前世
彼が、料理を持ってくるから少し待っていてくれ。と言ったので、俺は大人しく待つことにした。その間、啄木は、何故あの男が俺のことを『先輩』と呼ぶのか。そもそも、今いる場所はどこなのか。 何故、ここに連れてこられたのか。など、咄嗟に思いつく疑問について自問自答してみたが、もちろん、満足な答えが得られるわけではなかった。
「今日も仕事だったんだけどなぁ」
彼は仕事に就いてから、一度も無断欠勤をしたことはない。仕事にやりがいを感じたことは一度もないが、こういう社会人として当然の対応は出来て当たり前だと思っていた。
男が料理を持って帰って来た。なにやらカエルの様なものが皿の上に乗っている。
「先輩、とりあえず、我が部族で一番美味いモノを用意しましたよ。カエルでは無いですよ。コーリーですよ」男はそういって皿を啄木に差し出した。
彼は、カエルが嫌いだった。が、せっかく持って来てもらったものだし、一番美味いものだと言っていたので、勇気を持って食べてみることにした。何故ここに連れてこられたのかはわからないが、どうやって元の世界に帰るのか、また帰れるのかわからないので、しばらくここに居座ることは確実だと思うので、ここでの生活に慣れなくてはならない、と思い、腹を括って食べ始めた。
意外とうまかった。部族で一番美味いものだと言っていたので、それも当然か。鶏肉のような肉質に、オリーブと塩(の様なものなのかもしれない。)が、うまく絡まって濃厚な味わいが口いっぱいに広がった。
男は、俺がコーリーを食べるのを嬉しそうに見守っていた。
「先輩、どうですか? 美味いでしょ?」
「ああ、美味いな、これは。というか俺を先輩と呼ぶのは、辞めてくれ。 もし呼び続けるのであれば、何故俺が先輩と呼ばれているのか説明してくれ。 ついでに、何故俺がここに連れてこられたのか、ここはどこなのか、お前は誰なのか、など 今俺が置かれている状況を説明してくれ」男にそう要望した。
その言葉を待っていたのか、男が堰を切ったように話し始めた。
「何から、話していいのか分かりませんが、とりあえず僕の名前から行きますかね。僕の名前は【アームコーン】 アーム族の兵士です。
次に、ここは【アクセシオ】という、あなたが昨日までいた地球とは全く別の惑星です。まぁ、地球のように【水】があるから、地球人が言っている、《第二の地球》ということになるんでしょうけど、地球よりアクセシオの方が、早く出来たので、ここに住むモノをからいわせてもらえれば、地球が《第二のアクセシオ》何ですけどね。ここまで理解追いついてますか?」
俺は、頭の整理が出来なかった。男の言葉を理解しようとはしていたが、ただ、右から左へ受け流しているだけになっている。全く言葉が入ってこない。ただ1つ分かったことは、ここはもう地球ではない、ということ。
遠くで笑い声が聞こえた。まるで俺がこの状況を全く理解していないのを嘲笑うように
「なぜ俺をこんなところに連れて来たんだ?地球に住んでいた俺を、こんな未知の場所に連れて来る必要があるんだ?」彼は男に説明を求めた。
彼は、ため息をついてから、答えた
「それは、我が族の繁栄のために、あなたの力が必要だからです。だから [呼び戻した]んです。いいですか?、これから、あなたには多分 なかなか受け入れてもらえないかもしれないことを言います。別に信じてもらわなくても結構です。とりあえず、口を挟まず聞いてください。良いですね?」
男は、念押しするような視線を啄木に寄越した。俺は、その視線の圧を受け、何も言えなかった。決意を固めて深く深呼吸をし、男に向かって頷いた。
啄木にとって、次にアームコーンが言葉を発するまでの時間がとてつもなく長く感じられた。
「あなたの前世は、アームストロングという立派なアーム族の軍部の長でした、それはとてつもなく強い長でしたよ。しかし、戦いの時、相手軍の長に討ち取られ、死に至ったんです。それが今から55年前でした。それから30年後、あなたは地球で新しい人生をスタートさせたのです」
啄木は頭が真っ白になった。俺の前世がアクセシオで生きるアーム族の軍部の長、アームストロングだったなんて。
「なぜ、あなたをこの世界にお連れしたかと申しますと、あなたが、地球での人生をとてもつまらなそうに過ごしていたから。もっと刺激的なことが欲しいと言っていたから。
もう1つは、アーム族がここら辺一体の(詳しいことは後で説明するが)統一に向けて、大規模な戦争を連続して仕掛ける。ということです。そこにあなたの力を貸していただきたいのです」
啄木は、頑張って話を理解しようとしたが、どうしても理解できないことがあった。何故、地球での生活態度を知っているのか、
生まれてこのかた戦闘はしたことないが出来るのか。そして、地球に戻れるのか。
これらの問いに対して、アームコーンは次のように答えた。
生活態度とか言葉は、魔法を使ってあなたをここ一ヶ月ぐらい見ていたからわかる
戦闘を経験していなくても、ここにいると、あの時の記憶が蘇るだろう。又訓練も行うし、問題ない。
地球に帰りたければ帰っても良いが、戦闘が全て集結してから。 まあアームストロングが帰りたくなるとは思わない。
とのことだった。
またアームコーンは、まだ話したいことが山ほどあるが、もう疲れているだろうからまた明日教える、と言って、仕事に戻っていった。
啄木は、今日1日で起こったことを頭の中でもう一度、考えてみた。とてつもなく長く濃い1日だった。
「1日で、環境ってこんなに変わるのか」
そう呟きながら、上を見上げた。