ラナキラの拠点
「さぁ着いたよ。ここが俺たちの拠点がある街、フィンツィアだ!」
ポポの手綱を引きながら先導したエクトルが、街の門の入り口で私たちに告げる。エクトルだけでなく、リニやマクロもどことなく嬉しそうな顔をしているから、きっと自慢の街なんだろうな。フィンツィア……ここが、これから私たちの住む街。
「あ、ラナキラの皆さん。お疲れ様です。……その方たちは?」
門番の男性に声をかけられ振り向く。ラナキラ? 首を傾げていると、リニが自分たちのギルドの名称だと教えてくれた。そっか、ラナキラって言うんだね。覚えておこうっと。
「ああ、フォックルの村で出会った新しい仲間なんだ。後でギルド登録しに行くよ。だから今ははい、これ」
「二名で銀貨四枚ですね。確かに受取りました」
えっ、街に入るのにもお金がいるの? というか、なんでエクトルが払うのー? 内心で大慌てな私とは裏腹に、クレアは落ち着いた様子。あっ、今ちょっと笑ったよね?
「大丈夫よ、ミクゥ。彼らのギルド、ラナキラに入ったっていうのを本登録する時にお金は返ってくるから。でも借りたことになるから一応お礼は言っとかないとね。仕方ないから」
ふん、と鼻息荒く言うクレアは、本当にエクトルと合わないんだなぁと思って苦笑がもれる。恋をしたらダメっていうのはわかってるけど、仲間として仲良くするくらいはいいと思うのに。態度はともかく、お礼はきちんと言ってるからいい、のかなぁ?
「エクトル、ありがとう。私、街のルールとかわからなくて」
もちろん、私もお礼を言わないとね。無知だってことも言っておかないと。知らないことを知らないままにするのはよくないもん。素直に色々と教えてもらいたいし。
「これから知っていけばいいんだよ。ちゃんと、教えるからさ!」
そう言って爽やかに笑うエクトルは……やっぱりカッコいいなぁ。サラサラの金髪で、どこかの国の王子様みたい。王子様なんて絵本とかでしか見たことはないけど。
そんなことを考えていたら、いつの間にか街の中に足を踏み入れていたみたい。賑やかな街並みに、わぁっと声を漏らしてしまった。と同時に尻尾の動きも騒がしくなっちゃう。だって、人がすごく多いんだもん。それに、これは当たり前ではあるんだけど、色んな種族の人たちがいるから。
仕方ないでしょ、私たちは同じ種族の仲間ばかりと暮らしてきたんだから。他の種族を初めて見た、なんてことはさすがにないけど、見たことのない種族の人はいっぱいいる気がする。
「なー、エクトル。家に帰ってていいんだろ?」
「うん。俺はポポを預けてくるから、先に案内しておいて」
ポポを預ける場所もそうまた離れていないから、エクトルもすぐに来るのだそう。後でね、と手を振ってポポと去っていくエクトルを見送る。でも家? と思ってリニに視線を向けた。
「ああ、拠点のこと。そこに住んでるからもはや家だろ?」
「ラナキラの拠点が、リニたちの家ってことなんだね」
「そ。なーんか人ごとみたいな顔してるけどさ、お前らも一緒に住むんだぜ?」
「ええっ!?」
その言葉にびっくりして少し大きな声を上げてしまう。慌てて口を抑えたら、呆気にとられたリニが少しの間を置いてプッと吹き出して笑った。え、待って、そんなにお腹抱えて笑わなくてもー!
「リニ、笑ってないで説明しなよ」
その様子をずっと黙っていたマクロが半眼になってリニを見ている。心境的には今の私もそんな目を向けたいところだ。もう、笑いすぎだよっ。
「はぁ。えっと、僕らの拠点はやたら広いから。つまり、部屋が余ってる。二人くらい増えたところでどうってことない」
「そーそー。共同スペースではどうしても顔を合わせるけどさ、部屋には鍵もついてるし安心だろ?」
そ、そっか。家っていうから、今まで住んでたような家を想像してた。私たちの家は部屋は二つで、あとはリビングしかなかったから。部屋どころか家の鍵もなかったし。
だから、どうやってこの人数で住むのかなって思ったのと……お、男の人と一緒に住むのはどうなんだろうって思ったんだもん。それは今もちょっと思ってるけど……あぁ、まだ顔が赤い気がする。
「心配しなくても、もし侵入者がいれば俺たちがとっ捕まえるし、まーこの辺の奴らが俺らに手を出すような馬鹿な真似はしねーから心配すんな!」
それもあるけどそうではなくて……でも、屈託のない笑顔でそう言いながら頭を撫でられたら、何も言い返せない。あと、ちょっと撫でる力が強いよリニっ!
「リニ、本当に鈍感馬鹿だよね。大丈夫、魔道具も貸すから」
スッと私とクレアの横を通り過ぎながら、目も合わせずにマクロがそう言ってくれた。思わずクレアと目を合わせて、ふふっと微笑み合う。
「マクロはやっぱり、無愛想なだけで気配りの人だわ」
やっぱり、ってことはそれもゲームの知識かな? そっか、マクロは気配りの人、か。ちょっと無口で怖いイメージがあったけど、印象で決めちゃダメってことだよね。気をつけようっと。
「ほい、着いたぜ。ここが俺らの家!」
「二人とも、行きすぎ」
「えっ」
「はぁっ!?」
通り過ぎるところだった私たちの服を、ギュッとマクロが掴んで引き止めてくれなかったら、私たちはまだ先に進んでたと思う。だ、だって、まさか、こんな……!
「俺らの本拠地! 中級ギルド、ラナキラによーこそー!」
こんな、大きなお屋敷だとは思わなかったから! この人たち、何者―っ!?