3.突然の雨
「その木材、持っていくのか?」
陽一くんは私の前を歩きながらたずねる。
「とりあえず、念のためね。なにが起きるか分からないし」
私は意味もなく素振りをしてみる。クギビトとかいう獣人がいるくらいなのだから、多分魔物みたいな何かがいたっておかしくないだろう。その時に備え、何かしら武器は持っておこうと思った。
「もしかして、まだ俺のこと警戒してる?」
「ぜ、ゼンゼンシテナイヨー」
「じゃあなんで目をそらすのさ」
私はまだ半分だけ、陽一くんの事を少し警戒していた。先ほど少し安心して自己紹介までしたのにこのザマである。
「本当に大丈夫なのか? 俺みたいなクギビトが割といるけど」
「え?」
完全に想定外だった。クギビトが割といるということは、獣人地獄が待っているということではないか。
「あの、陽一くん以外は人間大好物ってことはないよね?」
「ありえないね。そんなヤバイのいたら村から追い出すって。ていうかさ、さっきからクギビトは元人間だって言ってんだろ?」
「それは分かってるけど分かんないもん!」
「どっちだよ!?」
クギビトが元人間だのなんだの言われても、やはり理解しきれない。私の脳みそが今の状況に追いついてくれないのだ。
「そういえば、ここってどこなの? ずっと森林が続いてるみたいだけど」
「八幡の村に続く道だな。しばらく歩けばつくぞ」
「ヤハタの村ねえ……」
全然聞いたことのない場所の名前だ。何県の村なのだろうか?それともやっぱりここは異世界で、異世界の村に向かっているのだろうか?
「なんかこう、異世界の村っていうともっとゲームっぽいというか、西洋風の名前なのかなーって思ったんだけどそんなことないんだね」
「はあ? 異世界とか何言ってんだ?」
「え? 私って異世界召喚されたとかじゃないの?」
「……もしかして楓って不思議ちゃんとかなのか?」
陽一くんはため息をつく。
「そんなオカルトチックな事があるわけ無いだろ? 漫画じゃあるまいし」
「いやいや、現にクギビトとかいうオカルトチックなのが目の前にいるじゃん」
陽一くん、本日二度目のため息。
「やばい、こりゃマジモンの不思議ちゃんだわ。色々と心配になってきたぞ……」
「そんなことを言われましても、ここが異世界じゃなかったら説明がつかないし」
「じゃあ、そういうことにしておけば?」
「そうさせていただきます」
陽一くんは頭を抱えながら完全に諦めたようだ。残念ながら陽一くんから見たら、私はそうとう頭のおかしな女子なのだろう。とても心外である。
「……ヤベーな」
「私の頭が?」
「いやいや、そうじゃなくて、雨が降ってきそうだなって思ってさ」
空を見上げてみると、たしかに雲行きがあやしい。
「陽一くん、傘持ってる?」
「いや、もってねーんだわ」
「そっかあ。八幡の村まではまだかかりそう?」
「まだまだかかるな」
そう話しをしていると、ほおに冷たい感触が伝わった。雨水がほおに当たったのだ。
「あちゃー、降ってきちゃったね」
少しずつ、パラパラと雨が降ってくる。これ以上振らないようにと祈ってみたが、あっという間に雨は強く降り始めてしまった。
「やっベー! ……しゃあない。あそこで雨宿りしようぜ!」
陽一くんは樹々の奥にある小さな洞穴を指差した。