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埃まみれのお屋敷


「……驚いてるけど、クレアは知らなかったの?」

「細かいとこまで覚えてるわけじゃないのよ……にしてもすごいわねー……」


 お屋敷内に足を踏み入れながら、コソコソとクレアと内緒話。クレアが覚えているのはゲームの内容と大体の設定、それから起こる事件なんかなのだそう。そっか、なんでも知ってる気でいたけどそういうわけじゃないんだね。私よりキョロキョロとお屋敷内を見回しているクレアに思わず笑みが溢れてしまう。


「……すごい埃ね」

「あー、広すぎるからな。掃除が行き渡らねーんだよ」

「共同リビングとキッチン、それぞれの部屋くらいしか、掃除しないから」


 玄関から入ってすぐの広場は、クレアの言うように確かに埃まみれだった。換気はされているみたいだけど、リニが言った掃除が行き渡ってないっていうのが言葉通りだってわかる。このギルドは中級なのに三人という少人数だし、仕事もこなしていたらこうなるのも仕方ないのかな。私たちの仕事はまずここからかも、なんて頭の中でメモをしておいた。


「せめてこのホールは綺麗にしておくべきじゃない? いわばギルドの顔になるんだから」

「まぁなー。けど、依頼は手紙でポストに届くし、基本誰も中には入って来ないからってなかなか手がつかなくてよー」


 私たち妖狐は特に、埃があると毛の間に絡みついたりして気持ち悪いから綺麗好きなんだよね。ほら、クレアもそう言いながら耳がへたん、と伏せちゃってる。たぶん私も同じだ。


「わかったわ。私たちでまずは掃除させてもらうから! 異議は認めないっ」

「お、それはむしろありがたいね。助かるぜ」

「僕たち、掃除はみんな苦手だからね」


 やっぱりクレアも私と同じ考えだよね! 私たちは顔を見合わせてうん、と力強く頷きあった。リニやマクロも助かるっていうならやらない理由はない。エクトルも止めることはないだろうしね。ここにお世話になるわけだし、ここだけじゃなくお屋敷全体を綺麗にしたいな。


「あ、本当だ。リビングは綺麗なのね」


 そうして埃だらけのホールを通りすぎ、ドアを開けて案内されたのは共同リビング。クレアの意見には同意したよ。ここは埃もないし清潔感がある。思わずホッと安堵の息を漏らしちゃった。だって、本当に埃まみれの場所って苦手なの!


「ここが俺の場所―っ!」


 リビングに入るなり、リニが突然大きなソファクッションに飛び込んだ。わっ! ビックリした!


「バカ赤髪。行儀が悪すぎ」

「うるせーなー頭の固い黒髪野郎が。どーせここで暮らすんだ。取り繕ったって意味ねーだろ」

「僕は普段からお前のその行儀の悪さ、気に入らない」

「あーあーそうだったな。おめーはいつでもお小言野郎だったわ」

「頭空っぽバカ頭」

「んだと、この根暗男が!」


 うわ、喧嘩が始まっちゃった。仲が良いのか悪いのかわかんないよ、この二人っ! クレアが額に手を当ててため息をついている。


「大体リニとマクロの関係性は把握したわ。勝手にお茶淹れちゃうからねー」


 それからいまだに言い争う二人を素通りして、荷物を端に置き、キッチンへと向かってしまったクレア。ちょ、ちょっとー! 私はどうしたらいいのー!? ギュッと自分の尻尾を抱きしめてその場で立ち尽くしてしまった。


「ミクゥちゃん、ごめんね。お待たせ。おいこら二人とも、その辺にしとけって。ミクゥちゃんが怯えて固まってんだろ!」

「! エクトル!」


 そんなところに救世主が現れた! 金髪なのもあってキラキラ輝いて見えるーっ! 助かった……。


「本当にごめんね。この二人のこれは、いつもの会話だと思って気にしないで? さ、荷物置いて座ってよ。お土産も買ってきたから」


 そう言いながらエクトルは慣れたように私を椅子までエスコートしてくれた。椅子に座った私に向かって、お土産だという袋を掲げながらニコリと笑う。


「ちょっと! ミクゥから離れてっ」

「そんなに目くじら立てなくても……クレアも、お茶淹れてくれてありがとね」

「……別に、これくらいいいわよ」


 あっ、クレアが照れた! 可愛い! いつもそうしていたらいいのにー。エクトルもクスクス笑ってる。良かった、この二人も仲が悪くならないか心配だったから、こうして笑ってもらえると救われるよ!




 テーブルにお茶と、エクトルの買ってきてくれた焼き菓子が並んだところで、それぞれが席についた。


「なんか、このテーブルを囲む人数が増えると、新鮮だなぁ」


 しみじみ、といった様子でエクトルが言う。普段が三人だけならそう思うものかも。テーブルはやたら大きいし余計に。リニやマクロも頷いている。お父さんやお母さんは逆に、私たちが減って寂しいって思ったりしてるかな……? 定期的に手紙を書こう、そうしようっ。


「まずはさ、俺たちがなんで君たちをギルドの仲間に誘ったか。それを話そうと思うんだ」

「え? 確かそろそろ人数を増やしたいのと、私たちの実力を見て決めたんじゃなかったの?」


 村で両親から聞いた話はそんな感じだった気がする。あの時は驚きで詳しくは聞いてなかったから自信はないけど……だって、両親の中では決定事項だったから! クレアはジトっとした目でエクトルを見てる。そういえばクレアは、エクトルは転生者でシナリオ通りに進めたがってるんじゃないかって疑ってたよね。ゲーム内では私たちをギルドで保護、って形だったけど、その必要がなくなったから仲間にするという手段をとったんだって。ほ、本当かなぁ?


「概ねそれで合ってるよ。けど、俺たち的には人数は増やさなくてもいいって思ってるんだ」


 エクトルはクレアの疑いの眼差しを真っ正面から受け止めてそう言った。確かに、この三人だけで困ってはいなさそうだもんね。お屋敷の掃除以外は。ってことは……。


「……つまり、人数を増やさなきゃいけない理由があるってことね?」


 私の疑問をクレアが口にしてくれる。すると、エクトルは正解! と嬉しそうに笑みを浮かべた。


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