の方がお掃除範囲が広いけど、これには理由があるんだ。だって、私は魔法で掃除が出来ちゃうんだもん!


「光魔法、浄化!」


 私の魔法の属性は光。本来は、悪霊だったり、穢れを祓うといった使い方の魔法なんだけど、私はお掃除に使っている。だって、浄化で汚れを落とすのは変わらないんだから、使わない手はないもの。背中から光の羽根を広げ、両手を組んでイメージするんだ。このホールが隅々まで綺麗になるイメージを!


「うん。上出来っ」


 ほら、この通り一瞬でホール内の汚れや埃、シミに至るまでぜーんぶ綺麗になりました! 窓ガラスまでピカピカだよ! えへん。

 あとはこの魔法を全部の部屋にして回るだけ。私たちの部屋はクレアが整頓し終えてからでいいから、リビングやバスルームなんかを先に綺麗にしてこよう。彼らの部屋はさすがに無断で立ち入れないもん。エクトルが言ってた、そこ以外は好きにしていい、ってことは、つまり入らないでほしいってことだもんね。三人が帰ってきて、もしお願いされればやる、ってことでいいかな。


「ただ……片付けまでは出来ないんだよねー。物がいっぱいだぁ」


 そう、掃除は出来ても整理整頓までは自分の手でやるしかない。どれが誰の物かもわからないから、下手に動かすことも出来ないし、とりあえず物によって分類分けだけはしておいて、あとは三人が帰ってきたら聞けばいいよね。

 頭の中で計画を組み立ててから、よし、と再び気合いを入れる。それからグッと腕まくりをして、私は屋敷の中を飛んだ。だって、歩くより走るより速いんだもーん。


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