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10.世界の名前

「な、なんでまた……長距離を歩いてるの!?」

 私はヒイヒイ言いながら、長い道を歩いていた。しかも坂道があるので、運動不足な私の脚には乳酸が溜まってきていた。


「あんた、正流から聞いていたけど、本当に体力がないのね」

 竜二さんと正流くんは私の前を歩いていて、足の遅い私を待っている。


「楓ちゃん、早くしないと日が暮れてパーティに遅刻するよ」

 正流くんは私のことを急かす。そんなこと言われても東京の発達した電車から恩恵を受けてきていた私にはこの登山と言える道のりは過酷なのだった。


「ねえ竜二さん、楓ちゃんがこんなに遅いんだったら、馬車を借りて行った方がよかったんじゃないかな?」

「バカ言わないでちょうだい。アタシの病院はクギビトの回復魔法のおかげで商売あがったりなのよ。つまり貧乏なの!」

「それはわかってるけど、ここまで遅いと、ねえ」

 二人は私を憐れむような目で見る。


「ほ、ほんとにごめんなさい〜」

 私は謝罪するしかなかった。しかし、クギビトの回復魔法があるのなら、なんで病院なんてあるのだろうか? 病気したら解毒魔法で回復、怪我したら治癒魔法で回復すれば病院は不要なのではないのだろうか?


「なによ、その目は〜。さてはなんで病院があるのか不思議に思っているのね」

「竜二さん、歩くペースを落として説明してあげたら?」

 正流くんの提案で竜二さんは歩く速度を落として説明を始める。


「簡単に言うと、魔法だけだと治療に限界があるのよ。たとえばがんにかかったりした場合、回復魔法をかけると、逆にがん細胞が活性化して危険だったりするの。その時に摘出手術が必要になって、アタシみたいな医者が必要になってくるの」

 なるほど。でもちゃんと需要がある仕事で、しかも医者ならなんで貧乏をしているのだろう? 私の世界だったらお金持ちコースまっしぐらなのに。


「はあ、はあ……にゃどゅほどゔぁかりまじだ……」

 やっと二人に追いついて「なるほどわかりました」と言いたかったのに息が切れてうまく発音できない。


「まあ、ある程度は魔法で治療できるから、重症患者や難病患者でない限り患者さんは来なくて、アタシの収入は不安定ってわけ。八幡の村はお年寄りがおおいから、なんとか生活できているけど」

 医者も結構苦労しているんだなあと思いながら、さっきよりゆっくりと歩いた。


「そういえば、魔法ってクギビトしか使えないんですか? 魔法が使えないなら、結構不便してそうですが」

「まあ、火を起こすことに時間がかかったり、クギビトよりは不便に感じることもあるわよ。でも、マッチとかある程度ちゃんとした道具もあるから、そこまで困ったと感じたことはないわ」

 まあ、私の世界の道具が便利すぎるだけなのだと思えば、この世界の道具でもある程度生活に問題はないのか。


「でも、楓。あんた本当に体力がないのね。本当にあんたが住んでいた世界があるとしたら、どれだけ便利な世界なのかしら?」

「うーん。正流くんには教えたんですけど、馬車じゃなくてガソリンをつかう自動車とか電気で動く電車があって、ほとんど歩かないで生活できますね」

「嫌味で言ったつもりなんだけど……本当にそんな世界があるみたいな口ぶりね」

「本当にあるんですって!」

 一瞬、私の世界の存在を信じてくれたのかと思ったが、そんなことはなかったようだ。


「でも、電気ねえ……シュラのコアを使って発電をしてるけど、馬車に近いパワーを生み出せるなら、相当な電気が発電できるってことよね」

「え? シュラのコアで電気が作れるんですか?」

「そうよ。知らなかったのかしら? 小学校で習うと思うんだけど」

 そんなの、知らないに決まっている。生き物の一部を使って電気を生み出すなんて聞いたことがない。私の世界では火力発電や原子力発電など、非生物を使って発電しているのだから。


「もし本当にそんな世界があるのだとしたら、まるでおとぎ話みたいで夢があるわね」

「それも嫌味ですか?」

「あら、よくわかったじゃない」

「ひどい……」

「わかったならしっかり歩く!」

「はーい」






「やっと着いた! ちょっと座らせて!」

 私は街の入り口にあるベンチに座って荒くなった息を整えていた。


「ちょっと! あんまり時間がないんだからお店まで歩きなさいよ!」

「……お店まで何分くらい歩きますか?」

「十五分くらいしら。すぐ近くよ」

「十五分ですぐ近く!? もームリ!」

「嘘でしょ……どんだけ体力ないのよ!」


 竜二さんには完全にあきれられてしまった。正流くんは「まあまあ」と竜二さんをなだめながら、

「なんか、『この世界』とか、『私の世界』とか、なんかややこしいよね。名前とかつけてみる?」

 そう提案する。たしかにその方が色々と楽な気がする。ゲームや漫画では世界に名前があったりするが、異世界が存在しない前提で暮らしているようだ。それなら名前が必要ないのかと納得すると同時に、本当に私の世界は知られていないのだと思い知らされた。


「えー、正流、あんたこんな戯言を本気にするの?」

「そうじゃないけど、話していて疲れちゃうでしょ?」

「まあ、そうだけど……」

 でも名前をつけるって言っても元ネタがないと何も思いつかないような……。


「楓ちゃん、僕たちの世界はどんな感じに見えてる?」

「どんな感じって……ファンタジー、とか?」

 獣人、魔法、生き霊……。そんな要素があるものといえば、そのようなもののような感じがした。


「アタシは、ここはファンタジーってほど幻想的じゃないと思うけどね」

「いや、十分ファンタジーだと思いますが……」


 続けて正流くんが竜二さんに、

「竜二さん的には楓ちゃんが言ってる世界ってどんな感じだと思う?」

「うーん……SFかしらね?」

「私の世界は、SFってほど凄くはないですよ」

「いや、電車とか十分SFって感じよ。本当ならだけど」

 竜二さんはさっきの私と同じようなリアクションをする。


「じゃあさ、楓ちゃんの世界を『SF世界』、僕たちの世界を『ファンタジー世界』って呼ぶのはどうかな?」

 地味だけどわかりやすかったので「賛成〜」と答え、竜二さんも「まあ、いいけど」と少し不満そうに答える。本当はもっと中二病が考えそうなカッコいい名前を期待していたが、ここは実用性重視でいこうと思う。


「さて、バカなこと言ってないでそろそろお店に行くわよ。いつまでもゆっくりしてないで歩きなさい!」

「はーい。よっこいショーイチ」

「何そのネタ、意味がわからないんだけど」

「SF世界の有名なネタでーす」

「はあ……」

 竜二さんのリアクションを見て、滑ったと思いながらお店に向かった。


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