台風一過
※注意※ 台風の時は、ベランダの固定されていない物は室内に取り込みましょう。
たとえ空のペットボトルでも、落下して人体に当たると充分殺傷力があります。
「うはー! キレイさっぱり。なぁんにも無い!」
台風一過のベランダは、備え付けのエアコンの室外機以外チリひとつ無く、隅々まで磨き上げたようにピカピカだ。たぶん新築で入居した日よりもキレイになっている。
九州の地方都市、繁華街まで歩いて10分のビミョーな立地の3LDKマンションには、当然ながら地べたとしての庭は無い。
代わりに畳2枚を縦に繋いだ程度のベランダがついている。
「まあ、台風が丸洗いしてくれたようなもんだからな」
「さすが970ヘクトパスカル、パネェ」
窓を開けて暫し、相方と二人で空っぽのベランダを眺める。
あらためて見るとけっこう広い。
「なんか、こういう何にもない空間ってのも良いね。いっそこのまま何も置かないでいようか?」
「……じゃあ、リビングはずっとこのままになるわけ?」
「……やっぱ、ダメ?」
「良いとかダメ以前に、まず生活が出来ないと思う」
相方に顎でしゃくられてリビングを見れば、昨日必死こいて避難させたベランダのモノ達が、レジャーシート2枚の上にあふれている。
テーブルも椅子も押し退けたそれらをそのままに、生活するのは確かに無理だ。
「どれから戻す?」
「オリーブ様からお願いします」
花柄の軍手をはめて、相方と「現状復帰」開始。
コンクリート剥き出しのベランダに、まず照り返し対策の木製すのこを敷き詰め、おもむろに運び込むのは一番大きなオリーブの鉢植え。
小さめの樽に高さ1メートル弱のオリーブと、ランタナとキャットニップを寄せ植えにしてある。
どれも日差しを好み乾燥に強いという特徴があるもの同士。寄せ植えに相性は大切だ。
鉢底土は重さ軽減のために発泡スチロールで代用、調整済みの培養土にしっかり元肥を加えて植え付け、表面には乾燥度合いが色でわかるようにウッドチップを敷き詰めてある。これが乾いて白っぽくなってきた時が水やりの目安になる。
これを最も日照時間が長くて、リビングから一番良く見える場所に配置する。
裏が紫がかった濃い緑のオリーブの葉がさわさわ揺れる下で、オレンジ色の小花を束ねた花かんざしみたいなランタナが咲き、更にその根元をからはキャットニップの花穂が、真っ赤な猫じゃらしの束のように鉢から溢れ出す。
そのお隣に配置するのが家庭菜園(笑)
深めのプランターにミニトマト、小ネギ、ミツバをマリーゴールドとテキトーに寄せ植えしたもの。
食卓に彩りが足りないと、時々ここから収穫してくるので、我が家の家庭菜園と呼んではいるが……ミニトマトは何かの薬品の販促物でもらった缶入りのやつだし、ネギとミツバに至ってはスーパーで買った残り物の根っこをまんま植えただけで、たいして収穫もないので(笑)付きだ。
このグループはオリーブよりは水が好き。だけど鉢底に水が溜まりすぎると根腐れを起こしやすいので、管理に少し工夫が要る。
プランターの水抜き穴と反対側にかまぼこ板を1枚挟んで軽く傾斜をつけ、中の水が自然に抜けやすくした上で、ペットボトル製の簡易灌水装置を土に刺してある。
それから忘れちゃいけないハーブ園(笑)
オリーブに使ったのよりやや小さめの樽に木立のローズマリーとセージ、ペパーミント、タイム、パセリ、彩りとしてナスタチュームを寄せ植えしている。
別名「スカボローフェア」
命名理由はハーブの名前でお察しを。
このグループはそこまで強い陽射しはいらないので、お隣さんとの境目のちょっぴり日陰なところに置いておく。
最後に、屋上緑化セットとしてホームセンターで購入した袋栽培のサツマイモ(芋に期待はしてない。あくまで緑化が目的)を出して、フェンス部分から葉を外へ垂らせば、我が家の「ローメンテナンス・ガーデン」の復活だ。やっぱりベランダは灰色より木目と緑がなごむなぁ。
相方と共に窓際に座って、きんと冷たい水出し緑茶で乾杯。
いつの間にかケージを抜け出したもうひとりの同居人(?)、猫のチイコさんが、さっそくキャットニップとたわむれる姿を横目に、相方とふたりで抜けるような青空を眺めた。
さあ、またいつもどおりの毎日が始まる。