夕食の味
「まったく嵐の様に立ち去っていくんだから……」
アルヴィスが去り静まり返った室内。
残されたワインの空き瓶を棚に並べながらルルは愚痴る。
でもその顔には抑えきれない笑みが浮かんでいた。
かつての戦友の変わらぬ姿。
兄の様に慕った先達。
口は悪いも常に覇気に満ち、自らの道を示してくれた姿に胸中があたたかくなる。
「しかもファル姉に告げ口していくし」
魔王へ立ち向かった仲間。
幾多の苦難と試練を共に乗り越えた親愛なる者。
そして……
魔王との最終決戦を幸運にも生き残る事が出来た、自分以外唯一の人。
女賢者ファルリア・レカキス。
亜麻色の髪を持つ美貌の才女。
幼少期よりサーフォレム魔導学院で育ち歴代首位でも跳びぬけた力を持つ魔人。
プロン寺院の<碧の聖女>と双璧を為すパーティの紅点。
そんな彼女が啓示に導かれルル達のパーティに入ったのは、いかなる偶然か必然か。
運命に導かれて、というよりは――
今にして思えば何かの因果すら感じる。
しかし彼女はその経歴とは別に、普通の女性だった。
甘い物が好きでおっとりとした年上の人。
機械の様に無機質だった自分にも常にファルは好意を以て接してくれた。
当時は照れ臭く、ぶっきらぼうな対応しか取れなかった。
1年前のあの日。
いつも自分を真っすぐ見詰めてくるファルの――
勇者という肩書でなく自分を信じる、あの純粋な瞳が怖かった。
だから何も言わず飛び出してしまったのかもしれない。
そんなファルとの邂逅。
何を言えば良いのだろう?
そもそも自分に何かを言う資格はあるのだろうか?
次々浮かぶ思考の数々。
半ば虚ろ、ぼ~っとしたまま夕食の用意をするルル。
何故だろう?
ハンナから頂いたサンドイッチ。
普段は舌鼓を打つほど美味しい筈のそれが――
今は何も味を感じれず――
ルルは水で強引に流し込むのだった。




