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焦がれる想い

作者: 聖 ミツル





ただ、そこが明るかったから


ただ、そこが暖かかったから


多くの人々が私の前を通り過ぎて行く


多くの温もりが私の前を掠めて行く


知らずに向かった先には、家族が楽しそうに食事をしていた。


私は、その場に立ち尽くす。


夕方から降っていた小雨は、今は上がっている。


濡れた長い髪に滴る水滴を、誰も拭ってくれない


私は、玄関を開け中に入る。


『ただいま……』


声は、小さな玄関に響き渡った。


でも、誰も私に『おかえりとなさい』と挨拶をしてくれない。


私は、光が漏れるドアを前に立つ。


楽しそうな声が聞こえてきた。


『私は、ここにいるのに……』


気づかないふりをする家族は、私の大好物の唐揚げを美味しそうに食べている。


『ねぇ、私の分は……』


聞こえないふりをする家族は、私を完全に無視する気だ。


『仕方がないわ。自分で作るから……』


私は、台所に行き少し冷めてきた油が入った鍋に火をつける。


冷蔵庫を開け、食材を探す。


そこには、残りの鶏肉が入っていた。


『もしかして、私の為に、とっといてくれたの? 』


何も答えてくれない家族に、言葉だけが通り過ぎて行く。


『わっ、お鍋に火がついちゃった。消さないと……』


油の入った鍋に火が入ってしまって、勢いよく燃えている。


『どうしよ……どうしよう……』


私は、キッチに置いてあったエプロンで鍋に蓋をした。


炎は、そのエプロンに燃え移り更に激しく燃え上がってしまった。


『キャッーー。大変、大変……』


家族の元の行き、コンロから火が燃え上がっている事を伝えた。

こんな状況でも、みんなは私を無視している。


『こんなに私が言ってるのに、信じてくれないの? もう、知らないから』


私は、何時迄も無視を続ける家族を置いて外に出た。


火は瞬く間に燃え広がり家を焼き尽くす。


『みんなが私を無視するのが悪いんだからね』


何度も言い訳をついては、燃え上がる炎を見ている。


でも、家の中から中々家族が出て来ない。


煙を吸って倒れてしまったようだ。


『このままじゃ焼け死んじゃうわ……』


でも、私は家族を助ける事はしない。


だって、これは何度も私を無視した罰だと思うから……


私は、その場を離れることにした。


火事を見に何人もの人が私の身体をすり抜けて現場に向かって行く。



今度は、どの家に行こうかしら……



私は、明るいところが好き。

私は、温もりが欲しい。


今の私には持ち合わせていないものだから……







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― 新着の感想 ―
[良い点] 私が好きなタイプの小説でした。 怖過ぎないこの感じめちゃくちゃ好きです。 『私』にしかセリフがないっていうところや、『』にしている所など、雰囲気も出ていてセリフが強調されたりしててすごく好…
[一言] 「私」は一体なんだったのか、とても気になります。 幽霊?過去の記憶? 想像が広がりますね。
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