11.スーツを買い、お金を知る
「お店って、思っていたよりSF世界とそんなに変わらないかも」
ファンタジー世界のお店っていうと、商品が浮かんでいたりしているイメージだが、実際は少々昭和の雰囲気が残っているだけで、それ以外は普通のお店だった。
「店主さん、この娘に合うスーツはあるかしら?」
竜二さんが私を指さして、レジで待機している店主に話しかける。
「ああ、佐田先生! 先日は妻の件でお世話になりました」
「奥さんお元気かしら? 大きな病気ではなかったにしろ、無理はしないようにさせてあげなさいね」
どうやら知り合いのようだ。医者をやっていると顔が広くなるのかもしれない。
「もちろんです! あ、女性用のスーツですね。オーダーメイドですか? それとも既製品を買っていきますか?」
「時間がないから既製品でおねがいね」
「承知しました。それならこちらでいかがでしょう?」
店主はスーツがいくつもかけられているハンガーラックに案内する。
「この中から好きなデザインのものをお選びください」
そういうと店主は竜二さんのところに行き、何か話をしている。普通こういう時は服を選ぶ人のところにいるものではないかと少し不満に思ったが、高い服を押し売りされるよりはマシかと思って、なるべく安いものを探した。
「え、90円!? 安い! リサイクル品かな? これいいかも!」
「あなたバカなの!?」
スーツの値段を見て叫んだら竜二さんが飛んできて私の頭をはたいた。
「いった! 叩くことないじゃないですか!」
「90円って言ったら大学初任給と同じくらいじゃない! そんな高級品をリサイクル品っていうなんてあらゆる人に失礼でしょ!」
「そんなこと言ったって、スーツは安くても2万円くらいはするものじゃないんですか?」
「お、お、お、大馬鹿者! あんた富豪の娘か何かなの!?」
「いやいや、ボロアパートに住んいでた普通よりお金がないくらいの家の生まれですよ……」
自分で言っていて悲しくなってきた。
「もういい、アタシが選ぶから正流と待っていてちょうだい」
正流くんが「楓ちゃん、ちょっとこっち」と手招きしていたのでそちらに向かった。
「ちょっと耳貸して」
「うん、なになに?」
「……多分、ファンタジー世界のお金とSF世界のお金じゃ価値が違うんじゃないかな」
正流くんがひそひそ声で説明する。確かにその可能性が高い気がした。
「あ、そういうことか。単位が『円』だからてっきり……」
だんだんと恥ずかしくなってきた。確かにさっき90円は大学初任給と同じくらいと言っていたから、SF世界では20万円くらいなのかもしれない。それをリサイクル品と言ってしまったら慌ててはたいてしまうのも無理はない。
「んもう、恥かかせないでちょうだい! ちょっと楓、この服を着てみて」
「はーい」
私は竜二さんからスーツを受け取って試着室で着替える。
「お客様、サイズの方はいかがでしょうか?」
「あの、ちょっとウエストがキツくて……」
「……失礼しました。バストの方はいかがでしょうか?」
「……敗北を認めざるを得ません」
「な、なるほど……」
店主さんは少し気まずそうにする。要するに私は貧乳ぽっちゃり娘だということである。胸は母親似の体質だから仕方ないとして、そこまで太っていないと思っていたのでウエストがキツいのは危機感を感じざるを得なかった。
「そしたらウエストに合わせて少し大きいものにして、バストをスマートにさせますのでサイズを測らせてくださいね」
店主さんはテキパキと私のサイズをメジャーで測っていく。このお店に女性店員はいないのだろうか? 仕方ないとはいえ異性に体を触られるのは少し不快だった。
「ご協力ありがとうございます。では、調整しますので少しお待ちくださいね」
「よ、よろしくお願いします」
そういって私は正流くんと一緒に外で待つことにした。
「わからないことが多すぎる……」
つい私は正流くんにぼやいてしまう。
「まあまあ、ちょっとずつ覚えればいいよ」
正流くんはそう私をフォローしてくれる。こういう優しい子が私は好きだな。
「あ、ありがとう。そう言ってくれると助かるよ」
「でも、楓ちゃんは思ったことがすぐ口に出ちゃうみたいだから気をつけないとね」
「善処します……」
たまに厳しいコメントがついてくるが、それも彼なりの優しさなのだろう。だが少しへこむ。
「そういえば、正流くんはスーツ買わなくていいの?」
いくら子供とはいえ、パーティーに行くのであればスーツは持って行ったほうがいいだろう。
「ん? 中学の制服を着ていくつもりだけど」
「中学生だったの!?」
思わず大きな声を出してしまった。
「ご、ごめん。てっきり小学生だと思ってた……」
正流くんの変声期のきていない声と、小さな体つきを見てそう思ってしまっていた。
「うう、早く声が低くなりたい。大きくなりたい……」
あ、さっき思ったことがすぐ口に出ると注意されたのに、余計なことを言ってしまった。
「ごめんね。でも高校生の私からしたら中学生と小学校高学年の見分けがあんまりつかないから……」
「え、中学生じゃないの? 高校生ってもっとしっかりしているイメージだった」
正流くんが驚くと同時に心に突き刺さる一言を放ってきた。たしかに女子の中では少し体が大きいほうで年上に見られがちだが、立ち振る舞いを見て実際より幼いと判断されてしまったことに傷ついた。
「一応、一般入試を通過したくらいの学力はあります」
数学はかなり苦手で留年スレスレだが、それは言わないことにした。
「まあ、正流は八幡の村に来た時は知識が全くなくて、必死に小卒認定をとったんだけどな!」
急に陽一くんの声がして飛び上がってしまった。
「ちょっと! いきなり来るなんてびっくりし……あ、いや、なんでもない」
正流くんが「どうしたの?」と心配してくる。
「あ、いや、ちょっとトイレへ」
「トイレならあそこの角を曲がったところにあるよ」
「う、うん。ありがとう!」
「お大事にね」
なんで正流くんがお大事にと言ったのかわからなかったが私はトイレで陽一くんと話すことにした。




