第4話 偽りのお見合い③
なぜ?
なぜ、こんなことになっているの?
私の右手は、いつでも、ドリンクが取れるように、テーブルの上に置いておいた。左手は、自分の膝の上である。
なぜか、その右手に、彼の左手がのってる。
優しくつつみこまれるように、置かれている。
あまりの突然のことに、私の心は、ドキドキが止まらない。
この年で、手をつなぐくらいで、驚いていてはいけないのだろうけど・・・
相手は、興味をもっているコウさんだ。
久しぶりのときめきだ。
免疫力がなくなっていても、おかしくない。
おかしくないけど・・・
いや、まてよ。
この手を、振りほどくべきよね?
そうすれば、あっけなく振られるはず。
よし!
そうしよう!
そう思って、思いっきり、手をふりほどこうとして・・・
彼を見た。
コウさんは、ワインに変わった残りのドリンクを、飲みながら、視線は、やや右を見ている。
今のタイミングだと、ワインこぼしちゃうよね。
どうしよう・・・
と、夜景のきれいな窓を、コウさんが来てから、初めてみた。
その瞬間、思いっきり、右手を振りほどいて、彼の肩をゆすってしまった。
その行動に、コウさんは驚いているのを、まったく気づかず、私は、歓声をあげた。
「うわー!見て!見て!コウさん、花火、きれい!」
「いつからだろ。」「全然気づかなかった」「この感じだと、もう終わっちゃうのかな?」
と、マシンガントーク絶好調な私。
しかし、そのまま固まってしまった。
コウさんを、凝視したまま、今、歓声あげた花火を見ないで・・・
なぜって・・・
コウさんは、
「一緒に見ようか」
と、声をかけながら、器用に、彼の肩に置いたままの私の右手を、自分の左手で、つかみ、そのまま自分の膝に置いた。
今日の私のネイルは、手がきれいに見えるように、肌なじみの良いヌーディーなピンク。右手の人差し指と、左手の薬指には、大小のトーンを少しちりばめて、ふちに金色でアクセントをつけている。
先ほど、コウさんから、「大人ぽくて、綺麗だね。」と、褒められた。その右手のストーンのついた人差し指を、コウさんの親指のはらで、なぞられながら、指と指をからめられた。
いわいる、恋人つなぎである。
私のドキドキは、最高潮になってしまった。
これはなに?
ただ遊ばれてるだけ?
それとも、興味を持たれてるの?
どうしていいのか、頭がまわらず、彼の膝のぬくもりと手の熱さに、鼓動のはやさは、止まらない。
コウさんは、窓の外の花火を見ている。その横顔からは、焦りも照れも感じられない無表情。本当は、何を話そうか真剣に悩んでいたため、彼は、私の震えた手には気づかないほど緊張していた。
でも、私は、そんな彼には、気づいていなかった。
目線は、窓の外の花火にあるのだが、このドキドキで、思考は停止していた。
コウさんが、話しかけてきて、うわのそらで、うなずいていた。
花火も終わり、いつのまにか、デザートと食後の飲み物が置いてあるテーブルを眺めながら、停止した思考を、呼び戻そうとしていた。
うわのそらになりながらも、コウさんの言葉を、なんとか返していたようだが・・・覚えがない。
右手は、まだ彼の膝の上で、手もつないだまま。
これをなんとかしなければ・・・
「デーザート食べたい」
「えっ?」
私は、この右手を救出しなければ、自分を取り戻せないと思い、デザートを食べたいから、離してくれと、言いたかった。
しかし、何かを話していたコウさんと私。
かなり、唐突だったらしい。
コウさんも、驚いたが、意味がわかったらしく、右手を離そうとして、ぎゅっと握った。
そして、
「約束したからね?」
と、言ってきた。
えっ?
何が?
私、何の会話してたのかな・・・
どうしよう。
覚えてない。
「・・・な・・何が?」
思わず声がでてしまった。
コウさんは、じっと私をみつめてきた。
「僕とゆうちゃんが、結婚前提で付き合う話だよ。」
と、不機嫌そうな瞳に変えて、言われた。
「そ、そんな話・・・」
してない!と、大きな声になりそうな私に、「静かに!」と、コウさんは、制してきた。
右手を、思わず振りほどきそうな力であったが、ぎゅっと握ってくれた。
「冗談だよ。今度、花火一緒に見に行こう!て、話してただけだよ・・・。」
「聞いてなかったのか」と、最後にぼそっと彼は言って、私の右手を、離した。
読んでくださって、ありがとうございます。
偽りのお見合い、まだ続きます。
不定期更新ですが、書きたくてたまらない気持ちで、いっぱいなので、なるべく早く更新します。
少しでも、楽しんで頂けたら、嬉しいです!