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もうそろそろ、時間がやばいというのにアルディン教官は準備を始めた。
人型に模った木の板を一枚と今日の主役である銃と銃弾。
もう何をするのかお察しである。
「護衛官とは護る職である。故にこれからその木板を護衛対象者と認識し、前に立ち、銃弾をお前の身体で受け止めよ」
もうある種、虐めと言うか殺しである。
どこの国に銃弾を受けて生きている人間がいるのだろう。
死ぬやん?
「また、銃弾は特殊弾を使用する為、安全は確保されている。とは言え油断せぬように木板に当たった数だけ腹筋、背筋、腕立て、反復横跳び、全て百回して貰う」
当然、特殊弾を使うと知っていたけれども。
特殊弾とは言え、当たれば痛い。
骨身に沁みる様な痛さが何発も打ち込まれるのだ。
当然、誰もが受けたくないに決まってる。
だが、これは実際に実技訓練でされてるものだ。
射撃する者と受ける者の二人組みになり、射撃する方は本気で後ろの木板に当てに行く。
じゃないと撃った方が先程の腹筋などを課せられるからだ。
当たっても当てられなくとも辛いとかどんな拷問だよ。
「俺が撃つから全て遮れ」
実際の実技訓練でも全部遮った者はいない。
それを劣等生の俺にどうしろと?
因みにだが、全部後ろに当てた者なら意外と多い。
俺と組んだ奴は全員当てて行くからな。
いつもは関わりたくないとばかりに知らぬ存ぜぬを繰り返す同級生も、この訓練の時だけ組みたがる。
俺と組めば、課題が半分になるのも同然だからな。
ほんと都合のいい奴等ばかりで泣けてくるぜ。
「では構えろ」
銃弾は夜になると極端に見えなくなる。
それまでに終わらせればならないのだ。
逆に言えば、それまで終わらな異様にすれば良いんじゃね?
とは言ったものの仕方が無いから木板の前に立つ。
すると銃口がこちらに向く。
この銃口が向けられる事になれる意味合いもある訓練なのだろう。
初めは皆ビビッて目を瞑る馬鹿ばっかだった。
挙句の果てには手を前にやり、情けない声で「ひぃ」と言う奴もいた気がする。
そんな奴等も今や俺より良い成績を残しやがる。
く、悔しくないんだから!!
「何している?構えろ」
おっと、思考に耽っている場合ではなかった。
ちゃんとしなければ何時まで経っても終わらねぇ。
銃口から射線を意識し、教官の手と指に視線を向ける。
筋肉の動きと指の角度で何時発射されるかの間を計るのだ。
―トン、―トン、―トン……
「―今だ!!」
―ダンッと発砲音が聞こえ、弾丸が飛んでくる。
それを俺は―
「避けるなよ!!」
「いや、だって痛いじゃん」
ふぃ~、危ない危ないもう少しで当たるとこだった。
あと少しずれてたら脇腹に直撃だったぜ。
「当たるのがお前の仕事なの!!何避けてんだよ!!お前のせいで後ろの護衛対象撃たれただろうが!!」
「教官何言ってんの?これ人じゃないじゃん?目悪くなった?」
「護衛対象と思えって言ったよな!?」
後ろの木板には特殊弾によって赤い痕跡が残されていた。
勿論、何度も繰り返し使っている木板なので過去の特殊弾の痕跡も残っているのだが、新しい物はたらりと流れている。
これってば、血の色にそっくりだし、流れてる所が気持ち悪いんだよな…。
「手で受けろと言っただろう?」
神経が集中している手で受けろとかマジ鬼畜。
正確に言えば集中しているのは指先だが。
まぁ、実際本番で出来るかと言うのを除けば、教官の教えには意味がある。
足を狙撃されるのは論外。
護衛対象を護りながら逃げれなくなるからだ。
と同時に心臓部、頭部、陰部も論外。
当然、死ぬからだな。
後、腹部もダメだ。
足同様に走れなくなり、護衛対象の重荷になってしまう。
総じて、良いとされるのは肩から手先に掛けてと言われている。
因みに戦うのは論外。
護衛官の仕事は護ることにあるからのだから。
「手とか無理。範囲狭すぎ」
「それでもやらねばならん」
手で護れないと悟った時のみ、身体全身で護るのだとか。
例えば、もう撃たれた後で動けない場合や連射式銃、敵が多い時などの手数で負けている時など全身で護れという規定がある。
俺、他人を護るとか向いてねぇのになぁ。
「じゃあ、教官やって見てくれよ」
「む」
「あれれぇ~、恐くなっちゃった?」
「よ~し、やってやろうじゃないか!」
煽ったらすぐ乗るのがアルディン教官の悪い癖だ。
まぁ、そこが面白いんだけども。
場所を入れ替わり、今度は銃を俺が持ち、木板の前に教官が立つ。
ずっしりと重い銃。
人を殺す重みを感じさせるそれは、あまり持ちたいと思わない。
今は流通している数が少数で、暗殺程度の被害しかないが、将来、量産され、全世界でこれを使った殺し合いがあるのかもしれないと考えると、ありえないと楽観的な思いは湧いてこない。
後世の人間には可哀想だと思うが、俺はこの時代でよかった。
「何を考えている?撃ち方を忘れたか?」
「いや…」
まぁ、俺が考えて今後が変わるわけでもないしな。
意味ねぇことか。
「撃つぜ?」
「ドンと来い」
訓練で何度も扱ったことがある為、容易に準備は出来る。
後は狙いを定めて撃つだけだ。
照門と照星を覗き込みながら、撃鉄を親指で倒す。
引き金に人差し指を掛け、拍子を自分の中で取る。
一……二……三……よし。
もう一度、数え、今度は撃つ。
一……二……三……今だ―!!
ダンと言う音と共に手の中の銃から反動を感じる。
ただ、ここで銃口を上に向ければ、狙った位置からずれてしまう。
それでは意味が無い。
一撃で仕留めるつもりで撃たねばならない。
「ひゅぅ~、さっすが~」
当然の如く、アルディン教官は模範通りに掌で受け止めている。
特殊弾は弾け、手を貫通したかのように赤色に染めていた。
「久しいと余計に痛ぇな」
アルディンは手を布で拭う。
塗料が残っているのではなく、衝撃で赤くなっており、特殊弾とは言えど威力は相当の物だと窺い知れる。
受けたこともあるはずのアルディン教官も手を振りながら、痛みを軽減しようとしている程だ。
「後、もう数発残ってるんで手本見せてもらっていいっすか?」
「ったく」
仕方ねぇなと言いつつも、どこか嬉しそうなのは頼られているからかそれとも…撃たれて嬉しいとか?
被虐趣味かよ。
「この変態!!」
「何がどうなってその言葉にたどり着いた!?」
もう一度、構え、狙う。
今度は込められている弾丸残り二発と新しく三発込めて計五発の連射をしようと、すぐ取れる位置に三発用意する。
狙って―――――ダン―ダン―――ダン―ダン………
「おぉ~、全部受け止めきった」
「………」
「すげぇぜ、アルディン教官!!いやぁ~、俺もそんな風になりたいっすわ~」
「お前が………」
「ん?」
何か言いたい事でもあるのだろうか?
完璧に防ぎきったのは凄いと思うぜ。
訓練生の中で連続四発受けきった奴はいなかった筈だ。
男の意地だな!!
「お前が股間しか狙わないからだろーがぁあああ!!!!」
まぁ、訓練でも良く狙う場所だ。
男の象徴を狙うのは当然の事だ。
女の子を狙う敵は少ない方が良いに決まってる。
「あ、一発残ってた」
―ダン
「痛ってぇええええええええええ!!!!!!!!!!」
残念、最後の一発は防げなかったようだ。
ご愁傷様です。
奥さんとはこれからの事を話し合って下さい。
ってな訳で教官の負傷により、補講終了。
やったぜ!!
有耶無耶になってなくなれば良いなぁなんて楽観的過ぎるか?
まぁ、今日は終わりだし、帰るか。
俺は教官を放って置いて、今日の夕飯の事を考えながら寮に戻った。
「せめて、誰か呼んでから行けよ!!」
聞こえない聞こえない。
一話当たりの文字数はテキトー
2000の時もあれば6000の時もある
気分です
一週間分の書き溜めはあるのでそれまでは毎日投稿
それ以降は気分次第