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この洞窟は新人が見つけて来たという話をあの見張りはしていたが、この洞窟が元々何の為に作られたのか分かってきた。
唯の洞窟に鉄格子付きの牢屋や木製の手枷など無い。
加えて、盗賊単位で掘れるほどここは狭くないし、崩れないように木で補強してある。
所々に盗賊が持ち得ない物と補修された痕跡がある事から、恐らくこの洞窟は国もとい軍が保持していたものだと推察出来る。
予想だが、盗賊を捕まえておく為の洞窟だったのだろう。
つまり、森を切り開き、街道を整備した時に捕まえた盗賊をここにぶち込んでいたと考えられる。
多分だが、国が街道を整備し終えて撤退した頃に盗賊が見つけ、再利用したのだろう。
まぁ、気になる所が無い訳ではないが、聞く相手も居ないし、どうせおさらばする所だから気にしない事にする。
そんな事を考えながらカンテラのお陰で難なく歩ける洞窟を進んでいれば、丁度分かれ道に付いた。
指を口に含み、唾液の付いた指先を頭上より高く上げる。
すると風が左から吹き、指先がひやりと冷たくなった。
「左が出口か」
風向きが分かった所で出口の見当をつけた所で指を拭い、これからどうするべきか考える。
……。
取り合えず、クリスティナの様子を見てからでもいいだろう。
もう身体を弄ばれ、性の肉塊になっているかも知れないが、その時はその時だ。
それにあの大男にも一発お見舞いしておきたいしな。
そうと決まれば右に足を向ける。
洞窟だけあって風がうすら寒く、ちょっとした物音が響く。
カンテラが一定間隔で壁に設置され、前が見えないことは無いが、どこか底気味悪い。
じめじめした特有の湿気が身体に纏わり付き、不快感を感じる。
そんな洞窟内をしばらく歩いていれば、小さな声のようなものが聞こえた。
出来るだけ足音を立てぬように急いで進めば、前方にカンテラの明かりではない明るい光が壁を照らしている。
それだけでなく、男性らしき声も聞こえてきた。
十中八九、盗賊だろう。
角に背を付け、中の様子を窺うとそこは広場になっていた。
恐らく、盗賊が普段生活している場所だろう。
「お頭~、おいら我慢できねぇよ。ちっとぐらいいいんじゃないですかい?」
「馬鹿野郎!テメェの汚ねぇブツで商品価値が下がっちまったらどう責任取るつもりだ」
「せめて胸だけでも触らしてくだせぇよ」
「このお高そうな服も付加価値なんだよ。薄汚ねぇ手で触んじゃねぇよ」
「ちぇっ、お頭だって触りてぇ癖に…。なぁ?ちっとぐらい良いと思わねぇか、新入り」
盗賊らしき男達、十数名がクリスティナを囲み、話し合っている。
新入りと呼ばれた男はやはり御者の大男で、奴もその中に混じっていた。
ただ、余り話すつもりが無いのか、壁にもたれ掛かり、瞑想しているように目を閉じている。
「ちぇっ、相変わらず無口な奴だ」
男達は安酒を煽り、思い思いに駄弁っている。
お頭らしき男が付加価値と言っていた事から、奴隷として売るつもりで攫ったのだろう。
どう考えても村を襲った方が金になると思うのだが、何か理由でもあるのだろうか。
そんな事よりも奴隷制度は無くなった筈だが、こいつらは知らんのか?
ヒュアに廃止されたと聞いた記憶がある。
殆ど何を言っているのか理解できなかったが、改革派の筆頭である第二王女が廃止を主張し、王に認められたとか何とか。
以降、奴隷を保持する事、販売する事、譲渡する事、全てが禁止になったらしい。
まぁ、裏に行けば販売経路など幾らでもあるがな。
王女の立場では分かり得ない世界もあるのだ。
それに今日から廃止なので奴隷を解放してくださいと言った所で、所持している者からすれば、自分の財産が取り上げられる事に他ならない。
隠れて持つ者が増えるだけだろう。
更に言えば、奴隷という身分である事の方が良い事もある。
少なくとも裏に落ちなくてすむのだから。
「お頭、俺もう我慢出来ないっす!」
そんな事を考えていれば、いつの間にか一人の盗賊が命令を無視してクリスティナに襲い掛かろうとしている。
正直、俺は俺の命が何よりも一番大事だ。
俺の命が助かるのであれば、彼女を見捨ててもいいと思っている。
十数人も居るあの中に飛び込めば、どうなるか分かりきった事。
そう――
「ちっ、しゃーねーな。胸触るだけなら許可してやるよ」
「ひゃっほー、話が分かるお頭最高だぜ!」
――分かりきった事なのだ。
「邪魔だ、どけ」
「ぐぇっ!?」
「なっ!?」
今にもクリスティナに飛び掛ろうとしていた盗賊の横腹に思いっきり振り抜いた蹴りをお見舞いする。
面白いように飛んで行き、地面で何度か回転し跳ね、壁に当たって漸く止まった。
突然の出来事に反応出来ていない盗賊を尻目に構わず二人目に掛かる。
大人数を相手取る場合は長引けば長引くほど不利になる為、速攻が最善手だ。
二人目の襟元を右手で掴み、左手は相手の髪の毛を掴む。
そのまま、背負い投げの要領で地面に叩き付けた後、もう一度頭を掴みなおし、今度は頭蓋骨を粉砕する勢いで叩き付ける。
寝ていれば襲われ、飯を食えば襲われ、女を食っていれば襲われるあの世界で生きた俺は、分かってしまうのだ。
この状況が命を落とす状況かそうでないかという事を。
今回は絶対絶命の危機を感じない。
ひりひりとした危険は感じたが、死を告げてくる要素が無かった。
叩き付けた格好のまま三人目、呆けている御者をしていた大男の腹部に蹴りを放つと紙の様に吹っ飛んで行く。
「?…まぁ、いっか」
「貴様!見張りはどうした!?」
「あぁ、あいつならおねんね中だ。折角寝かし付けたばかりなんだ、起こしてくれるなよ?」
まだまだ敵は多い。
なのに俺の身体はどんどんと熱く滾ってくる。
懐かしいとさえ感じ始めた。
「裏に行く前の準備運動だ。ちっとばかし付き合ってくれ」
この程度に苦戦している様ではあの世界では生きていけない。
訛った身体を解すいい機会だ。
「野郎共!殺っちまえ!!」
「うらぁあ!!」
頭の合図と共にナイフを持った男が、突撃してくる。
凶器は持っていても狂気は感じない。
それだけでこいつらはまだ善良だ。
突き出して来るナイフを半身を引いて避け、相手が右腕を無防備に伸ばしきった所を俺の膝と肘で挟み込む。
―ゴリッ
「ぎゃぁああああ!!」
鈍い音が洞窟に響く。
盗賊の右腕が普通ではありえない方向に曲がっており、先程の音の正体を明瞭にしていた。
「安心しろよ、折れちゃいないさ」
高々、間接を外しただけで大の大人が情けない。
悪人ならもっと痛みに慣れて出直してくるんだな。
そう思うも一人にかまけている暇など無く、剣を振りかぶる男が視界の端に映った。
咄嗟にさっきの奴が落としたナイフを拾い上げ、男に向かって即座に投げる。
とは言っても投げナイフ用のナイフでもないし、俺に投げナイフの心得がある訳でもない。
それでも唯単純に相手の顔に向かって投げるだけで牽制にはなってくれる。
慌てて、ナイフを弾く為、剣を振り下ろした結果、そこに隙が出来る。
振り下ろされた剣を足場に顔面に膝蹴りを食らわせ、そのまま倒れる盗賊の後頭部を地面にめり込ませ、次の相手に向かう。
「ひぃ!」
この大人数の中、ビビッている男を相手に出来るほど余裕がある訳ではない。
どうせ、こういう奴は逃げるから無視しても構わないのだ。
そいつの横を通り過ぎ、また槍を持つ相手に狙いを定める―が。
横から殺気を感じた俺は咄嗟にしゃがむ。
「ぎゃああああ!!」
その直後、俺の頭上を矢が通り過ぎ、ビビッていた男に刺さる。
弓まで居るのか、面倒な。
そう思いながらも俺は自分の口角が上がるのを感じていたのだ。
今日の朝、気が付いた
予約投稿すればよかったと




