隣を歩くはムカつく微少女
俺は小さな手を握りしめ草原をひたすら走る。父さんや母さんは無事だろうか?本当はこんな少女より両親を助けに戻りたい。でもダメなんだ…この子を逃がさないとますます酷いことになるというのだから。
日差しが瞼を抜けて視界を赤く染める。眩しすぎる日中の太陽と、走り続けたために上がりきった高い体温で身体中が汗だくだ。苛立ちから少女の手を突き放した。
「ここから先は俺には関係ない。お前には凄い能力とかあるんだろ?だからここまでだ。あとは自由にしろ。俺は村に戻る」
戻ったところで両親はすでに死んでいるだろうけど、そのまま野ざらしにすることなんかできない。俺の両親はこの少女の世話係だったんだ。少女には他の者とは違う力があるらしく、村では姫様のように扱われていた。だけどその力とやらを実際に目にしたことのない俺は、小さな少女が世界を救うなんてこと信じてなかった。
「戻っちゃダメだよ。せっかくおじさんたちが逃がしてくれたのに、天さんが殺されてしまう」
「お前になんか心配されたくない。誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ。」
「みんな天さんを守る為に命をかけたのに…今は私と一緒に逃げて下さい。後でちゃんと説明します。だから一緒に逃げて!お願いします」
深々と頭を下げる少女の姿は、俺よりはるかに大人に見える。これじゃまるで、俺の方が駄々をこねてる子供のようじゃないか。顔を上げた少女の瞳はとても真剣で、そんな少女の提案に逆らうのは間違いだと感じた。
「後でちゃんと話してもらうからな」
遠く後ろにはあちらこちらで燃え上がる村が見える。すぐにでも村に戻りたい気持ちを必死に押し殺して、厳しい顔で少女に答えた。
「約束します。ここから少しでも離れましょう」
俺とは逆に安堵した顔の少女が、子供らしい微笑みを浮かべた。