気取ったエクトル
都市に向かう道中は比較的安全に進んだ。もちろん、途中で魔物も出現したんだけど、その全てをリニとマクロが討伐してしまったんだよね。本当にすごい。真っ赤な毛並みに三角の耳、私たちに似た大きな尻尾を靡かせて魔物に向かう姿はなんだかカッコ良い。
フォックルとウォルグって元々少し似てるよね。そう言ったらクレアに全然違うって怒られたけど。え? オーカミ? あ、ウォルグのことなんだね。クレアは時々、前世の記憶から知らない単語を口走るから不思議。
「もうすぐ着くからね。街の手前で降りてもらうことになるけど」
「あ、確か大きな都市は、獣車の獣とテイムした魔物は登録してないと街に入れないんだよね? この子は登録していないの?」
だから、亜人も獣型で街に入ることは出来ないんだよね、たしか。それも、街の安全を守るため。私たちが住んでいた村のよりその辺りを規制しないと、収拾がつかなくなって危ないからなんだって。そりゃそうだよね。だからそれが理由かなと思って聞いてみたんだけど、エクトルは登録してないと入れないのは合ってるけど、と首を横に振った。
「ポポはちゃんと登録しているよ。だから街には入れる。でも獣車に乗ったまま街に入ることは出来ないんだ。王族と急患以外はね」
「たぶん、どんな人物が街に来たかを確認するためじゃないかしら。乗ったままだと不測の事態があった時に対処も遅れるし」
エクトルの答えを聞いて、クレアが思ったことを口にする。それもそうかぁ。王族と急患以外はっていうのも納得。だって、王様が街を歩いてたらいちいち騒ぎになっちゃいそうだもんね。急患の方は言わずもがな、だね!
「リニも街の手前で人型に戻ると思うよ」
「そっかぁ。ちょっと残念。とっても綺麗だから」
リニの獣型はとっても綺麗。鮮やかな赤い毛並みが風を切って走る時に靡くから、その姿についつい見惚れちゃう。
「む。……ミクゥちゃんだって、すごく綺麗だったよ?」
「へっ!? わ、私!?」
うっとりとリニを眺めているところにそんなことを言われたものだから、思わず声が裏返っちゃったよ! き、綺麗って、そ、その、毛並みがってことだよね? 獣型を見た時のことを言ってるんだよね?
銀色の毛並みは私の自慢でもあるから嬉しいけど、私自身が綺麗って言われたみたいに錯覚して顔が熱い! もう、勘違いしちゃだめだからね私! エクトルみたいに整った容姿の人が私を綺麗だなんて思うわけないでしょ!
「ちょっと、ミクゥを口説くのやめてよ」
「く、クレア……」
あわあわと一人で慌てていたら、クレアにグイッと肩を抱き寄せられる。それから口を尖らせてクレアはエクトルに文句を言った。直球すぎない!?
「人聞き悪いなぁ。思ったことを言っただけなのに」
「あら、そう? ま、ミクゥが綺麗で可愛いのは当たり前だけどっ」
「そうだね、僕もそう思うよ」
「でもあんたは言わないで!!」
「理不尽じゃねぇ!?」
ひえぇ、なんて会話してるの二人とも! あと、だんだん遠慮がなくなってきてない? というか、エクトルの口調も変わってるような。もしかして、これが素なのかな。私たちに気を遣って優しい言い方を意識してくれてたのかもしれない。
でもそうだよね、たった三人で中級ギルドとして活躍してるんだもん、色んな仕事をこなしてきたはず。人への気遣いも出来て当然かもしれない。年齢はあんまり変わらないように見えるのに、すごいなぁ。
「……着くよ。じゃれあってないで降りて」
「じゃれあってねぇ!」
「じゃれあってないわよっ!」
そこへ、リニに乗ったままのマクロがそう声をかけてきたことで、クレアとエクトルが同時に同じことを叫ぶ。仲が悪いのに仲良しみたいで思わず吹き出した。
「ミクゥ? 笑いごとじゃないのよ?」
「だ、だって、なんだか面白いんだもん」
「面白くないっ! はぁぁ、でも、ミクゥの笑う姿を見てたら気が抜けたわ……さ、降りましょ」
ぷくっと頰を膨らませてひらりと客車から降りるクレアに続いて、私も少し飛んで後に続く。膨れっ面のクレアの方が可愛いと思うけどなぁ。妹の贔屓目とか抜きにしても。
「なんだよ、エクトル。気取るのやめたのか?」
「ばっ、リニ!?」
最後に降りたエクトルを見ながら、人型に戻ったリニが頭の後ろで手を組みながら面白そうにそう声をかけた。エクトルは少し慌てているみたい。あ、やっぱり少し演技してたのかな。
「あらあら、取り繕ってたってわけ? 化けの皮が剥がれたわね?」
「ぐっ、いや、その……」
もうー、クレアはどうしてそんな言い方するのかな。いくらエクトルが少し怪しいと思ってるからといって、決めつけはよくないよ? エクトルも申し訳なさそうに私をチラチラと見てるじゃない。
「私たちが怖がらないように、気をつけてくれてたんだよね? ありがとうエクトル。でも、無理しないで。私も、普段通りにさせてもらうから。ね?」
「み、ミクゥちゃん、マジ天使……」
天使!? それは言い過ぎじゃないかなぁ。口説くなー! とまたしても拳を振り上げて怒るクレアの声を聞きながら、私はなんとも気恥ずかしい気持ちでいっぱいになったよ! と、とりあえず喧嘩はやめようーっ!?
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