第5話 偽りのお見合い④
「ふうっ。」
私、ゆう子は、ひと息ついた。
ここは、化粧室である。
あのあと、デザートも食べずに、逃げ込んできた。
平常心に戻すには、一度、落ち着くことが必要だと思う前に、席を立っていた。
あぁ・・・
私は、自分の右手を見ていた。
思ったより大きな手で、熱く、膝も、筋肉がついているみたいで、少し弾力があったな・・・
あぁ・・・このまま・・・
と、甘い思いにひたろうと思い、我に返った。
いやいや・・・。
私は、偽物。
彼が、私に好意をもっていたとしても、偽物だと知ったら、きっと許さない。
いやいや。
もともと、代わりにお見合いして、振られるのが、私の使命!
一旦、落ち着こう!
まずは、このあと、しっかり振られるようにしなければ。
なんとなく嫌な雰囲気にはできたはずだから、あと一歩。
どうしよう。
このまま黙りこんでしまうのがいいかしら。
それとも、いきなり手をつないでくるチャラ男は、お断りと、振ってみる?
いや・・・。
それは、やはり、穏便には終わらない。
このまま黙り込んで、つまらなさそうな態度をとる・・・
うーん。
それは、もう手遅れだよね。
やっぱり・・・これしかないかな?
覚悟を決めて、化粧室をでた。
「失礼しました。」
と、コウさんに声かけて、席に戻った。
彼は、食後のコーヒーを飲みながら、うなずいた。
私は、食後のデザートを食べ始めた。
アイスは、溶けていたが、ベリーがのったレアチーズケーキは、ものすごくおいしかった。
思わず、うっとりしてしまった。
「このあとどこか行かない?」
コウさんは、私のうっとりした顔を見て、嬉しそうに言った。
えっ・・・
まさかのお誘い。
タイミング逃した。
いや、ココが、タイミングかな。
「う・・・嬉しいのですけど、今日は、遅いから、帰ります。」
「少しだけ」と、誘ってくるコウさん。
うぅ・・・
そんなこと言われると、気持ちが揺れてしまう。
しかし、友情第一!
「私、今日、コウさんに会えて、本当に嬉しかったです。自分の夢を持っていて、今は、もがいているかもしれないけど、頑張っている人に会うと、私もパワーもらえるっていうか・・・。うまくいえないけど、来て良かったなって・・・。」
コウさんに、笑顔を向けて、さらに、続けた。
「そこで、お願いがあるのですけど・・・?」
コウさんは、嬉しそうな瞳で、「いいよ。」と、返ってきた。
「私を、振ってくれないですか?」
コウさんは、私の言葉の意味がわからず、言葉を探しているようだ。
「その・・・親の顔をたてる為だけに来たお見合い。コウさんは、素敵な人だけど。やっぱり、私、自分が決めた人と結婚したい。好きな人と結婚したい。そこは、親主導でなくて、自分主導でありたいな・・・て。ちょっと親不幸かもしれないけど・・・。コウさんも、自分の意志で決めるタイプじゃないかな・・・て、だから・・・?」
コウさんは、少し考えたあと、
「そうだね。僕も、ゆうちゃんと一緒で、親の顔をたてる為にきただけで、最初から断る気で、きてたよ。だから・・・安心してと言いたいけど。」
と、言い、言葉をきった。
そして、少し意地悪そうだけど、甘い笑顔を向けながら、言った。
「ゆうちゃんのお願いはきいて、親には、断りいれとくから、僕のお願いも、聞いてくれる?」
えっ・・・?
その笑顔に負けそうになり、うなずきそうになるのを必死でこらえた私。
さらに、「聞いてくれるよね?」と、コウさんの目が迫ってきた。距離も、縮まってきて、少しあとずさりしながら、私は・・・・
「うん。・・・もちろん」
と、了承してしまった。
私、これでいいのか?
優子の代わりは、果たせたのだろうか?
すっかりコウさんのペースに、持ってかれた私。
優子、許して!
私は、心の中で叫んだ。
読んでくださって、ありがとうございます。
先週末、書きためれなかったので、ゆっくり更新になりそうです。今週末には、更新したいと思いつつ・・・(未定)。不定期ですが、長い目で、付き合ってくださると嬉しいです。
書きたい気持ちは、いっぱいなので、頑張ります。皆さんに、幸あれ!