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「落ち着いたか?」
「…うん、取り乱してごめん」
しばらくして、クリスティナは泣き止み、ヒュアの胸元から頭を起こした。
泣き顔を見られて居心地が悪いのか、少し頬が紅潮している。
いい大人が小さい餓鬼みたいに泣いてたもんな。
ヒュアももう大丈夫と判断したのだろう。
「まぁ、あやした時にも言ったけれど実際、クリスティナが悪い訳じゃないのよ」
クリスティナを離し、こちらに向き直りながらヒュアが唐突にそんな事を言う。
どういう意味だ?
「よく考えてみなさいよ。何で急に発案されたこれが否決されなかったのかを。それも発案者が政治家じゃないこれを」
「発案者が王女だから……か?」
「本当にそう思う?」
反射的に答えてみたが、よく考えるとおかしい。
クリスティナが王女だとしても流石にこの奴隷撤廃案は国の根幹を揺るがしかねない代物だ。
王以外、一個人がはい、これと押し通せるものではない。
じゃあ、協力者は誰だ? 王か? 娘だからと優遇したとか?
……それはないな。
そもそも王は保守派だとヒュアも言っている。
無闇に改革し、混乱を起こしたくない筈の王が私情で国を動かす王など論外だし、矛盾している。
と言うか、もし個人的な想いで何かする王がいたら、まず国が滅ぶし、そもそも商人や民衆が逃げ出し、国が立ち行かない。
内乱間違いなしだろう。
一番可能性が高いのは改革派なのだろうが……。
「ちょっと話を戻すけど……」
ヒュアはそういって俺の思考をぶった切る。
「クリスティナが改革派の旗頭にされたのはその奴隷撤廃案を考えたからなの」
「考えた?可決された後ではなく?」
「そう、考えていたからなの」
可決されたのは旗印にされた後、と。
接触した順序が違うのか?
じゃあ、その改革派が可決に持っていったという事か?
「当時、改革派は派閥の規模として、そこまで大きくなかった。彼らは何かしらの実績が欲しかったのね」
いや、そもそも彼らだけで可決させる能力があるのならクリスティナを旗頭にする必要は無いな。
それを裏付けるかのようにヒュアは規模が小さかったと言っている。
「そこで改革派が目を付けたのがクリスティナ。この娘は民衆に人気があったの。そんな人気者の王女が国を変えたい思想を持っていたとしたらどうかしら?」
「俺だったらクリスティナを利用するだろうな」
「そう、彼女の立場は彼らにとって蜂蜜を掛けた焼き菓子のように喉から手が出るほど欲しいものだった。そして彼らは小さな派閥が故に狡猾だったの」
クリスティナは優しく近付いてくる彼らに心を許し、思いの丈を相談したらしい。
派閥抗争なんぞ知らなかったクリスティナはそりゃもうぺらぺらと話しちまったんだろうな。
そうすれば、後は彼らの思い通りだ。
クリスティナという王女が願っているという宣伝文句で派閥勢力の拡大を成功させ、二大派閥とまで言われるほどまでに大きくしたのだろう。
さらに我々はクリスティナ王女の後ろ盾があるといった大義名分を改革派は持ち、保守派に対抗する手段も手に入れたという訳だ。
「中立派の多くが改革派に流れた結果、法案は可決されたの。何名か保守派からも流れた事も影響しているそうよ」
ふぅとヒュアは息を吐き、新しく入れ直してもらった紅茶と焼き菓子を口に放り込んだ。
「……ここまで聞いて本当にクリスティナが悪いと思う?」
ゴクリと喉を鳴らし、ヒュアは俺の考えに変わりはないか聞いてくる。
本来ならば考えただけで罪に問われることは無いだろう。
寧ろ、彼女は利用された側、つまり被害者だ。
少し思い含む所はあったとしても、責め過ぎた事には変わりない。
「すまん」
俺は彼女から目を背けながら頭を下げ、謝罪する。
ぶっきらぼうなのは許してくれ、恥ずかしいんだよ、言わせんな。
ヒュアも珍しいモノを見たような表情をするんじゃない。
俺は謝れる男だ、認めたくない時の方が多いけどな。
「ううん、私も悪いから」
「確かにクリスティナの行動は迂闊、軽率、不注意といわれても可笑しくない程、酷いものだわ」
ヒュアの言う通り、クリスティナは王女という立場がどれ程、利用されやすいモノなのかを理解していない。
いや、理解しきれていなかったのだろう。
油断が招いた自業自得と言えばその通りだが、温室育ちのお嬢様には難しい話だったのかも知れない。
つまり、頭の中お花畑だったのだろう。
「ヒュアは私の味方なのかな!」
「勿論よ?」
「そうは思えないけど!」
「事実を受け止めれない程、弱い友人を持った覚えは無いわ」
俺は少し元気になり、ヒュアと言い合うクリスティナを可哀想な者を見た生暖かい目を向けてやる。
口論でヒュアに勝てる筈無いから諦めろ。
ついでに友人を気遣い話題を軽く逸らしたヒュアにも同じ様な視線を向けてやった。
おっさんも同様の目をしていたから俺の推測は間違っていない筈だ。
いい友人を持ったなぁと僅かばかりの父親感を出してみる。
「……何よ」
「何でもないさ、はっはっはっ」
「……イライラするからその目止めてくれないかしら?」
「はっはっはっ………ちょっ!痛てぇっ!!捥げる!!」
鼻に指を突っ込まれて思いっきり、上に引っ張られた。
痛い、鼻血出そう…。
「話を戻すわね」
「はい…」
グーデンさんに貰った布巾で指先を拭い、ヒュアはそう続ける。
因みにヒュアの指先には血が付いており、それは俺と同じ刑に処されていたおっさんのものだ。
ヒュアが刑を執行する時、おっさんの身体が浮いていたように見えたのだが、きっと気のせいだろう。
筋力の無いヒュアがそんな人間離れした技を持っている筈が無いからな、うん。
「ここまでの話でクリスティナの立場は理解してもらえたと思うのだけれど、どうかしら?」
「続けてくれ」
「ん。次は何故、護って欲しいのか。それについての話だけれど」
ヒュアは一呼吸置き、口を開く。
「何故については簡単、命とまでは言わないけれど狙われているから」
「何だ?妙な言い回しだな」
「そうね……少し説明し辛いから結論から言うわね。……クリスティナを狙っているのは保守派の一部なのよ」
「はぁ?」
「私達とお父様つまりアストノア家、そして王と同じ派閥の人間が、ね」
つまり、国に仕える筈の貴族が王族を狙っているのか?
王に対しての反逆罪と捉えられかねない事だと分かってて?
……もしかして親族が?
「因みに王家に連なる方々と国王陛下はこの事を把握していないよ」
そういっておっさんが補足する。
それは……。
「言っちゃ悪いけど、把握していないって信用しすぎじゃ?王家直属の暗部とかあるだろ?」
まぁ昔の話―ヒュアと出会う前の話だが、当時の俺は色々と手を汚すような仕事を受けていた。
勿論、仕事といってもはした金で、日銭にすらならなかったがな。
その中に確か、国の暗部が依頼主だったものもあった筈だ。
何時も覆面姿で要求や交渉は基本的に筆談だった為、あいつらは俺が知っている事を知らないだろう。
そいつら、顔は勿論、声や筆跡とかでばれない様していたんだが、まぁアレだ。
興味本位ってやつでつけてみると、まぁ大変、水路に入って行くではありませんか。
その先が唯一、王城に繋がってるってのを知っている奴は少ないだろうが、偶然俺は知っていた。
色々あったんだよ……。
まぁ、交渉の席では俺も顔を隠してたから向こうは俺の顔を知らんだろうし、覚えてないだろうがな。
っと、話がずれたか。
「僕らが報告を止めているのさ。もし知られれば、全員粛清もあり得るほど、陛下は娘や息子を溺愛しているからね」
「……迷惑な話だ」
ん……?
溺愛してるって事は奴隷撤廃案が可決されたのって……まさか……。
「あ、大丈夫大丈夫。補佐の人間がそんな事はさせないから安心しなよ」
補佐がいなかったらどうなんだとは怖くて聞けなかった俺を誰か笑ってくれ……。
「まぁ、親馬鹿な国王陛下の事は置いておいて、と」
「一応、それ不敬罪に当たるから外では言わないようにしたほうが良いよ……」
ヒュアの不穏な言葉にクリスティナが忠告をするが、事実その通りなのだろう。
クリスティナはそれ以上追及しなかった。
ディクソンも忠言しなかった事から周知の事実なのだろうと察せられる。
……ちゃんと敬われているんだろうな、国王。
「保守派に属している貴族の内、改革派がこれ以上力を付けられると困る者達がその旗頭であるクリスティナを狙ってるの」
「馬鹿なんだな」
「えぇ、馬鹿よ」
そんな事をしても、国王の反感を買うだけだろう。
処刑されても可笑しくないのに狙うなんぞ後ろめたい事があると言っているようなものだ。
「そんな彼らを私達保守派の大部分は過激派と呼んでるわ。もう別派閥と取ってもらっても構わないほどね。というより一緒だとは思って欲しくないわ」
「巻き添えはごめんだもんなぁ」
「彼らは保守派だと声高に叫んでいるけれどもね」
何時暴発するか分からない銃を携帯する馬鹿はいないだろう。
それと同じで、何時問題を起こすか分からない過激派とやらは、保守派にとって腫れ物同然に違いない。
「でも、彼らを放逐してしまえば、改革派を勢い付ける事になるし、何よりクリスティナに何するか分からないから保守派に止めておくしかないのが現状ね」
「手元に置いておいた方がマシってことか」
派閥抗争は辛いねぇ。
大派閥ともなれば、一枚岩じゃなくなるのだろう。
元はといえば一致団結して作り上げた筈が、いつしか中はどろどろの野望で渦巻いて、相手を陥れる死地と化している。
背中を任せた仲間が次の日には敵となるとか日常茶飯事なのだろうか?
マジで怖すぎんだろ。
そう考えれば、味方なんぞいない貧民街の方がまだマシか。
全員敵か、敵味方入り乱れるか、どっちがいいのだろう?
……どっちもごめんだわ。
「つまり、お前の依頼はその過激派とやらからクリスティナを護ってくれって事か?」
「えぇ、追加して言うと期限は未定で報酬は言い値。衣食住全てこちら負担。護衛官補佐期間の短縮。次の就職先も確約するわ」
「至れり尽くせりだな。断れば?」
「さぁ?少なくともアストノア家の信用は失墜。私の立場は無くなり、婚約者を探すことになりそうね」
まぁ、ここまで話を聞いたものの、元々答えは決まってる。
「お断りだ」
俺がそういうとヒュアは動揺すらせず、じっと視線を外さない。
というか過剰に反応したのは隣の主従だ。
「ど、どういうことよ!?」
「クリスティナ様がどうなっても良いと言うのか!!」
いや、普通他人の命なんてどうなっても良いだろ。
親しい人間ならともかく、昨日今日あったばかりのお前らじゃ特に、な。
まぁ、そんな事が言いたい訳じゃない。
「落ち着け、話を最後まで聞けよ。別に絶対受けないとは言ってないだろ?」
「どういう事よ」
「今の話で終わりなら受けないってだけだ」
「分かったわ、聞かせて頂戴?私が婚約しなくて済む道を」
ちょっと断ったからって根に持ってんじゃねぇよ。
俺は付き合いが長い奴にしか分からない程度にムッとするヒュアに説明をしてやる。
「何、難しい事は言わん」
ただな。
「ヒュア、お前の言葉からはお前の本心が見えてこない」
「本心…?」
「……」
クリスティナが疑問符を浮かべ、その隣のヒュアは無言で続けなさいと先を促す。
クリスティナ、お前に関する事なんだがな。
「何時も鉄仮面被って、つまらん理屈立てて真意をぼかして悟らせない。普段ならそれで良いさ。貴族じゃ簡単に心根を晒すわけにはいかんだろうしな」
「……」
「だがよ、唯一なんだろ?隠さずに言えや」
ここまで言って俺が聞きたい言葉がわかんねぇお前じゃないだろ?
「お前が俺にクリスティナを頼むのは訓練校の理事長って立場だからか?それとも―」
「――クラーク」
「あん?」
ヒュアは俺の言葉を最後まで聞かず、名前を呼ぶことで止める。
ようやく分かったか、この馬鹿ちんが。
「私の友人――失いたくない唯一の友人、クリスティナを助けて」
……ちゃんと助けてって言えんじゃねぇか。
「いいぜ、その依頼受けてやる」
断ると言った瞬間、強張ったヒュアの表情がゆるゆると解けていく。
ホッとした顔しやがって…。
ヒュアがここまで努力したのは理事長という義務感からじゃない。
ただただ友人を救いたいから、それだけだった。
それを本人が自覚していなかったのか分からんが、頑なに口にしないもんだから、強引に聞き出したのだ。
何度だって言うが、俺はこいつやおっさんに恩がある。
それはこの五年で返しきったとは思う。
だが、恩を返しきったからそれで終わりとはいかないのが人間関係だとも思うのだ。
つまり、何だ……。
何が言いたいかと言うと、こいつの為なら少しぐらいあそこに戻るのを延期してやっても良いんじゃねぇかなって訳だ。
グチグチ理由を並べて、逃げ場無くそうとせんでも助けてくれの一言さえありゃ、何も言わずとも引き受けたっつーの。
それにヒュアの傍だと俺の性のせいで迷惑が掛かるんじゃと考えてしまうが、最近合ったばかりのクリスティナなら遠慮は要らんしな。
多少、手を抜いた所でディクソンもいるし、面倒事は任せるに限る。
…あれ?
今思ったが、もしかして、ヒュアの所より楽なんじゃね?
「うぅ~っ、ヒュア~!!!!」
「きゃっ!?」
そんな事を考えていると、ヒュアの突然の告白に感極まったのか、クリスティナがまたしても飛び掛る。
きゃっきゃっうふふするのはいいが、また怒られんぞ。
「普段素っ気無いからたまに嫌われてるんじゃないかって……えへへ」
そんな俺の懸念を他所にクリスティナは子犬のようにヒュアにくっつき、小さく呟いた。
最初、ヒュアはどうすんのよ、これってな具合に俺を見てきたが、その呟きは彼女にとっても初耳だったらしい。
抱きしめ返し、ごめんと囁いた。
貴族然としている時は口達者なのに、人間関係では口下手なお前が悪い。
ちゃんと友達は大切にしろ、いいな?
……そういや、俺もあいつらに会ってねぇなぁ。
クリスティナの護衛をしたら会えるんだろうか?
少しだけこれからの事に思いを馳せ、俺は目の前で行われている女同士のいちゃつきを眺めるのだった。
すまん、少し日が空いてしまった。
少し……いやかなり体調がよろしくない
今回は本当に誤字脱字があるかも知れんからよろしゅう…
もう少し後書き書きたいが、今日はこの程度で…
次回もよろしゅうに




