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 まぁ、結果から言って何事も無く王都に着いた。

 大男も俺の言葉に従い、大人しく御者の仕事を全うしていたので、手を汚す事は無く済んで俺も満足だ。

 もし、寝込みとか襲われても良い様に睡眠時間は出来るだけ少なくしたのだが、徒労だった様である。


 クリシュデン王国王都『ミストピア』。

 この国の中心に位置するこの王都は南北を川で挟み込まれており、この街の人々はその川の水と共に生きてきた。

 事実、街の至る所に水路が設けられ、水浴びから洗濯、食事にと生活に欠かせない存在と化している。

 その水が北から街の中を流れ、南へと排出される構造上、北に富裕層が固まり、南に行けば行くほど貧困層が固まっているのは仕方ない事だろう。

 口悪く貴族の気持ちを言えば、「平民以下が触れた水など使いたくないわ!!」ってことだ。


 まぁ、それは置いといて、王都の構造は中央から北寄りに王城、その周りに貴族街と貴族専用の店が集まり、そしてその南に扇状に広がるのが平民街や露店の広がる蚤の市などである。

 更にその南に第一貧民街、そして裏の世界こと、俺の故郷である第二貧民街と広がるのだ。

 俺は報酬を頂ければ、そこに戻るつもりだ。

 ヒュアには旅をすると言っておいたが、勿論そんな事はしない。

 あれはヒュアを心配させまいと言った嘘だ。

 もし、第二貧民街に戻ると言えば、あいつはいい顔をしない。

 グチグチ言われるのは面倒だ。


「無事に着いてよかったなぁ」


 貧民街が広がる南からは入れない為、東に回り込み、街に入る為の検問を幾つも通る。

 勿論、貴族がいるので馬車の中を調べられたり、御者の身分を調べられたりはしない。

 俺も簡単な身体検査で終わった。

 貴族と一緒と言うのもあるが、この胸の徽章も一役買っているのだと思われる。


 東門を通るとそこには露店や宿、酒場など多種多様な店がごちゃごちゃに建ち並ぶ、平民街の商業区画が広がっている。

 流石、王都と言うべきか活気があり、あちらこちらから呼び込みが飛び交う。


「ぶっすー」

「ったく、まだ根に持ってんのか?ちょっと胸、触られたぐらいで怒る事無いだろ」

「…(ギロッ」


 王都に着いたと言うのにクリスティナは頬を膨らませ、まるで親の敵のように睨んでくる。


 こ、怖い…。


 あの洞窟を出た直後にクリスティナは目を覚ました。

 起きた当初は眠らされた場所と違う事に戸惑いを隠せなかった様だったが、心配する振りをしながら胸を触ったら俺にビンタが飛んできたのだ。


 俺は落ち着かせようとしただけなのに。

 お陰でしばらく頬からもみじ跡が消えなくて、俺の魅力が一割程下がった…。

 ともかく、それから馬車の中でもああいう感じなのだ。


「悪かったよ、別に下心は……無いと言えば嘘になったりならなかったり?」

「あるじゃない!もう!もう!」


 こうして元気なクリスティナにあの洞窟での出来事について一切話していない。

 これは大男にも言わない様にと厳命してある。

 事実を知る事で外が恐くなり、引き篭もられてもヒュアに文句言われるだけしな。


「さてと、この後は報酬を貰いにヒュアの実家に行くか。お前らどうすんの?」


 取り合えず、大男は別れるのは分かっているが、知らない振りをして聞いておく。


「もう怒るの疲れたわ…。私は帰る」

「貴族街だろ?近くまで送るぜ?」

「結構よ」


 親切心で誘ってみたが、断られた。


 本気で嫌われたか?

 まぁいいさ、これっきりの契約なんだ。

 もう会うことも無いだろう。

 例えヒュアの実家に抗議の連絡があってももう俺はそこにいないから関係ないしな。


「御者さんはお礼をするので一緒についてきて下さいね?」

「いや、私は…」


 当然のようにクリスティナは大男を屋敷に誘う。

 何も知らないのだから報酬を払うのは当たり前なのだが、彼は盗賊をしていた男だ。

 あれだけ力の差を見せたのでもう一度、クリスティナを襲う事は無いと思うが、可能性は捨てきれない。

 ただ、大男の曖昧な返事も分かるのだ。

 断れば、クリスティナは不振に思うだろうし、頷けば俺が怖い。

 どっちに転んでも片方から不興を買うのだからそのどっちつかずの返事をするのも致し方ないのだ。


「残念だったな、クリスティナ。俺はこいつとこの後飲む約束をしてる。どちらが多く飲めるかのな」

「そんなの後でいいじゃない」

「ふっ、どこに住んでいるかも分からないこいつが逃げない保証は無いだろ?行くぞ、デカブツ!」

「ちょっとー!!!」


 困っている大男に仕方ないので助け舟を出してやる。

 男を助ける趣味は無いが、元はといえば俺があの洞窟でさっさと処理をしなかったのが原因だ。

 まぁ、もっと元を正せば盗賊をやってるこいつらが悪いのだが、それを指摘するのは酷だろう。

 その人間にも事情ってものがあるのだから。


 クリスティナはこいつがこっちに来た事に不満なようだが、そんな事は知ったこっちゃない。

 それにまぁ、これが一番安牌な方法だろう。

 ちょっと進んであいつの視界から外れたら別れてやればいい。


「すみません」

「謝る事はねぇよ、逃がすって約束だからな」

「…」


 歩きながら大男の謝罪を受け、そのまま真っ直ぐ歩く。

 クリスティナから見れば仲が良く見える様に振舞う。

 途中で角を曲がり、クリスティナが諦めて貴族街に向かった事を確認した俺達は、そこで別れる。


 「達者でやれや」と言う、別れ言葉を社交辞令として送ってやると、初めて笑いやがったので、気持ち悪いという言葉も添えてやった。


 男に微笑まれる趣味はねぇ。


 そうしたらあいつは苦笑いをし、外郭区―つまり第一貧民街へと向かっていった。


 一度でも盗賊の自由さを体験すれば表の世界がいかに窮屈か、よく分かる。

 ああいう手合いは決して元の生活に戻れないのだ。

 例え、職を手にしても盗賊の時の自由を思い出し、逃げ出すのだろう。

 俺は何人も見てきた。

 ただ、それはあいつの人生だ、何が起ころうと俺が関与することではない。


 女なら手を差し伸べるがな。


 ただ、第二貧民街はお勧めしない。

 男であっても、せめて第一貧民街で踏み止まる事を切に願うばかりだ。


 俺は大男の後姿を見送った後、踵を返し、クリスティナに気付かれない様に貴族街に向かうのだった。

 

ストックが無くなって来た

・・・まぁいいや

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