第56話 アドバイス
コウさんから時間をもらって一週間がたつ。
コウさんからの連絡は、一切ない。
私は、いつもの通り。
ワタル珈琲店に、向かった。
「いらっしゃい。」
店長の久米さんが、声をかけてくる。
「いつもので。」と言い、開いている席に着く。
水と、おしぼりを、耀輔君が、運んできてくれる。
「この前は、ごめんね。えっと・・・。聞いた?」
コウさんから、理由聞いたかを、聞いているのだけど、言葉足らずになってしまった。
耀輔君は、少し寂しそうな顔をしたが、すぐ、いつもの笑顔を見せて、うなずいてくれた。
「今日は、いつも以上にゆう子さんに喜んでもらえる珈琲とスイーツ、作ってきますね。」
と、言って、去っていった。
ほっ。
良かった。
コウさんは、ちゃんと伝えてくれたようだ。
雑誌を取りに行き、再度、席につく。
いつも通り、ネイルの新作を考える為の情報収集やきっかけを雑誌から読み解こうとした。
11月頭となれば、そろそろ、クリスマスのネイルを考え始めなきゃなぁ・・・。
クリスマス・・・。
今年も、一人かな・・・。
コウさんと一緒に居れたら・・・。
いやいや。
諦める方向で、決めているのだから、そんな甘い気持ちじゃダメだよね。
うん。
しっかりしなくては。
気持ちに流されては、ダメよ!
そんな風に、自分の中で、決心すると、耀輔君が、珈琲といつもの小倉どらやきを運んできた。
「お待たせしました。」
いつもの耀輔君の笑顔と一緒に、珈琲と小倉どらやきを並べてくれる。
「わあ!ありがとう。」
私も、笑顔を返して、「いただきます!」して、香りを楽しんだ後、珈琲を一口飲む。
うん。
おいしい。
コウさん程ではないけど、確実に、腕をあげているなと、思う。
小倉どらやきも、一口食べる。
うん。
これも、前よりおいしくなっている。
コウさん程ではないけど・・・。
て、あれ?
何故、コウさんと比較してるんだろう。私。
うーん。
感想を言わず、黙っていた私に、耀輔君が声をかけてきた。
「あれ?イマイチでした・・・?」
気まずそうな顔をして、私の顔をのぞきこんできた。
うわ!
私の好きな可愛らしい顔立ちの耀輔君の顔が、近くにきて、ドキドキする!
慌てて、感想を述べる。
「いや、とても、おいしいよ。前より、腕あがっているなーて、感じる。やっぱり、耀輔君、凄いよ!」
笑顔で、「ありがとうございます。」て、耀輔君は、答える。そして、何故か、私の左手を持ち上げて、私のネイルをなぞった。
今日は、ラッシュメドウネイル。
ラッシュメドウは、くすみ系グリーン。
中指と薬指には、ラッシュメドウで、白色で、ローズアート。
人差し指と小指には、ラッシュメドウで、少し金色を塗って、きらめきを出している。
親指は、銀色一色。
両手、同じネイルにしている。
結構好きなデザインだ。午前中のお客様も、これと同じネイルにしてほしいと、急きょ予定していたネイルから変更したほどだ。
「ゆう子さんだって、凄いですよ。いつも、手をぬかず、きれいなネイル・・・。」
手を握られたまま、少し熱っぽい瞳をむけれれている耀輔君。
私の頬も熱い。
やめてほしい。
しかし、このかわいらしい顔立ちの耀輔君に対して、ひどい言い方はできないし・・・。
どうしよう・・・。
「ありがとう。ネイルの仕事は、好きだからね。まずは、お手本にならないとね・・・。」
と、答えるのが、精一杯だった。
うーん。
「決めたんですか?」
「え?」
何の話かわからず、とっさに、声をだしてしまった。
な、な、何が?
耀輔君は、コウさんから、私とコウさんの話を簡単に聞いたことを教えてくれた。
内容は、こうだ。
お互い、理由があって、正体を隠していたこと。
それが、この前、お互いわかったこと。
そして、今後どうするか、私が時間を貰っていること。
な、な、何故?
コウさんは、そんなことを、耀輔君に?!
関係ないじゃない。
恥ずかしすぎる。
うーん。
未だ離してくれない手を、私は、見た。
まずは、この手を離してもらおうかな。
そうしないと、落ち着いて、会話もできない・・・。
よし!
「ど、どらやき食べたい。」
小倉どらやきを食べたいから、手を離してほしい!と、訴えた。
耀輔君は、驚いた瞳を向けて、私が、目で、「食べるには、両手なの!」と、目で訴えたのが、わかったようで、少しして、手を離してくれた。
どらやきを食べ、珈琲を飲んだ後、深呼吸して、私は、耀輔君に、答えた。
「決めかねてる。頭では、別れようと思うんだけど・・・ね。やっぱり、嘘って、よくないよね?」
自分が物凄く辛い瞳をして、今にも泣きそうな顔をしていることは、わかっていなかった。
愛想笑いでごまかしているって、思っていた。
耀輔君は、そんな私を見て、何か、気持ちを切り替えた様だったが、余裕のない私には、きづかなかった。
「俺は、優しい嘘なら、いいと思いますよ。」
耀輔君は、私につぶやく。
「ゆう子さんも、オーナーも、理由があったんですよね?正体を隠す理由が。それって、誰かを思いやってついた嘘なんじゃないですか?」
え?
誰かを思いやる嘘?
「ゆう子さんは、とても真面目な人だから、白か黒にしたいだと思います。でも、僕はグレイも大事だと思いますよ。」
グレイ・・・。
はっきりさせなくてもいいって、こと?
たまには、許す心ももてって?
うーん。
「頭で考えないで、一度、自分の気持ちに向き合ってみるのが、いいかもしれないですね。」
返事をしない私に、優しく声をかけてくる耀輔君。
そして、以前教えてくれた、悩んだ時やる方法を試してみたらと、言ってくれた。
今回は、自分の思いを、紙に、書きまくって、その中で、3つ重要な思いを丸つけて、更に、1つに絞る。それをやることで、自分の気持ちを整理できるんではないかなって。
そうだろうか?
でも、試してみる価値はあるのではないだろうか?
私は、耀輔君にお礼を言って、残ったどらやきを再度、食べ始めた。
耀輔君は、仕事に戻り、店長の久米さんと、耀輔君は、何やら会話をしている。
しかし、私のところには、内容は、聞こえなかった。
その内容は、私のことであった。
耀輔君は、コウさんと大人の男の話をして、私と恋人になる為、猛アピールする予定だったらしい。でも、私の辛そうな顔を見て、諦めた。
何故って、「好きな人が、幸せになってほしいじゃないですか。」そう、久米さんに、言って、「こいつー」と、じゃれ合っていた。
そのことは、私が今後も知ることには、なりそうにもない。
読んで下さって、ありがとうございます!




