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 アストノア家に報酬を貰いに行こうと思ったが、久しぶりの王都だ。

 少しばかり観光と洒落込もうと平民街の商業区画を練り歩く。

 別に時間の指定はされていないし、多少ゆっくりした所で誰も文句は言わないだろう。


 周囲をぐるりと見回すと平民街は相変わらず喧騒に包まれていた。

 露店の店主の客引きに主婦らしき女性の値切り交渉、昼間から飲んだくれている老人の笑い声、旅人らしき若人の話し声に吟遊詩人が奏でる琴の音色。

 手伝いをしているのだろう、水路では少年や少女が洗濯や野菜を洗い流し、友達ときゃっきゃっと騒ぐ楽しげな様子。

 人だけではない。

 馬車を引く馬や野良猫、空を舞う小鳥達の鳴き声もこの平民街の喧騒を形成している要因の一つだ。

 よく言えば活気がある街で、俺が思うには騒がしく、煩い街だ。

 だが、どこかやっぱり嫌いになれない。


「腹減った…何か買うか」


 あちこちから漂う果実の甘い匂いと甘辛い香辛料の匂いが混ざり合い独特の香りがする。

 食欲を誘うような匂いでないにしても腹を満たすだけなら関係ない。

 金を入れている皮袋を開け所持金を確認したのだが―。


「…」


 金がねぇ…。

 そういえば、アストで最後の晩餐と称して酒盛りしたんだっけか。

 酔っ払ったついでに娼館に行った様な…?気もしなくも無い?的な?

 確かそれで集合場所に遅刻したんだったか。

 そりゃ金がねぇ筈だわ。


 ぐぅ~と腹が鳴る。

 飯の事を考えていたら余計にお腹が空いてきた。

 屋敷に行けば何か食わしてくれるとは思うし、報酬を取りにいってから街に繰り出すのも悪くは無いんだが……まぁ、面倒だ。

 王都に着いたばかりなのだ。

 酒場に入って一息吐きたいんだがどうしたもんか。


 ―ガシャンッ!!!!


 そんな事を考えていれば、露店の一角から何かが壊れたような大きな物音が聞こえてきた。


「このクソガキ!!」


 次いで聞こえてきたのは男性の罵声だった。

 そこには果実か野菜を販売していた露店の店主が怒りの表情であるものを見下ろしている姿があった。

 店主が見下ろしているものに視線を向けると十にも満たない幼い少年が横たわっている。


「吐け!吐け!!吐け!!」

「…っ!…っ!」


 店主は怒りに任せ、少年の腹を何度も蹴り上げる。

 それに対して少年はくぐもった悲鳴にならない声を出しながらも蹲っていた。

 逃げる事が出来ないのではなく、わざと逃げていないのだ。

 なぜなら少年は店主の蹴りを受けながら販売されていたであろう果実を頬張っていたのだから。


 少年はボロボロの麻服に身を包み、何日も水浴びをしていないのであろう、髪の毛や身体はボサボサで煤が頬を汚している。

 袖から見れる四肢は皮と骨だけの様でやせ細っていた。

 彼は恐らく貧民街の人間だろう。

 それも飛びっきり劣悪な環境で育ったに違いない。


 そんな少年が殴る蹴るという暴行を受けているにも拘らず、他の人間は助ける事もせず、一瞬だけ視線を向けるとすぐに日常へと戻っていく。

 否、これが日常なのだ。

 高々、貧民街の人間が蹴られた所でここらの人間は一切心が痛まない。

 それどころか少年に侮蔑の視線を向ける者までいる。


 同じ平民の中でもこれだけ貧富の差出ているこの状況に何の疑問を持たないのが、ここの人間であり、王都なのだ。

 こんな事はこの国中で起こっているだろう。

 だから俺は王都をこの国を凝縮した町だと思っている。


「ちっ!」


 一頻り蹴り終えた店主は少年に唾を吐きかけ、壊れた木箱を片付け始めた。

 その横で少年はピクリとも動かず、死んでいるようにさえ見える。


「演技、だろうな」


 俺はそれを演技だと確信を持って言える。


 何故演技を?と聞かれれば単純に答えられる。

 そうする事でここらの人間の良心に訴えているのだ。


 平民街の人間―富民とでも言おうか。

 富民は貧民街の人間と違い、人間を捨てちゃいない。

 だから殴る蹴るという暴行はしても殺す事は無いのだ。

 

 なら、自分と同じ人間の姿をしたそれが目の前で痛そうにしていれば?

 それも自分の手で、小さな子供が、だ。

 怒りの収まり方がより早くなるだろう。

 そうすれば少年の思う壺だ。

 貧民街の少年からすれば、日常的に手加減など無く、暴力を振るわれている為、富民程度の暴力などゴミみたいなものだろう。

 富民の良心を利用し、最小限の暴行でタダ同然の飯にありつく。

 演技する理由としてはこんなものだろう。


 当然というべきか、少年はまるで本当に痛そうによろよろと立ち、ふらふらと人にぶつかりながら人の波に呑まれた行った。


「金ねぇし、腹減ったし、どうすべきか…」


 結局、少年を見ただけで腹の減りが収まらないのは当たり前だ。


 仕方ない、うん、仕方ない。


 俺はそう思い、人混みの中に飛び込んだ。



―――――



 表で腹を満たした少年は平民街をそのまま進み、その後、脇道に身体を滑り込ませる。

 そこは表の活気が嘘のように物静かで、薄暗く、乾燥した馬の糞や砂埃、食べ歩きの際に出るゴミなどがあちこちに散乱しており、不衛生な場所だった。

 表は綺麗に掃除がされていたとしてもこんな細い小道を好き好んで掃除するものなどいない。

 故にここを通る人間など殆ど居らず、逃げるのには持って来いの道だった。


「へっ!ちょろいぜ」


 少年の手にはジャラジャラと音が鳴る皮袋が三つ握られている。

 恐らく、人ごみの中、人にぶつかったと同時に懐か腰にあるそれを盗んだのだろう。

 思いもよらない皮袋の重さにニヤニヤとしながら少年は浮き足立った様子で奥に向かっていく。


 おいおい、油断しすぎだぜ。

 もう少し警戒ってもんを教えてやらなきゃいけねぇか?


 さて。

 何故、俺が人混みに消えたあの少年をさも見ているかのように語れるのかと言えば……見ているからだ。

 それも見下ろす形で、な。


 俺は屋根の上に登り、上から人混みの中を掻き分けて進む少年を探した。

 すぐに見つかったぜ。

 何せ、よろよろとしているし、小汚い子供にぶつかられたくない富民が若干避けてそこだけ人の数が薄くなっていたからな。


 風を切り、俺は丁度少年の数歩先に降り立つ。

 突如として目の前に現れた美形なお兄さん()に少年は表情を強張らせる。

 こいつからすればいきなり現れたように見えた事だろう。

 どこから?いつから?なぜ?そんな困惑が手に取るように分かる。


 警戒が薄いからそうなるんだよ。


 少年も前後方に左右には気を配っていたように思えるが上に関しては全くの無警戒だった。

 まだまだガキって事だ。


「よう、がきんちょ」

「……」


 躾がなってねぇな。

 返事しろよ。


 恐らく、俺の風貌や動作を観察しているのだろう。

 目がぎょろぎょろと動いているぜ?

 悟られない方法も覚えろよ。

 じゃねぇと―


「その皮袋の中身、よこしな」


 こんな風に弱者と知られ、集られるからな。

 少年は咄嗟に手の物を後ろに隠す。

 俺の要求に対する答えはそれだけで明確に示された。


 残念だ、素直に渡していれば、俺も優しくしたのに。

 後ろに手を回したことで腹が無防備になる事を考えていないのだろうか?

 いや、考えての行動か?

 俺の今の服装がヒュアの用意した護衛官の正装だからか、富民と同類だと思われているのだろう。

 富民の攻撃なら受けても痛くない、と。


「じゃ、遠慮なく」

「ぐぇっ!!!」


 思いっきり腹を蹴り上げる。

 たかが富民の一撃と高を括っていたのだろうが、どうだ、俺の一撃は重いだろう?

 モロに入ったからか呼吸がし辛いのだろう。

 ひゅうひゅうと浅い呼吸音が聞こえる。

 骨の一本でもいったか?


 大人が子供を蹴って金品を巻き上げる俺を外道だと思うか、少年?

 俺は全く思わない。

 何せ、お前の持っているそれは盗品だ。

 盗人から盗品を返して貰って何が悪い。

 俺は善意で盗まれた人の事を思ってお前から取り戻すのだ。

 正義は我にありってな。


 まぁ、実際あの人混みの中、持ち主など見つかる訳も無いからそれは俺のものになるんだがな。

 貧民の子供から奪った物だから足もつかない。

 これほど心が痛まず、苦労しない金策方法があるだろうか。

 真似していいぜ?


「さてと、反撃しないのなら貰っていくぜ?」


 三つの皮袋を開け、中の硬貨を確認する。

 お、金貨まであるじゃん、やりぃ。

 全部、自分の皮袋に詰め込み、袋はその辺に捨てておく。


 少年の頭の中にはもう皮袋の事などなく、ただどうすればこの状況から抜け出せるかしかない筈だ。

 まぁ、もうこいつには用が無いがな。


「待って…」


 小さく呟くも俺が止まる理由にならない。


「この…悪魔め…」

「じゃあな、がきんちょ。生きてたらまた会おうぜ」


 久しく聞かなかった呼び名に少し動揺し、つい返事をしてしまった。

 これからあの名で呼ばれることも増えるんだろうなと考えつつ、俺は腹ごしらえをするべく表の露店に向かうのだった。

ファンタジーって聞けばどんな町並みを思い浮かべます?

大体の方は中世ヨーロッパとかじゃないかと

馬車が走り、露店があり、石造りの建物に王族や貴族がいたりだとか

こういう世界観私は嫌いじゃない、寧ろ好きな方ですが

書くに当たって調べるんですよ

こんな時代どんなだったんだろうって


と言う事で唐突にまめ知識のコーナー!!


そもそも中世とは(私調べなので間違っている可能性あり)

日本で言えば鎌倉から戦国時代に当たるそうです

勿論、色々な説があり、江戸時代も入ると言う人もいるのではっきりとはしない

で、その頃のヨーロッパは確かに貴族、王族がいました

ここら辺は授業で習ってください

解説した所で面白くないので


まめ知識なので雑学程度の事を書きましょう

皆さんが思い浮かべるファンタジーの移動手段の一つである馬車

よくアニメとかで見るあれです

街中も走っていますよね?

そうなんです、街中も『馬』が走っちゃっているんです

馬は生きてます

自動車みたいに燃料を入れれば、動いて終わりじゃないんです

自動車が排気ガスを出すように馬もご飯を食べたら糞を出すのです

何が言いたいかというと


実はファンタジーの舞台でよく取り上げられている中世ヨーロッパでは馬車を引いている馬の排泄物は垂れ流しだったそうです!!(ババン!!


まぁ、実際見たことないんで本当かどうかは知らないんですけども

その垂れ流しの馬糞は日光によって乾燥して、風に乗り、人の呼吸器系に入って疫病とかもあったらしいです

だから、もし露店とか出していたら糞塗れな商品って事ですね!!

反吐が出るぜ!!


次回は「中世ヨーロッパではお風呂の概念が無かったから王族も臭かった!?」

でお会いいたしましょう、シーユー


おわり

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