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8.生霊

「ただいま!」

 そう言って正流くんはオネエ医者のいる病院のドアを開いた。

「お、おじゃまします」

 正流くんに続いて私も病院に入る。正直言って私はこの病院に入るのは嫌だった。なぜなら一度オネエ医者を怒らせているからだ。


「おかえりなさい。夕飯できてるわよ」

 そう言ってオネエ医者が玄関まで出てきた。

「って、ちょっとアンタ! 自称異世界人!」

「ど、どうも息子さんのお世話になっております」

 どうしよう。すごく逃げたい。絶対何かしら怒られるに決まっている。


「正流に変なことしてないでしょうね⁉︎ また異世界から来たとか言ってからかったりしてないでしょうね?」

 ほら、予感的中。怒った態度で突っかかられてしまった。

「ごめんなさい。異世界から来たって言ったし陽一くんに会ったことも言いました」

「まったく何考えてんのよこのバカ女は。正流! 遊ぶ相手はちゃんと選びなさいよ!」

 そう言いながらオネエ医者の持っていたおたまで軽く頭を叩かれた。そんなに痛くはないが叩かれたという事実がメンタルにダメージが来る。


竜二りゅうじさん、楓ちゃんはそんなに悪い人じゃないよ」

 正流くんがフォローに入る。オネエ医者の名前は竜二というのか。

「楓ちゃん、あれ見せてみて」

「あれって?」

「ロケットだよ!」

 私はポケットからロケットを取り出す。


「あの、これ、なぜかは知らないけど私のポケットに入ってたんです」

 すると、竜二さんの顔がこわばる。

「アンタ、いったいどこでそれを拾ったのよ」

「それが、わからないんです。陽一くんからもらった記憶もないですし……」

 竜二さんはしばらく考え込んでいる様子だった。

「ちょっと、写真を見せてくれるかしら」

「あ、はい」

 私は竜二さんにロケットを渡した。

「……偽物じゃ、ないみたいね。なんでアンタがこんなもの持ってるのよ」

「さあ、全くもってわからないんです」

 竜二さんはため息をつく。

「まあいいわ。アンタが陽一と関係があるってことはわかったから」

 納得していただけたようで、少しだけ安心した。


「じゃ、明日また話を聞くから、今日は帰ってまた改めていらっしゃい」

 竜二さんにシッシと手を振られる。

「あ、明日って困ります!」

 私は焦った。今日は帰れと言われても帰るところがないのだ。まさか女の子に野宿しろだなんて残酷なことは言うまい。


「あの、ここで泊まらせていただけませんか? 本当に帰るところがないんです!」

「はあ? 何図々しいこと言ってるのよ。本当はケンカでもして家出してきただけなんじゃないの? 素直に親御さんに頭下げて帰りなさい!」

「た、たしかにケンカはしましたけど……」

 どうしよう。異世界から来て帰れないでいるなんて言っても信用してくれないだろうし、余計怒られるだけだろうし……。私はただ黙り込むしかなかった。


「ああ、もう、仕方ないわねえ」

「……すみません。本当に」

「とりあえず今晩は泊まって良いわよ。その代わり家事を手伝う事!」

「……え、いいんですか⁉︎」

「最悪野宿して風邪をひいたなんてことを言われたらたまったもんじゃないからね。特別よ特別!」

 野宿することも覚悟していたので、そう返してもらえるとは思わなかった。私は思わず「やったあ!」と声を上げる。

「よかったね、楓ちゃん!」

 正流くんも緊張していたのか安堵する。


「じゃあ、早速だけど夕飯を並べてちょうだい」

「イエッサー!」

 実はこの世界に来てから何も口にしていなかった私は空腹感に苦しんでいた。それもあり、夕飯を並べるスピードはかなり早かった。……そして雑だった。


「もうちょっと綺麗に並べなさいな。正流、手伝ってあげて」

「はーい」

 正流くんがサポートに入ってくれた。

「えへへ、2人でご飯並べるの久しぶりだな」

 そう言って正流くんが笑う。

「前は陽一くんとご飯並べてたの?」

「うん! お兄ちゃんがテーブルを拭く係で僕が並べる係だったんだ」

「そっかあ」

 一人っ子の私には少し羨ましく感じた。










「いただきます!」

 今夜のメニューはカレーライスだった。芳醇なスパイスの香りが食欲を刺激する。

「うんまい! あとでお代わりいただきますね」

「そんなにがっつかなくても誰も取りやしないんだからよく噛んで食べなさいな。まあ、美味しいならいいけど」

 私は今まで食べられなかった分を取り戻すように、下品なくらいにガツガツと口に頬張っていった。

「お兄ちゃんもよく食べ方が汚いって怒られてたな」

 そう正流くんに笑われてしまった。

「もしかして私って、陽一くんと似てる?」

「ちょっとだけ似てるよ」

「そっかー」

 その後私は二回お代わりをしたのだった。





「寝る場所は病室のベッドを使ってちょうだい。ちょうど来客用の布団を捨てちゃったばかりなのよ」

「わかりましたー」

 病院のベッドで寝るのもなかなか悪くはない。少し軋む音が気にはなるが慣れればなんてことはなかった。


「あー、今日はほんと疲れた」

 今日は朝から何も食べずにゴミ山を漁ったのだ。疲れて当然と言うものである。なんとか夕食と寝る場所を確保できたのはラッキーだった。


「お母さん、今頃心配してるだろうな……」

 気が抜けると同時に母親のことが気になってくる。女手一つで育ててくれた母親にここまで心配かけるようなことをしてしまったのだから申し訳ないと思った。もしかしたら今頃行方不明者として警察に駆け込んでいるかもしれない。

「こんなことになるならケンカするんじゃなかったな……」

 そう後悔の念にかられる。せめて笑顔で別れることができたならよかったのに。


「帰る方法、探さなきゃ……!」

 いつまでもこんなところにいるわけにはいかない。なんとかして帰って母親を安心させたい気持ちに溢れてきていた。


「悩んでるところ悪いんだけどさ」

 突然枕元で聞いたことのある声がした。

「誰?」

 とりあえず確認して顔を上げてみると。


「よお、元気してたか?」

 なんと陽一くんの姿があった。

「ちょっ、おまっ、ちょっ!」

 私は慌ててみんなを呼ぼうとベッドから立ち上がる。陽一くんが帰ってきたことを伝えねば。


「あー、みんなを呼んでも無駄だぜ」

「なんでさ⁉︎」

 陽一くんが帰ってきたことを知ればみんなが喜ぶことは目に見えているのに、一体何を無駄と言っているのだろうか?

「俺の事、見えてないっぽいんだよな」

「見えてない……?」

「ちょっと俺のこと触ってみ?」

 言われた通りに触ってみる。


「……うそでしょ?」

 私の手は陽一くんの体をすり抜けてしまった。一体何が起きているのやら。

「まさか……死んじゃったの?」

 触れることができないと言うことは、死んで幽霊になってしまったということなのだろうか?

「いや、そういうわけじゃねえんだよなこれが」


「死んでないとしたらなんなの? なんで体をすり抜けてるの?」

 陽一くんは腕を組みながら説明しだす。

「どうも今の俺って生き霊みたいな状態らしいんだよな」

 そんなファンタジックなことを言い出した。


「生霊って本当にいるんだ……」

 クギビトとかいう獣人やら生霊やら……本当にファンタジーのフルコースでお腹がいっぱいです。

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